空中都市 アクーロリア!>>1
―― アルスティナの世界
――― 天空都市・アクーロリア 上空
「ふわああああっっ!!?」
「そんなに怖がる必要ないのにゃ~。」
「無理だってぇええぇええ!!!」
拝啓。家族のみんな。
先立つ不幸をお許しください。
ロレスさんに助けられ、軽い説明を受け、強制連行をされています。
今はね、積乱雲のように分厚くて大きな雲の上にある都市めがけて、程よい速さで落ちています。
隣には、空猫のルーカスがいます。因みに、ロレスさんは、私の受け入れをする為に少しばかり先に都市に降りて行きました。
嫁入り前の私が顔の穴という穴をかっぴらいて落下…一体全体、これからどうなることになるのやら…。
「無理無理無理! 死んじゃう死んじゃう!」
「向こうの世界ではアマネはもう死んでることになってるのにゃ~。 面白いことをいうのにゃ~。」
ルーカスうるさい!!パタパタ耳を動かして飛んでるところは可愛いけど!!
てか、大体何が弟子なの?本当に意味分かんない!説明受けたけど!!
私は、確定された死を受け入れるか、ロレスさんの弟子になるかの選択を迫られ、その答えが今の状況になるわけです。
私なんかがどうこできる問題ではないけれど…ほら…なんか放っておけないって言うか…。私が出来ることをしたいって思ったのと、ロレスさんが本当に必死だったから。
死んだことも、凄い人の弟子になって勇者として世界を護ることも実感ないの。けれど、半分開き直りで頑張ることにした!うん!
「って、呑気に振り返ってる場合じゃなあああい!」
―― 天空都市 アクーロリア 東門付近
決死のスカイダイビングは、ルーカスの魔法によって穏やかに地に降りることで終わった。
私は今、四つん這いになって荒いだ息と気持ちを整えている。パラシュートなしスカイダイビングは怖すぎるよ!
「ここが! ロレス様が治める水の空中都市、アクーロリアなのにゃ!あの1番大きな建物がロレス様の居城なのにゃっ。」
余裕がない時に、都市の全体は見えた。まるで、ファンタジーの中で描かれる中世のヨーロッパのような街並み。水路も交通手段として使われているみたいだったよ。ここ雲の上らしいけど、どうやってるのかな。てか!
「ごめんね、ルーカス。 今、そんな余裕ない…。」
「そうなのにゃ? とりあえず休んだらお城に行くのにゃー。」
このお猫様は一応気遣いは出来るみたい。
そう考えていると、すぐ隣…ルーカスがいる所からボフンっと言う音が聞こえ、そちらに視線を向ける。
「アマネ! お水飲むかにゃ?」
それと同時に、金髪のショートヘアの10歳~12歳くらいの女の子が顔を覗き込んできた。綺麗な青い瞳は、澄んだ空を連想させるかな。
「…へ?こ、この声…ルーカス?」
「そうなのにゃ。」
フリルやレースがあしらわれている白いワンピースに、長い翼の耳が生えてて、空色の大きな瞳。声は…ルーカスだ。
「ニャーは、空猫の希少種、神獣空猫なのにゃ。空猫は神気を持つから人間の姿に変身するのなんて造作もないのにゃっ!」
えへんっ!とばかりに胸をはるルーカス。
「な…慣れなきゃ…やってけない…。」
「とりあえずお水を飲むのにゃ!」
よし、大分息も整ってきた。
座り直してルーカスを見ていると、彼女は手を出す。すると、どこからともなく水が現れ、野球ボールくらいの球体になってふよふよ浮いている。
彼女が手を私の方に傾けると、球体の水はゆっくり私の所へ移動してきた。
「これ…?」
「飲むのにゃ。ニャーのお水を飲めるのなんてとってもすごいのにゃ!アマネは特別なのにゃ。」
とりあえず言われた通りに、球体に口をつけて飲んでみる。すると、それがとっても美味しい!体の中が浄化されて行くような感じがする。
「お水って…こんなに美味しいんだ。」
「神気で創造された水は、もはや聖水なのにゃ。」
「ねえ、ルーカス。 神気ってなんなの? 魔法とかあるなら魔力なんじゃないの?」
素朴な疑問を投げかけながら立ち上がり、小さなルーカスを見ると、彼女はにこっと屈託なく笑った。
「魔力は魔力でちゃんと存在するのにゃ。因みに神気と魔力は似て非なるものなのにゃよ? 」
「似て非なるもの?」
「そうなのにゃ。国を覆うほどの結界を展開できる王宮魔導師長100人分の魔力が、神気1の相当するのにゃ。」
