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エロエス物語  作者: 青赤河童
一章 1人の物語
4/7

四話 暗闇

 昼食の後。


 アントニオさんとマリアさんは買い物に出かけた。街並みを見るために自分も連れて行って欲しいと伝えたが、この村は顔見知りの人ばかりで、いきなりよそ者がいくと警戒されてしまうからと断られてしまった。


 そのため俺は一人で留守番をしている。よそ者に留守番を任せるのもどうかと思うけれど。一応信用してくれているのだろう。


 特にすることもないので、朝起きた部屋に戻ってベッドに寝転がる。


 疲れた。まだ起きてから半日しか経っていないのに。きっと、いろいろ考えることが多すぎたからだろう。


 そのまま目を閉じて脳を休ませる……





 暗闇の中で男の子がぽつんと体育座りをしている。その前にはテレビがあって、アニメが流れている。

 時には笑いながら、時には泣きながら、時には真剣に。アニメを見つめる男の子の表情はコロコロと変わる。

 そこに女性がやってきた。彼女は怒鳴り散らしながら、男の子の頭をはたいた。そして、テレビを消した。


 あぁ、あれは昔の俺だ。夜中にアニメを見ていたのがばれて怒られたんだ。そんなものを見ている暇があったら勉強しろと。ただでさえ頭の出来が悪いんだから。


 俺は泣きながら去っていく。周りの暗闇はより深くなっている。その闇の中で俺は泣きまくる。顔をぐしゃぐしゃにしながら。


 ひとしきり泣いた後、光の差している場所へと俺は歩き出した。

 俺の周りには絶えず五、六人の男女が集まっている。俺の顔もさっきとは打って変わってキラキラと輝いている。いや、輝いているように見せている……。


 そして俺はまた暗闇へと歩き出す。

 ご飯を食べる。箸を落とす。それだけで殴られる。

 扉を閉める。少しでも音が出れば怒鳴られる。

 死にたくなる。でも死んだら負けな気がして。少しでも何かにすがりたくて。俺は部屋にこもって静かにノートを広げて魔法陣を書き続ける。


 その隣で微かな輝きを放っている人物がいる。その人物は俺を励ますように何かを話しかけている。俺よりも小さい体で一生懸命に話しかけている。

 けれど、その輝きでも俺の周りに蔓延はびこる暗闇を一掃することはできない。隣にいた彼は去っていく。


 またしても暗闇。闇。闇。闇。どこまでも暗い。


 俺はおもむろに鈍く光る何かを持ち出す。

 そしてどす黒い色をまとった二つの巨大な影に近づいていく。気が付かれないように。静かに。そして俺は手に持っている何かを巨大な影の前で振り上げた――






「はぁ、はぁ、はぁ」


 呼吸が乱れている。目を開けると部屋の中はいつの間にか暗くなっていた。目を閉じてそのまま眠ってしまったらしい。留守番を頼まれていてこれでは面目めんもくない。

 横になっていた体を起こす。すると部屋の扉をたたく音が聞こえた。はい、と俺が小さな声で返事をすると、扉が開いてランタンを持ったアントニオさんが入ってきた。


「留守番をしていただいてありがとうございます。夕食の準備ができましたよ」


 アントニオさんは暗闇に負けない、にこやかな笑顔をたたえていた。これまで見てきた笑顔となんら変わりはなかったのかもしれないけれど、さっき見た夢の影響も相まって、少しばかり輝いて見えた。


「すごい汗ですよ。大丈夫ですか?」


 近づいてきたアントニオさんにそう言われ、気が付いた。寝ている間にすごい汗をかいていたようだ。


「大丈夫です。少し悪い夢を見てしまいまして」


 言ってから、これでは留守中に寝ていたのがばれてしまうじゃないか、と思ったがアントニオさんはそのことについて特に何も言わなかった。


「それは大変でしたね。もし体が気持ち悪いようでしたら先にお風呂に入っていただいても大丈夫ですよ」


 親切すぎる。もう申し訳なさで胸がいっぱいだ。


「いえ、せっかく夕食を用意していただいたのなら、冷めないうちに食べたいです」

「わかりました。では、食卓へ行きましょうか」

「はい」


 朝と同じように俺はアントニオさんの後ろにくっついて部屋を出る。

 食卓へ向かう途中。いやでもさっき見た夢を思い出してしまう。せっかく別世界に来たのに、昔のことにとらわれているなんて。そう思うけれど、そう簡単に消せる過去でもない。

 徐々に徐々に、この世界に染まって昔の出来事は消し去れたらいい。暗闇を眩しいくらいの光に変えたい。ふとそう思った。


 夕食はパンと肉、野菜のスープだった。

 食事中は俺のいた世界の話をした。アントニオさんとマリアさんは興味深そうに、時に困惑し、終盤は混乱しながら俺の話を聞いていた。こことは全く別の世界なので当たり前だ。

 その流れで俺自身の話もした。本当は話すつもりはなかったけれど、自然と口から零れ落ちてしまった。こっちの話は二人とも真剣に、親身になって聞いてくれた。孤児院をしていただけあって、子供のことは好きなのだろう。自分の子供に暴力を振るうなんて考えられないというようなことを言ってくれた。


 そんなこんなと話しながら、夜の明るい食卓は過ぎていった。

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