読者様感謝企画 ~つぶらやさん編(二回目)~
吸い込まれるような蒼穹の空。目の前には空と同じ色をした水を湛えるアドリア海が広がり、頬を撫でる風は日本のそれとは違い、乾いている。
近くで騒ぐ人々は碧眼、金髪のれっきとしたラテン系民族で、ぼさぼさの黒髪に黒眼の少年は明らかに異質だ。よく見れば中性的な顔立ちは人並みに整っていて、時折豊満な体つきをしたイタリア人女性達が声をかけるが、少年は一瞥をくれるだけでため息をついた。
夏のリミニに訪れる人々の顔にあるのは浮わついた感情。
しかし、同じ場所にいるはずの少年の顔にあるのは喜びなどではなく、悔恨と失意のそれだった。
そんな少年に声をかける女性。純粋なイタリア人だが、話しているのは日本語だ。熱心に声をかける女性に向ける少年の瞳は、何処か虚ろで空っぽだ。
突然、少年の頬を小さな手が叩いた。泣きながらなにかを叫ぶ女性。周りの人々は何事かと目を向けているにも関わらず、女性は叫び続ける。
やがて、虚ろだった少年の瞳に光が戻り、微かに唇が動いた。
ありがとう、そしてごめん、と。
様々な場所に行きましたが、一番印象に残っているのは傷心旅行で行ったイタリアのリミニです。
とても悲しいことがあって、全てを投げ出そうとしていた私に喝を入れてくれたのが作中の『女性』でした。ホームステイしていた先の娘さんで、日本を大好きな素敵な女性だったなと。
彼女に感謝しながら書きました。