抗がん剤 その2
抗がん剤の種類は、様々なものがある。前回は、アルキル化剤、および、白金製剤について概説した。今回のトップバッターは、微小管、という細胞が分裂する際に現れる構造物に関係する、薬剤である。タキサン系と、ビンカアルカロイド系である。微小管は、細胞骨格という、細胞を支える構造物の一種で、細胞分裂の際、染色体が二つに分かれていく過程で、大切な働きをする。微小管は、そのままの構造を維持しているのではなく、絶えず、重合、脱重合を繰り返している。例えるならば、人間の皮膚のように、むけては、新たな上皮が出来上がるのを繰り返す、ということである。脱重合によって、微小管の一部が壊され、重合によって、新たな部分が生成される。タキサン系の代表である、パクリタクセルは、脱重合を阻害、ビンカアルカロイド系の代表である、ビンクリスチンは、重合を阻害することで、微小管の働きを抑え、細胞分裂を止め、癌細胞の増殖を抑える。
授業で学んでいた頃、アルキル化剤より、作用が弱そうだ、と感じ、実際にどのような腫瘍の治療に使われているのか調べたところ、脳腫瘍の一つである、髄芽腫にはよく使われることが分かった。髄芽腫は、小児に起こりやすい脳腫瘍で、小脳が好発部位である。小脳は、運動時のバランスなどに関わっているため、歩行時のふらつき、転びやすい、などと言った症状が見られる。予後は、良いとは言えないのが現状で、放射線治療、薬物治療がメインになる。アルキル化剤は、作用が強いという理由だけではないと思うが、やはり、膠芽腫に用いられることが分かった。膠芽腫は、脳腫瘍の中で、最も悪性度の高いものであり、予後は極めて悪い、ということが出来る。平均生存期間は、長くて2年である。急速に進行する頭痛、癲癇発作、麻痺、などが症状であり、画像診断により、確定する。手術により、腫瘍を摘出しても、再発を繰り返すため、完治が難しいのである。
次に紹介するのは、トポイソメラーゼ阻害薬である。また、小難しい用語が出て来た。御存じのとおり、DNAは二重らせん構造をしている。今までさんざん、細胞分裂や、RNAなどを用いたタンパク合成の話が登場してきたが、今回の、トポイソメラーゼも、これに大きく関わっている。DNAをRNAに転写、翻訳することにより、タンパク質を合成する、と前に述べた。ここで、一つ大きな問題が生じる。転写の際に用いられるDNAは、一本鎖の部分であり、そのため、二本鎖を一端切り離して、一本鎖にし、転写が終わったら、再び二本鎖に戻す必要がある。そんな複雑なことが出来るのか、と疑問を持たれるかもしれない。そんなうまいことをしてくれるのが、トポイソメラーゼという酵素である。この、トポイソメラーゼを阻害する、ポドフィロトキシン系や、アントラサイクリン系は、DNAからの転写、DNAの合成を阻害することにより、癌細胞の分裂を防ぐ。
二回に渡って、細胞の織り成す、複雑なメカニズムをいじることにより、癌細胞の増殖を食い止める薬について述べてきた。次回は、代謝拮抗によって、癌細胞の増殖を防ぐ薬たちを紹介しようと思う。