邂逅
俺は暗闇の中の、ずぶ濡れで倒れていた。あの子の姿で倒れてる。
ひどく寒いくてざーざーと嫌な音が耳元で鳴ってる。薄れる意識の中で最後に目にしたのは、
水で濡れた風呂場の床とおとうさんのあし…………
――――『困りましたね、無理を言ってはいけません』
何処かで聞き覚えのある声が聞こえてくる。
意識が戻るにつれ俺の体の周りにサラサラ流れる水の感覚があることに気がつく。
自分が濡れてる事が夢の中の事と重なり人生において最も最悪な目覚めを迎えた。
目を開けば辺りは夜なのか闇の中、空には星さえ見当たらない、ただ小さなホタルが無数に舞う。
起き上がろうとすると、昨日夢に出てきた女の子が俺に覆い被さっている。
………「あ、の、一体何が?」
半身を起こしながら頭を振ると辺りを見渡し現状を確認する。
その場に居合わせるのは、俺にすがる女の子と、傍らに立つ淡い光を身に纏う何処かで出会った女の人。
辺りはサラサラと流れる川の浅瀬、
暗闇にもかかわらず薄明かるいのは舞いかうホタル達の光……
『目が覚めましたか?さぁ側を離れなさい、この子に悪いでしょう』
その言葉と共に光漂う水面からふわりと夢の中の俺であり、昨日バス停で出会った男の子が現れた。
取り巻く状況について行けなくなる俺、昼間「イワガミ」様で何か失礼な事でもしたのか?
確か「ケガレ」を嫌うってたから、よっぽど俺はダメな奴なのか?等と頭の中は迷宮状態に陥る。
離れる様言われた女の子は更に必死の形相で、無言で俺の首元へとしがみついてくる。
「君はもしかしたら喋れない?」
俺の問いかけに口を開くが言葉が形にならない、もどかしげな様子な彼女、見るだけでも可哀想なので、
とりあえず目の前に言葉が通じるであろう御方がいるのでそちらと話しをすることにした。
「昨日出会ったあのお母さんですよね。それと男の子も」
「そうですよ、仮の姿でしたけど」
清浄故に冷たいモノを放ちながら優しく答える母親。
仮って事はアレだな。男の子もアレか?ということは、この子もアレだな、とっとと聞いておこう………
「え、と、貴女様は、幽霊とかじゃなくて、もっと清らかな……貴女様は「イワガミ」様ですか?」
俺の問いかけににっこり微笑んで頷く目の前の神様、ぶっ飛んだ世界に目眩を起こしそうになる。
「神様にお会いするのは初めてですが、その男の子ですが」
幾分丁重な言葉使いで一つ一つ疑問を片付けて行くことにした。
『この子の事は貴女の方がもう良く知ってるかと思いますが』
冷たい温度を含んだ声で話して来る。流石神様だな。そう、知ってるかと言われれば肯定しか出来ない。
夢の中で彼は俺で、思い出すと何かが壊れそうな感覚に囚われる。
そして、何故だかこれ以上話しては行けないと本能が働きはじめる。黙り込んだ俺をしかと確認する「イワガミ様」
『本来なら此方に連れて来なくても良かったのですが、貴女はその子達に縁が有るので、仕方なく来てもらいましたが』
冷え冷えとした沈黙が全てを包み込む、当然しがない人間の俺はいたたまれず本能に逆らい話すこととなる。
「………色々聞きたい事はありますが、取り敢えず俺に何を求めてるのですか?」
『求めてませんよ。何も、貴女はこの子の器なのですから』
男の子の肩にふわりと手を置く神様、気のせいか彼は少し透けてる様に見えるぞ!いや、透けてるな……
てか、今とんでもないぶっ飛び発言したぞ!器って一体何なのだ?最早ファンタジー?ホラー?
どっちか要素満載の話で目眩を通りすぎ、倒れそうになる俺
「失礼なのはわかってますが、出来ることなら説明して欲しいんですけど」
『この子の事ですか?』
違うだろう、神様は天然か?思わずツッコミ入れたくなったぞ!違うだろう、そこは。
「いえ、彼の事ではなく、先程言ってた、器の話ですが」
俺は辛抱強く聞くと、知らない方がいいかと思うのですが、と始める「イワガミ様」なら話すなー!
『器の事ですね。それにはある悲しい理由とそれを絶ちきるべく行って来た私の計画の為なのです』
あーなんだ、嫌な予感しかしない……
耐えろ!耐えるんだ。俺!