うん、分かんない。実際、目にしてないから実感がないけれど、聞いてる限りすごいと思う。想像出来ないけど。
「因みに、さっきのお水は神気で作ったんだよね?」
「正確には#神力__しんりき__#だけれど、そうなのにゃ。」
「途中で気になること言わないでよ…。」
「気にしないのにゃ。どうせ、後でみっちり叩き込まれるのにゃ~。」
「…マジか…。」
うなだれる私に、ルーカスは笑うと改まった様子で口を開いた。
「因みに! さっきのお水は神力1に相当するのにゃ!」
「国丸々結界で囲えちゃうほどの量の力が…。」
んなすごい容量の水飲んで後でお腹壊さないかな。
「さあさあ! もうそろそろお城に向かうのにゃ。」
「えっ!? ちょっと待って!」
そう言って、ルーカスは東門をくぐる為に歩き始めた。私も慌てて着いていく。
―― アクーロリア
――― ミストレイ水城
「ふわー…!」
外壁は白、屋根は綺麗な水色。
左右対称な造りで、城のいくつかの塔からは水が流れている。まるで大きな1枚の絵画のような情景に思わず声が出てしまった。
「ねえねえ! ルーカス、あの一番大きな塔の周りにある輪っかって何?」
私は指を差した。
一際立派な塔の周りには、水色の光り輝く文字列が円になり、ゆっくりと回っている。その円が交差しながら2つだよ。とっても幻想的だよね。
「あれは、この都市を守るための結界の1つなのにゃ。」
「へぇー…!」
「九貴神様が治める8つの都市は、虛の襲撃ポイントの近くにあるから、とっても強力な結界がいくつも貼られているのにゃ!」
ん…っ?んっ!?
待って。今の発言の中でおかしい所が2つあったよね。特に後者について問いただしたい。
「ルーカス。」
「なんなのにゃ?」
「九貴神サマ? は9人いるんだよね。」
「そうなのにゃ。」
「なのに都市が8つ?」
「あー、説明するのにゃ。 九貴神の長であるゼロ様はアルスティナの中心に建てられている九煌城に住んでおられて、アルスティナ全体に結界を張っているのにゃ。 都市を治めてはいないけれど、いつもニャー達を見守っていて、窮地には必ず助けに来てくれるのにゃー!」
長の名前、ゼロさんって言うんだ。初耳。
でも、目を輝かせながらゼロさんのことを語るルーカスの様子からして、相当すごい人なんだろうなぁ。
まあ、こっちの疑問は解決したとして。
「それで? さっきの話からして虛が襲撃するポイントの近くに都市があるんだよね?」
「そうなのにゃ。」
「どゆこと?」
「言葉のままなのにゃ。」
「詳しく。」
「? アマネ、気が怖いのにゃ。」
「あっったりまえでしょ!?普通、襲撃ポイントに都市構える!?それにこれから修行する都市に一番厄介で最悪な虛が襲撃してくるって!修行どころか生活してられるかっての!!!」
「にゃひぃい!!」
「ねえ! 死!? また死ぬの私!?」
ルーカスに掴みかかる勢いでまくし立てていると背後から心地のいい風が吹いたかと思うと、優しい声が聞こえた。
「それは僕から説明させてもらおうかな。」
「マートスううー! アマネが怖いのにゃー!」
振り返ると、そこには私と同じ歳くらいの水色の髪の綺麗な顔をした男の子が立っていた。
その男の子を見つけるやいなや、男の子の名前らしきものを呼んでルーカスは、マートスの背後に隠れる。
「初めまして、僕の名はマートス。 ロレス様の使役獣だよ。 番の代わりに僕が説明するね。」
番…?え?誰の?
色々と困惑しているとマートスと名乗った男の子はニコッと笑って、ルーカスを指さした。
「ルー…ルーカスは僕の妻だよ。 僕も空猫なんだ。」
ぬあああああ!?!
私なんて彼氏出来たことないのにいいいいいい!!!!
「また固まったのにゃ。」
「あれ? なんでだろう?」
「アマネはよく固まるのにゃ。」
「地球を含む世界の人達はよく固まるのかな?」
「さあ? 分からないのにゃ。」
――――――――――
――――――
ショックから回復した私は、マートスとルーカスにお城の中を案内されつつ説明を受ける事になった。
なんでも、九貴神の長であるゼロさんがわざと結界を薄く、脆くしている場所があって、その場所に虛の襲撃を集中させているらしい。最初は都市なんてなくて、各九貴神だけがそのポイントの近くに住んでいたらしいんだけれど、段々と英霊と呼ばれる人達が集っていつの間にか都市になったんだって。
もう少し、アルスティナについて詳しく聞いたんだけどね?
