第5話
『王様は命令をして下さい』
「これから嘘を吐くつもりがある者は3マス前へ進んで下さい」
「なんだ、その命令」
ウサギと同じく「鬼」である容疑をかけられている犬以外はなにも言わない
恐らくやりたいことについて察しがついている
それか、全く分からないが馬鹿が露呈するのを恐れ、皆に合わせ黙っている
少なくとも騒ぐよりは得策だ
私も皆と同じく黙って待機ボタンを押した
『1つの能力が使用されました。ゲームに「負け」となった参加者は1名です。オプションが使用されました。これより5分間の自由発言タイムを設けます』
5分ってことは1,000万円…
さっきの2分と合わせて1,400万円
もし今回王様をオプションを使って取ったのなら、1,900万円を使っている
使うべきところを見極めているにしても大富豪だ
それとも、全員がこれくらいは持っているのだろうか
「宣言します。私は[犬]を「鬼」と指名しました。そして私が王様ゲームでした命令。私の駒は動いていません。これが嘘でないと証明出来ると思います」
「役職を明かしてしまって良いのか」
「確かにリスクがあるとは思いましたが、それ以上に利点があると考えました」
「交換」についてはメリットが能力を使うメリットがほとんどない
だけど「スナイパー」は?
「誰も動いていないということは「スナイパー」に狙われる心配もありません。ということで能力を明かしました。信じてもらえますね?」
穏やかで丁寧ながらも圧を感じる話し方に誰もがなにも言えなかった
「では次も指名します。次は2つの能力が使用されたと通知されるはずです」
「わたしを指名するつもり」
「はい、[犬]が「鬼」であれば[海豚]が「矛盾」であることに間違いはありませんので」
「そしたら次、わたし……あれ」
「そう、大丈夫です。「交換」なら相手が死んでしまいますから交換しませんし、今のところ参加者同士の邪魔はされていません。あなたが以降も他者の邪魔をしなければ良いだけです」
「自分が「スナイパー」に狙われるだろ」
「「鬼」が誰かを特定することが他者の邪魔になるとは考えられません」
「違うな。「スナイパー」を特定して「指名」するつもりなら「スナイパー」にとって脅威になる。それをゲームマスターがどう捉えるかは分からない」
「[スケボー]は…他者に自分の運命を預けたいんですか?」
「どういう…意味だ」
流石のスケボーも動揺している
無理もない
さっきのゲームで主催者側の男が口を奇形に歪め、歪に微笑みながら放った言葉と同じなのだから
「そのままです」
なにも知らないウサギは同じ調子で続ける
「ゲームマスターが駄目だと判断すれば「負け」なんですよ。「スナイパー」なんて便利のように思えますが、その実他者に運命を委ねざるを得ない嫌な能力です」
それは私も思っていた
だからこそ、一番なりたくない能力だと思った
ただ、「他者に自分の運命を預ける」なんて言葉、そうそう思い付くものでもないだろう
ウサギは主催者側となにか関係があるのかもしれない
それとも…近い思考を持っているだけなのか
「わたくしもそう思いますわ。ですので約束していただきたいのです。[ウサギ]、貴方はわたくしを指名しない、と」
「もちろんです」
「自分が「スナイパー」です、と言っているようなものだが」
「話しの流れを考えるのであれば誰かが[ウサギ]は「スナイパー」にとって脅威だ、と指摘するまでは少なくとも計算に入っていると考えられます。ですから、わたくしを「指名」しないという約束に嘘はありませんわ」
「それはリボン、お前の予想でしかない。確かめる術はないんだぞ。どうしてわざわざ危ない橋を渡る」
「分からないのですわね」
あのときのように悔しそうに拳を握っているのだろうと想像出来てしまう
そして私はそれに心を痛める
なにも変わらない
人の痛みを自分の痛みと考えられることは良いことであり、悪いことではない
だけど度を超すのは良くない
それでも私はこの心を失いたくはない
「スケボー、落ち着いて考えれば分かるから」
深く深呼吸する音が聞こえる
「時間もない。教えてくれ」
あのときの首を垂れる姿を想像してしまう
そんなに心を痛める必要なんてないのに
どうしてこの人はこうも優しいのだろう
割れ物のように優しく丁寧に扱わなくては早々に壊れてしまう
ううん、今までに壊れていないことの方が不思議なくらい
そっか、スタンフォード監獄実験のように、役割を演じて…
でもそれならどうして心を痛めているんだろう
どっちかが演技なのだとしたら、私はどうしたら良いのだろう




