一話 雄治
この五年間、家にいることが嫌で嫌で仕方がなかった。四六時中両親から罵声を浴び、時には暴力を振るわれることさえあった。
きっかけは小学五年生の頃。自分で言うのもなんだが、その頃まで俺は勉強も、運動も優秀なほうだった。
けれど、小五の頃から段々とテストの点数が悪くなっていった。100点を取るのが当たり前だったのが、90点、80点、70点と徐々に下がり始めた。
すると、それに比例するように両親の態度が変わっていった。それまでは「雄治は偉いね~」とか「雄治は将来有望だなぁ!」とか、そんなことを言いながら笑顔を向けてくれていた。それが「お前は無能だ」とか「なんでそんなこともできないのっ!」とかそんな言葉に変わっていった。
中学校に入学してからも成績は伸びなかった。それどころか運動も周りの人のほうが伸びがよく、決して優秀とは言い難くなってしまった。
勉強も運動も平均的。特に秀でたところのない俺に、両親は侮蔑の眼差しを向けた。俺を優秀な人間に育てたかった両親にとっては、何の取柄もない俺はさぞかし気に入らなかったのだろう。
徐々に暴力を振るわれることが増え、家では家族に会うのを避けながら生活するようになった。必然的に自室に籠っていることが多かった。
なるべく怒らせないように。なるべく気に障らせないように。なるべく静かに。
でも、そうすることで親の罵声がなくなったかというと、そんなことはなかった。俺が原因でもないのに、ただただ八つ当たりされることも多々あった。
家では、ともすればゴミみたいな扱いの俺だったけれど、家以外では気丈にふるまった。学校では笑顔を絶やさず過ごした。調子に乗って下ネタを言いまくったり、女子をからかいまわしたり。どのクラスにも一人はいるような、愛される悪ガキみたいな自分を作った。家での境遇を周りに悟られないように。家でのことがばれてしまったら、学校でも侮蔑され、この世界のどこにも自分の居場所がなくなってしまうような気がしたから。
外で過ごしているときの仮面は上手く作れていたと思う。実際自分の周りには常に人がいたし、友達も多かった。悪ガキといっても、規則に反するようなことはしなかったから。そういった部分も周りから好かれた要因かもしれない。ただ家に報告されてしまうのを恐れていただけだけれど……。
そんな俺には秘かに抱いている思いがあった。
それは中学一年の時に偶然見たアニメの影響だった。そのアニメは主人公が異世界に転移して冒険をし、魔法を放ってモンスター達をなぎ倒していくというアニメだった。颯爽と敵をなぎ倒していく姿に俺は羨望の眼差しを向けていた。
今まで全然アニメを見てなかった俺にとってはこのアニメはすごく新鮮だった。この主人公みたいに強く自由に生きてみたい、こんな世界があるものなら行ってみたいと本気でそう思った。たぶんそれは、その頃から暴力を振るわれ始めて、精神的に参って藁にも縋る思いだったからかもしれない。
そのアニメを見てから、毎日暇があればノートに魔法陣を書いていた。それを書いていれば、いつかどこか別の世界に行けるかもしれないと思ったから。
この世界を抜け出して別世界に行きたい。中学の三年間秘かにずっと抱いていた思い。
途中でバカだなぁと思うこともあったけど、あの日見たアニメの輝きを忘れられず、なんだかんだで約三年書き続けた。正確に数えたことはないけど、もう何万個と書いたはず。
三年ともなれば別世界に行けるという期待は、魔法陣を書き始めた頃に比べれば薄れていた。けれど、書いているだけで心が落ち着く。魔法陣を書くことは精神安定剤のような効果も生まれていたから、それもあって書き続けたのだと思う。
だから今日も魔法陣を書いていた。いつものように淡々と。
――気が付いた時には見知らぬ場所にいた。
初めまして。青赤河童です。
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