第8話
『オプションが使用されました。これより2分間の自由発言タイムを設けます』
「話しは終わっていたのにごめんね。今回僕の駒が動かなかったことについて言い訳を聞いてほしくてね」
「どうぞ」
「ありがとう」
さっきのゲームで見せた、微笑みに安心という感情を混ぜた表情をしているのだろうと容易に想像出来る
この人物は表情のレパートリーが乏しいのだ
それが感情の乏しさを表していると思う
実際は表情筋が上手く使えないだけかもしれないけど、なんとなく違う気がする
兎に角、私はこの男が好きではない
「個人を特定するようなこと、ましてや参加者全員に第2ゲームだと教えるようなことをしてしまって、それでもきみを助ける行動が出来ていない僕になにかしようとしているのでは、と少しでも疑ってしまったんだ。本当に申し訳なく思っているよ」
そんなことを言うために400万円も使うなんて愚かな人
「ホルンがあの質問をしたおかげでスケボーは私を特定し、助けてくれた。確かにあなた自身はなにもしていないけれど、助けを呼ぶ、という行為だって十分な助けになる」
「ペンギン…」
「これはあくまで結果論だから意図については生きていれば十分聞かせてもらうけど、人を恨む心を育むくらいなら感謝する心を育んだ方が良い。だから私はあなたを恨まない」
「聖職者のような答えですね」
多分ウサギは本気で言っている
でもどこまでいっても、淡泊なんだろう
「人を恨む勇気が、負の感情を持つ勇気が、ないだけです。怒りや憎しみを知って尚赦すことが聖職者ですから、私は違います」
「知らないことを恐れることは出来ません。あなたは少なくとも一度、そういった感情を持ったことがあるはずです」
「…そうですね。あります。ありますが、覚えていないんです。それが恐ろしい感情だったということしか、覚えていないんです」
「なるほど、だからお前は友人が処刑された日も泣かなかったのか。心穏やかでいられない自分を知っているようで知らない。だからお前は、自分が怖いのか」
「友人…友達…」
それって誰のことだろう
『2分が経過しました。第9回王様ゲームの王様を決定し、賽を振って下さい』
「親しい人が死んだら悲しいってなにかに書いてあった。でもさっきのゲームで死んだ人の死を悲しもうと努めても、なにも起きなかった。私に友達なんていたのかな」
聞こえていないと分かっていても、問いかけていた
一体誰に問いかけたのだろう
誰が答えをくれたと言うのだろう
『これは他の参加者には聞こえていません』
急に聞こえた声に思わず肩を震わせてしまう
『死者の時間は進みません。思考は更新されません。しかし、貴方が変わって貴方が望めば、友達になれると思います。友達の定義は、人それぞれですから』
「こんなことをやっている人に言われても…」
『ひとりの参加者が教えてくれたんですよ。悪人顔出来なくて申し訳ないですが、僕だって帰りたいんですよ。それで言いたいんです。離してしまった手を握って、友達になって下さい、と』
「帰りたいって…どういうことですか」
『警告します。[ペンギン]賽を振って下さい。これ以上の遅延行為は「負け」とします』
ぼんやりと震える手でボタンを押した
主催者側としてゲームを進行している者もまた、この場に身を投じなくてはいけない理由がある
しかもあの言い方は強制だ
一体なにがあって、そんなことになったのか
それは私にも、私たちにも、起こりうることなのか
怖い
知って苦しい思いをするなら、知らずに死んだ方が良い
だって、彼がいじめられるようになった元カーストトップの女子と仲良くしているのを見て私は多分、嫉妬した
彼があんな風に笑うなんて、知らなかった
それも、嫉妬も
私は知りたくなんてなかった
『王様は命令をして下さい』
しまった、全員の進んだマスの把握をしないと
[スケボー]4マス
[ウサギ]1マス
[蝶]3マス
[海豚]2マス
[ペンギン]0マス
[犬]3マス
[針鼠]4マス
[ホルン]4マス
スケボーとホルンが「能力なし」は確定
ここで走らなければ、ウサギに敵とされてしまう可能性がある
能力は2択だけど、「指摘」は2連続で間違えなければ良い
2択なら全く問題ない
蝶は残りのマスを考えて全てを4にする必要がないと考えただけかもしれない
でも、ここで4を出しておかないと怖いことを分かっていない
彼とウサギは似ている
彼なら4を出さなかった蝶を攻撃する
「ロビンソン・クルーソーが主人公の物語の正式なタイトルを言える者は3マス戻る」
…そんなこと、覚えていたの




