表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平家蛍と甘い水  作者: 秋の桜子
7/12

 ほ、ほ、ほーたるこい


 あっちのみーずはにーがいぞ


 こっちのみーずはあーまいぞ


 ――――サラサラ取り巻く水の音、遊ぶ様に舞う小さなホタル達……


 現実逃避したい俺、訳ありだろう、しがみつく女の子、イワガミ様とこっちも訳ありの男の子、


 果たして何時迄俺の精神は耐えられるのか、甚だ怪しい環境だ。


 そんな俺の事情など関係なく、とつとつと冷たい声が流れている。


『ここに集うホタル達は無垢な魂、幼き子の魂』


 ふわりと小さい光の姿へと男の子が変え、イワガミ様の周りを舞うと俺の元に来る。


 しかし女の子が邪魔なのか、少し離れて漂っている。


「器って事は、この子を俺の中に入れるって事ですか?」


 俺の問いかけに重々しく頷く神に一応何故と聞いてみる。


『私の務めは幼き魂を癒し天へと返すのが役目、しかし最近ここに集まる幼き者に過酷な記憶を持つ者達が増えました』


 あー、あれか、目の前のホタル、男の子の記憶、そうか、この子は……


『癒して天へと返しても、再び同じ運命の憂き目にあう、幸を知らない悪循環の者もいます、その子はそんな子の一人』


 ……マジかよ、生まれ変わっても同じ運命って、親は選べんって言うけど、前世の記憶は無いだろうが、そりゃ可哀想だろう。


 天の神様もちょっとは何とかしてやれんのか?


『なので私は考えました。無垢な魂は何色にも染まります。なので生まれ変わるのではなく、今幸せな者の体に入れてやろうと、そしてこれはこの世を清浄に導く事になるのです』


 はぁ?とんでもない展開になってきた。清浄な世界、何だそれは?


 俺は既に限界点突破しつつある中で懸命に聞いた所によると、


 虐げられた幼き無垢な魂を、自ら人生を歩ける年齢の者にまず入れる。


 それは無垢故に体の持ち主の魂と混ざることが出来るらしい。しかしここで疑問が、何故に俺みたいなのが?聞いとこう、とりあえず。


「何故大人?何ですか?器は」


『それはですね、幸せな子供に犠牲を求めるなど、可哀想なこと出来ません』


 冷たく微笑みながら話して来る。その声が耳から入るにつれ、意識を持ってかれる感覚がする。


「とんでもない事に巻き込まれてますが、でお聞きしますがこの子と1つになったら俺はどうなるのですか?」


 俺はふらつきかけた意識の中で、神に問いかけた。


『それはわかりません。貴女の自我を保てるかどうかは私の知らぬこと。ただ1つ言えることは無垢なる者を入れたヒトは清らかなる心の持ち主になるということ、無慈悲ではなく、他者を虐げる事のない者に、世界が清浄へと進みます』


 知らぬことって、アカンやつか?さっき、犠牲とか素敵な単語述べてたしな、


 子供とはいえ、乗っ取られたら俺オンリーでは無くなるのだろう。


 ぼんやりし始めた頭に手をあてる。1つの疑問、どうやって入れた?ここに来てからか?


『貴女は既にその子が入ってますよ、自ら入れたでしょう?』


 神は俺の心を読んだかのような事を言い出した。はっ?自ら入れた?何か嫌な予感しかしないな。


『ここの水は私の聖域、清らかなる水、無垢な魂とも合う、無垢な魂は混ざり合う事が出来る』


「まさかと思いますが、あのペットボトルの中身とでも?」


 にっこり笑って肯定しやがる神、おそらく入り込もうとしている男の子の光、そういえば俺を守ってるだろうこの子は何者だ?


『貴女達、もう邪魔してはいけませんよ、貴女達は可哀想ですが器に入る事は出来ません、1つのに重なってますから、気持ちはわかりますが、その者から離れなさい』


 神が女の子に諭すように言う。その言葉に何か引っ掛かりを感じる。大切な大切な何か、


 首をふり離れようとしない女の子、その顔を見る。しっかりと、でもダメだな、限界か?朦朧としてきた。このままだと、俺オンリーは消滅だな。


 神が彼女を俺から引き離しに近づいてくる、その距離に比例して、とろりとした眠気が満ちて来る。


 さぁ、と神が彼女の腕を取る。まさか新盆の者と縁が有るとは少々うかつでしたね。昨日は8月7日の道がつながる日でしたし。と神が話している。


 新盆、ぼんやりと考える。重なる二人、女の子、あの話してから直ぐだったな、色々なパスワードが組み立てられてゆくが、それはすごく遅い。


 引き離され泣き顔の彼女がぼんやりと視界に入った時、久しぶりに名前を呼びたくなった。


「莉子」


 それは妹の名前、去年の秋に事故で死んだ妹の名前、神は貴女達ってたから多分あの子の名前でもある名前………


『お兄ちゃん』


 声が聞こえた気がした。少しなまいきな妹の俺を呼ぶ声、それと小さな声も、


 伝えて欲しいと妹の声を借りて俺に話してきた。


 神が何か話をしてるが、俺はもう何もわからなくなっていた。








































評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