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平家蛍と甘い水  作者: 秋の桜子
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清浄なる世界

『清浄なる世界を作りたいのです』


 ホタル達が舞い飛ぶ中、イワガミ様が真剣に話しかけてくる。


 俺に何をせよと?アレを販売促進するように言いに出てきたのですか?


 流石に人間乗っ取り計画には参戦出来ませんが……


 作りたいのです、と微かな声を残してふうわり消え去る。暗闇に立ち尽くす俺、どうしろっていうのか?


 ピリラリピリラリー携帯の目覚ましアラーム音


 助かった。何だ?物凄く疲れてるぞ、寝ぼけた頭でアラームを止める。


「……おい何だ、これは」


 ……朝イチこれか、夢見悪ー、ぼくちゃんが出てくる方いいぞ、頼むから彼方の御方はご遠慮します


 ――――「おはよ。母さん」


 たったったっと階段を降りて来て、リビングに入る。莉子にもおはようと挨拶して、食卓の席に着きつつ、先に新聞を読んでる父親に話しかける。


「おはよう、父さん、何かある?」


 がさがさ畳むと、ほれ読めと渡してくる。新聞ねぇ、ネットで調べるからいいんだけどなぁと、三面記事に目を通すと、


 はぁ『ぼく』ちゃんに知られたくない記事が目に入ってくるよ、世も末か……先に進んで行くと、数年前騒がした凶悪犯の刑が執行の記事、


「この犯人、刑が執行されたのか」


 俺の声にコーヒーを飲みながら、父親が答える。


「ああ、今の法相決断力あるな、これで何人目だったか?」


 へーそうなの、もう少し聞こうとしていたが、朝食が運ばれて来たので、その話は立ち消えとなった。


 ――――「いやぁ、青少年、お前は素晴らしいぞ、今度昼飯ご馳走してやるからな」


 ホクホク顔の指導係とは違うオッサン先輩、はいあれから皆様のお供に駆り出されてます。


「あー夏来たらどうなるんだー!」


 席に着きつつ、ため息しかでない。鞄の中から買って貰った炭酸飲料水のペットボトルを取り出した。


 プシュッ!とキャップを開けると一口飲んでほっとする。


「青少年、炭酸好きね。やっぱり若いから?」


 隣の女子社員がクスクス笑いながら話しかけてくる。青少年ねぇ、もう諦めたけどそれとこれとは関係無い!


「ねぇ、アレどうする?今海外セレブに人気だって評判だよね」


「1年待ちでしょう?商品手に入るの、予約入れる?水でこの金額、でも1年待ちと言うことはやっぱり良いのかなぁ?」


 ごくごくと喉を潤す俺の隣では、女子社員達が井戸端会議を始めてる。


 何だ?今怪しいキーワードが聞こえて来たような?聞いたら怖いだろうなぁ、嫌な予感がするんですけど、


「何か新商品ッスか?」


 ドキドキしながら俺は彼女達の話に参戦する。


「うん?ああ、最近ネットで評判の水なのよ、人気が高くて、手に入らないの」


「日本や海外のセレブもすごく良いって、飲めば自分が清らかになるようなそんな感覚になるって話なのよー」


 でもちょっと高いわよね、アハハと笑いながらこれ見て、と彼女は自分の携帯画面を見せてくる。


 そこにはあのホームページの画面、ああー!やっぱり計画は着々とお進みされてたのですかー!


 しかも!海外?日本のセレブ?はぁ?権力者を取り込む?何処まで壮大になるのかー!


 ん?俺、今権力者って?頭の中で今朝の父親との会話がリピートされる。


 清浄なる世界って、断罪がついて回るのか?いやいや、ただの想像だ。


 俺は断罪とかそういうの苦手だしな。ぼくちゃんにも教育上悪い。寝てるっても何か通じてる感覚あるからなぁ。


 出来れば優しい世界っての見せてやりたい。とりあえず目先の問題を解決すべく行動してみるか、


 まぁ、ダメだろうけど、俺は心を決めると言葉を絞り出した。


「へぇ、え、そうなんですか、でもただの水ですよね」


 ぎこちなく笑顔で彼女に聞く俺、あームリだわ、だって俺飲んだし、その結果どうなるか知ってるし、


 それ!飲んだら『乗っ取られ』まーす。その代わりに『清浄な人間』になれまーす。


 俺飲みましたからー!アハハー


 とでも軽く説明した方がいいのだろか?とてもながら信じてはもらえないだろうな。


 それに今朝の新聞記事、辛い世の中だよ、夢に出てきたイワガミ様に計画中止なんて進言出来ない。


 ヒヤリとした物が俺の中で動く、ハイハイ、誰にも言いませんよ。『ぼく』ちゃん、心配しなくて大丈夫。


「そうなのよねーただの水かもしれない、1本、300円。5本セット、しかも1年先だものねー、手に入るの、でもネットの評判見るとね、どうしようか悩み中」


 クスクス笑いながら、今日晩ごはん食べにどこ行く?と固まる俺放置で彼女達の話題は既に他の事へと移って行ゆく。


 新しいお店、流行りの料理、イベント、くるくる変わる彼女達の話。その話題は尽きることがない。


「水」も今の彼女達の流行りの1つなのだろう。

 

 ――――様々な商品が出回る昨今、中には期間限定商品もある。


 去年売ってた筈の品物も今年は無いものも多い……


 だから俺はこう思う事しか出来ない。



 ――――長々と悩んでその『水』の事等さっさと忘れてくれ。


 ―――さわり、


 室内なのにふと風を感じる。そしてそれに乗り、


『清浄なる世界を作りたいのです』


 遠くからイワガミ様の声が届いた気がした。


 冷たく流れゆく川のせせらぎの様な密やかな声が………


 俺の思惑をいさめるかの様に冷たく心の中に入ってくる。


 そして思う、計画は止まる事は無いのだろうと。


 このまま神の思う『清浄なる世界』へと進んで行く、人知れず『器』が増えてゆく。


 さらさらと流れゆく清流の様に静かに、密やかに事は進むのだろう………


 全ては清浄なる世界を作るイワガミ様の計画


 そして俺はその1ピースにしか過ぎない。何も言うことも、出来ることも無い。俺はただの『器』にしか過ぎないのだから。




「完」











 







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