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平家蛍と甘い水  作者: 秋の桜子
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ある町で

夏のお話です。

「お兄ちゃん、この水果物の味がする!」


 小学五年生になる俺の妹は今流行りのフレーバー水を一口飲んで嬉しそうに笑う、周りの女子はよく買ってるのを見るけど、


 どうせ同じ金出すならそこはやっぱり、シユワッ!と炭酸水だよなぁ。

 

「ン?それ貰ったんだよ、気に入ったか?女子好きだよな」

 

 バイト前で貰ったのを冷蔵庫に入れて置いたら、ちゃっかりと見つけたらしい、まぁ、俺は飲まねーけど。


「うん、美味しい!」


 にこりと笑う何時もの妹……



 ―――「やっちまった……」


 思わずポツリと絶望の声が漏れた。真夏の8月、午後2時炎天下、ど田舎バス停には、そう、バス停しか無かった。


 周りは田んぼ、川、民家が数件……マジかよ、自販機の1つも有るだろうと考えいた俺が甘かった。


「……まぁ、取り敢えずバスの時間は……え?嘘だろ?」


 絶望の神は俺に微笑んでるらしい。2時台にはバスが無い!3時も無い!


「よ、4時?4時?ここは日本なのかぁー?」


 はぁぁ、干からびてここで俺の人生が終わる予感が頭を過る。


 ため息と共に、へたへたと、焼け込んだアスファルトの上に座り込んだ。


 ―――俺は大学の夏休みを利用して、田舎に建てられてるお堂やらの伝説やら、建物やらを調べる為に、都会から電車を乗り換え、更にバスを乗り継ぎやって来たのだ。


 幸い小さな田舎町には、宿屋もあり、コンビニもありなので何不便無く、速度は遅いがパソコン使える環境だし、俺は1人でそれなりに楽しく活動していた。

 

 その活動とは、卒業レポートの為に町の地区に各1つは必ず奉られている「弘法大師」さんのお堂、


 それらを、朝から晩まで、テクテク歩き回り調べる事。


 宿の親父さんからすれば、しょーもないの調べんだなぁ、と呆れられ、おそらく周りの人達もそうなんだろう、数日ですっかり有名人になってた。


「よう、お帰り、大学生の兄さん。物好きだねぇ」


 何時ものように夕方宿屋に戻り、風呂に入ると、クーラーガンガンに効かした部屋でだらだらする。


 あー!最高ッスー!とつくろいでたら、親父さんが何時もの呆れ顔と共に夕食が出来たと知らせに来てくれた。


 宿屋のシステムは食事は専用座敷なのだが、俺は宿屋の一角で経営されてる「お食事処」で食事を取ることにしている。流石に親父さんとしか、会話が無いのは少々辛い。



「この先に集落あるンッスかー?」


 ―――滞在最終日も近づいたある夜、何時ものカウンターで出された大盛豚カツ定食に挑んでいると、隣に座った近所のおっちゃんがビール片手に教えてくれた。


 ……ここの宿屋って若者には肉ってポリシーがあるのか、ハンバーグ、しょうが焼き、唐揚げ……と毎日肉!しかも超大盛が出でくる。


 家出るとき、ちゃんと食べる様に母親にうるさく言われたが、その心配は無いだろう。


 ちなみに朝は要らん、昼は外回りするって最初に話してあるので、宿泊費はかなり押さえられるらしい。学生の身の上では有難い。


 ―――じわじわ、みーんみーん、ちきちきちきー、街中と違い蝉の鳴き声も千差万別だな。って俺はこのまま干物になるのは確定だが……


 午前中に行っとくんだった。戻るか?彼方に宿は有るとは聞いたけど


 標高が高い影響か、直射日光は半端無く厳しい。


 民家も有るが誰も出歩く者はいない。一時間頑張ったが、流石に限界だった。諦めて帰ろうとした時、


「お兄ちゃん、お水どうぞ」


 天使が俺の前に舞い降りた!てか、怪しい?しかし目の前の田舎の純粋キラキラオーラに包まれてる男の子は、


 俺が断れば目から涙をこぼすのが当然、と言わんばかりに受け取ってくれる期待100%の様子だ。


「つめたいよ。よーちえんの先生がお水はのみなさいって言ってるよ」


 無垢な笑顔と共に小さな両手で差し出されるペットボトルは言葉通りに冷えてるのか、水滴を纏っている。


「いいの?俺にくれて」


「うん、おかーさんがどうぞって」


 頷きながら、男の子は後ろを振り返る。見ると、少し離れた道路上端に駐車した軽四の窓を開け、にこにこと手をふっている男の子の母親がいた。


 俺はありがとうとペットボトルを受けとると、母親の元に駆けてく男の子の後を追う。


 そしてその子が車に乗り込むと、窓越しにお礼を述べた。


「あの、ありがとうございます」


「良いのよ。この子がお兄ちゃん干からびてるよって言い出しただけなの。取り敢えず冷たい内に飲んで、凄い汗よ」


 限界を迎えてた俺は、お礼もそこそこに蓋を開け、その場で一気に飲み干した。


 少し甘味を感じる冷たい水がカラカラに乾いた俺を構築している細胞に吸収されるのを実感する。


「ふぅ、助かりますました」


 俺はポケットから小銭を取りだそうとするのを彼女は笑って止めながら、こんなに所でバス待つって街の人?と聞いて来た。


 俺は軽く事情を説明すると、ここでもやはり言われた。


「へー、物好きねぇ、春の祭りに来るなら分かるけど、学生さんも大変ねえ」


 アハハはぁ、と笑う事しか出来ない俺だったが、


 水分補給で生き返ったこともあるし、残りの滞在日数のこともあるのでやはりこの先バスを待つことを話すと、


「私、そこの村に住んでるけど、これからちょっと用事があって、出なくちゃならないのよ。乗せてってあげたいんだけど」


 子供といい、お母さんといい、そういえば親父さんも、お店に一杯呑みにくるおっちゃん達も、みんな優しいなぁ、田舎のバスが1日三本ってのどかさが、もたらしているものか?


 俺は大丈夫です。と答えると、さっき子供が渡したペットボトルをもう一本取り出す。


 まぁ、無理しないでね、と笑いながら俺に渡してくれ、さて、そろそろ行くわね、と窓を閉めると、まだ開いていた助手席の窓から、


「おにーちゃん、がんばってねー」


 何を頑張るのやら?男の子が別れ際窓から手を振りながら声援をくれる。うん、取り敢えずバス待つのに頑張ろう。

 

 その後、一時間を貰ったペットボトルのおかげで何とか乗りきり、時間ピッタリに到着したバスに乗り込む。


 ――――ここからバスに揺られて山の中をひたすら登って行くらしい。


 40分位って聞いてるけど、終点だし、少し寝ようと一息ついた。


 手にしていたペットボトルに残ってた中身を飲み干すと、窓にもたれて目を閉じる。


 涼しく空調された車内は心地よく、身体に感じるバス独特の揺れに身を任せていた俺深い眠りにおちてゆく。


 ………うつらうつらとしていた時に耳に微かに聞こえる。


 それは、少女の歌声、何処かで、誰かに似ている気がした。


 …………誰が歌ってる?乗客って俺だけ だった、は…ず


 ストンと闇に包まれ俺はそのまま眠りについた。




 ――――ほっ、ほっ、ほーたるこい、


 あっちのみーずはにーがいぞー、


 こっちのみーずはあーまいよ、


 ほっ、ほっ、ほーたるこい。



















































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