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平家蛍と甘い水  作者: 秋の桜子
2/12

渓流の里

「お兄ちゃん、見てー可愛いでしょう!」


 夕方のバイトに行くべく準備をしている俺の前に、下ろし立ての朝顔の浴衣を着こんだ妹がくるりポーズを決める。


「あー?今日だっけ?ホタルのイベント、百貨店の屋上だったけ、どっかから「蛍」持ってきて離してるンだっけ?お母さんと行くのかよ?」


 うん、と嬉しそうに笑うあの時の妹……


 あの時、この歌、歌いながら出掛けてな……



 ―――――「お客さん、お客さん、終点ですよ!起きてください!」


 眠りこけてた俺に、バスの運転手が声をかけてきた。


「……!っあっ、て?すみません。着いたんですか?」


 頭の中がまだ疑問符だらけの俺だったが、取り敢えず運転手にお礼を言うと、荷物を手にし料金を払いバスを降りる。


 ちなみに490円なりーって高くね?往復だと約1000円ー!


 田舎が各家人数分マイカーってのわかって気がした。降りたバス停はまたまた素晴らしい環境だった。


 オオー川!山!田んぼー!山際に家!そして無駄に広い道路!なーンもない。


 目を細めつつのどかな夏の夕暮が、訪れつつある、風景を眺めるていると、俺は後悔の念がふつふつと沸き上がって来るのを感じたその時、


 突然!消防のサイレンが鳴り響き俺は度胆を抜かれた。


 はぁ?なっ、なんだぁ?何でサイレンが!と驚きつつ辺りを見渡すも、誰もいない。


 そんな時、戸惑う俺の目の前に一台の軽トラが停まった。


「どうした?兄ちゃん、迷子か?」


 浅黒く日焼けした丸坊主のおっちゃんが窓越しに話しかけて来た。


 怖いおっちゃん、元ヤンの気配を醸し出してるぞ。


「あっ、宿を探してて……」


「あー?「かわはら荘」のことかぁ?こっからまだあるぞ」


 おっちゃんはこの先をずーと、ずーと、ひたすら歩けばそのうち着くぞって指差し教えてくれる。


 その方向に広がるは、緩やかに登りの果てなき一本道、ガーン……


「あっはは、一時間も歩けばつくけどな、今からそこの田んぼに水入れに行くんだな。後ろで良ければ乗ってくか?で、予約っ取ってるか?」


 あー、取ってねえ、と元ヤンおっちゃんに伝えると、おっちゃんはおもむろに携帯を取り出すと、


「あー?俺やぁ、ん、今から客連れてくわ。おぅ兄ちゃん予約取れたはよ後ろに乗れや」


 ………何てアバウトな、名前名乗らないのか?俺やってのが名字なのか?


 で乗れやって軽トラの荷台、荷台か?そうなのだな。きっとそうなのだろう……


 にこにこと人の良い、元ヤンおっちゃんは俺を待ってくれている。なので俺は荷台へと人生初乗りする。


 ……うおぉぉー!おっちゃんは一本道をかっ飛ばす!制限速度は無いのかー!高速道路かー!


 けど、荷台っていいなぁ、夕暮れの涼しくなった風が気持ちいい、乗り心地は最悪だけどな。


「ほーれ、着いたぞい」


 集落から離れた民宿「かわはら荘」に数分で到着した。田舎の軽トラ運転手ってスゲーわ、と思いつつ荷台から降りると、運転席に近づきお礼を言う。


「ありがとうございました。助かりました」


 ん、どうせそこの田んぼに行くからな。気にするな。と元ヤンおっちゃんは軽トラから降りると、田んぼへと向かった。


 好い人多いなぁー、見かけ元ヤンでも優しいし……遠ざかる背中を見送ると、俺は民宿の入り口へと向かった。



















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