夢
「お兄ちゃん緑の絵の具がなくなった」
夏休みのポスターを描いてた妹が緑の絵の具を買いに行けっと言ってきた。面倒くせー、
「青に黄色混ぜて作れよ」
ぶぅっ!と膨れっ面で絵の具を混ぜて作った緑色……
――――食事も終わり、明日の計画もバッチリな俺は、ホクホク気分で部屋に戻り、風呂に入ると夕涼みがてら外に出てみた。
街灯など無い、辺りは漆黒の闇色、なので夜空を見上げると、
「おわぁぁぁ!こりゃスゲーわ!」
思わず雄叫びが上がった!「星降る」ってこういう事なのかー!
天の川もまさに「ミルキーウェイ」煙って見えるぞー!プラネタリウムよりやっぱり天然は凄いぞ!
俺はしばらく星空を見上げていた。聞こえるのは車の音など無論無い。
草むらからチッチ、チッチ、スィーチョッスィーチョッ、他にも多数聞こえる虫の音、せせらぎの音………
―――――別世界、そんな言葉が頭によぎった。
しばし堪能してから部屋へと戻ると、此処である事実に気付いた。
しまった!風呂上がりの一杯が!仕入れるの忘れたー!激しく後悔の念が沸き上がる。
先程夕食をとった店まで行けば猪の隣に自販機が置いてあるのを確認しているのだが、近いけど出たくない
なので部屋に置いてある小型の冷蔵庫をダメ元で開けてみると、中にはペットボトルが数本入れてある。
あれ?これって昼間貰ったヤツだよ、間違いないな。
キンキンに冷えてるそれは、昼間男の子から貰った物と同じ物か?手に取りよく見てみる。
ここの渓流の写真がプリントされてるラベル、昼間はろくに見なかったが、この村の名前が小さく書かれていた。
村起こしの一品かなぁ?最近流行ってるし、とりあえず喉も渇いてる事だし冷えてるし!炭酸じゃあ無いのが残念だけど………
キャップを外して一口、甘味のある水、
うん、昼間貰ったのと一緒だ。これ美味しいな、コンビニとかじゃ見たこと無いけど
口当たりの良いそれを半分程を一息に飲み干すと、部屋の灯りを消し窓辺へ座り込んだ。
ひんやりとした川風が部屋へと忍び込んでくる。とろりとした眠けが体を包む………
夏だしこのまま寝てもいいやと横になる。
飲みかけのペットボトルを空にすると、そのまま畳の上で眠りについた。
―――――夢を見た、夜の草原に俺は小さな女の子と共にいた。二人の周りには小さなホタルが舞っている。
…………誰かが泣いている?ふと傍らに目を落とせば、昼間出会った男の子がしゃがんで泣いていた。
――――ぼく、いちゃダメなの、と声を殺して泣いている。ぼく、いきてたら、ダメなの、おとうさんそういうの。ぼくがわるいから……
俺を見上げながらせつない声で話してきた。彼と視線が会うようにしゃがみこむと、
お前、わるくないぞ、むしろ親父が悪いと答えてやる。
ううん、ぼくがわるいの。ぼくがわるいの………
懸命に頭をふる男の子が可哀想になり、頭を撫でようとしたらその手を傍らに立っている女の子が掴んで邪魔をしてきた。
おいおい!何すんだと彼女を見ると
ダメなの!と言わんばかりの表情で睨んでいる。
しくしく泣いてる男の子、何故だか知らぬが怒ってる女の子、二人のチビッ子に挟まれ、途方にくれてた時、何処かで聞いた声が近づいてきた。
『………勝手に離れて、探しましたよ。あらまぁ、これはこれは、困りましたね』
――――「……さん!困りますよ、ほら起きて!風邪引きますよ!」
あっ?何だ?何かこのパターンは2度だぞ?またまた疑問符だらけの頭で眼を開けると、そこに居たのは、寝具の用意に来た先程のお姉さん。
ああ、蛍光灯が目に染みる……
「こんな所で寝たら、風邪引きますよ!御布団ご用意したので、そっちで寝て下さい!」
叩き起こされた俺は目を擦りながら、もぞもぞと布団に移動した。灯りを消してお姉さんが部屋を後にする。
外の闇夜と同じ濃度を持つ色が部屋を支配している。目を開けても、閉じても変わらない………
………川のせせらぎ、虫の声、時折さわと聞こえる風の音。
眠りに落ちる俺に聞こえるのはそれだけ………
何だか、今日は疲れたなバス待ちが堪えたな。眼を閉じ呼吸を整えてく………
夢で見たあの女の子、少し妹に似てたかな、ふと思いながら眠りについた。