この世界の中にあるいくつかの小世界、つまり世界の中にある地球みたいな感じき。
いくつかの小さな世界が存在していて、各小世界の中心のノクティナと言う小世界に私や九貴神はいるんだって。
と、言うことはこういうこと!
―― アルスティナ
―― 小世界 ノクティナ・空中都市 アクーロリア
でっでーん!ゲームみたいだよね。ややこしいよね。
私も慣れるから頑張って!……はあ。
これも虛の襲撃ポイントを絞る為らしいけれど、十中八九ノクティナに虛が来るかって言うとそうでもなくて、たまに違う小世界が襲撃を受けたりするらしいの。その時も九貴神の誰かが虛を倒しに出向くんだって。主に都市を治めていないゼロさんが。
守備範囲がとんでもないよね?てか、ゼロさんの強さえげつなくない?
まあ、なんやかんやで護りやすいから都市の近くに虛の襲撃ポイントがあるらしいってこと。
「この世界は、九貴神様達のお陰で無事なんだ。」
猫の姿に戻ったルーカスを抱いて、前を歩くマートス。
彼は丁寧に説明してくれて、私にも何となくそれは伝わった。
けれど、話を聞く限り九貴神様達の負担が大きすぎない?
「ねえ、私が言うのもなんだけど、九貴神様達だけに頼ってたらダメなんじゃないの…?」
「うん。 だからこそ、英霊達がいる。」
「英霊?」
マートスは立ち止まって振り返った。私も自然と足を止めてマートスを見る。
「英霊って言うのはね。 ノクティナにおさまらず、アルスティナ全てから集められた者達のことを言うんだよ。」
「アルスティナ全てから?」
「そう。 皆英雄と呼ばれるに相応しい強さと心を持っていてね。 九貴神様に選定され、英霊になる事を勧められる。 それを承諾したなら天命をまっとうした後に、ここに召し上げられ、九貴神様達と一緒に世界を守る。」
「それって…ある意味、勇者じゃないの?」
「そうとも言うかもね。 けれど、彼らは九貴神様直々に教えを授けられるわけじゃない。」
そう言うとマートスは微笑んで、また歩き始めた。私も慌てて後をついていく。
ロレスさんがすごく物腰柔らかだから忘れてしまいがちだけれど、九貴神と呼ばれるすごい人なんだ。
私と九貴神を知る人との間でなんだか温度差があるように感じるけれど、こればかりは仕方がないと思う。
「アマネ。 キミはロレス様の目に止まって選ばれた。 それはとても凄いことだよ。」
「そんなことを言われても…正直実感がないよ。」
「ふふっ。 その内嫌でも実感が湧くさ。 最初は大変だけれど頑張って。 さあ、ほら着いたよ。」
またマートスの足が止まり、私も立ち止まって前を見た。
そこは中庭で、見たことがない綺麗な草花が咲き乱れている。そして、その中庭の中心には、こちらを優しい眼差しで見ているロレスさんの姿があった。
「ロレス様から話を聞くといいよ。 行っておいで。」
「う、うん。」
マートスに促され、私はおずおずとロレスさんの元へ歩き始めた。中庭に入った瞬間、少し驚く。
涼やかで気持ちがいい。呼吸もすごくしやすいし、体が軽くなった感じがする。その感覚を全身で感じながら、ロレスさんの前で足を止めた。
改めて実体のロレスさんと対峙する。
なんでも私の前に現れたのは、ロレスさんの形を持たせた思念体だったらしく、当のロレスさんは地球全ての時間を止める為に、大気圏外にいたんだって。
背は170cm後半くらい。少しタレ目で、優しそうな雰囲気を漂わせてる20代後半くらいのお兄さん。右目尻に泣きぼくろがある。
近付いて分かったけれど、この人の回りの空気がとても澄んでる。まるで、気持ちのいい朝に森を散歩しているような…。
「よく来てくれたね。 アマネちゃん。」
「…!」
生の声を聞いた瞬間、清らかな風がそよいでいったような感覚になる。なにこれ…声を聞いただけなのに、すごく心地いい。
今まで感じたことのない心地よさに戸惑う私をロレスさんは相変わらず、優しい微笑みを浮かべながら見つめてくれていたのだった。
〜完〜