癌 その2
二日前のこと、病院実習で放射線診療を見学した。医師と、他の医療職の連携を学ぶという意図があるのだが、なるほど、放射線技師の方々の多大なる協力のおかげで、画像診断は元より、癌治療を行うことが出来るのだ、と気づかされた。肺癌患者に対する、放射線照射の現場を見ることが出来た。コンピューター演算によって導かれた格子に狙いを定めて、放射線を照射、癌細胞を破壊することが出来るようだった。
一昔前は、腫瘍摘出といって、外科的治療がメインであったが、放射線技術の進歩に伴い、CT、MRIによる診断は元より、治療まで出来るようになり、低侵襲医療が、また一歩前進したと言える。
前回、癌は、細胞の異常増殖である、と説明した。癌は、別名、悪性腫瘍という呼び名がついている。最初に一言だけ、かつて抱いていた疑問点について述べさせていただく。
どうして、癌で、人は死ぬの?
だって、癌細胞は、元々自分の細胞だから、増えたって、別に問題ないんじゃない?
転移するとやばい、と言うけど、どうして?
そういえば、胃癌とか、肺癌はあるけど、心臓癌ってないよね?
さて、最初の疑問、つまり、どうして癌を放置すると、死に至るのかについて考えてみる。癌細胞は、原発巣(例えば、胃癌であれば、胃、脳腫瘍であれば、脳)で、異常増殖を繰り返し、腫瘍を形成する。この腫瘍が、組織の表面である、上皮よりも下層に浸潤する(実際に、癌患者の組織標本を観察すると、上皮組織よりも、下層の組織に、癌細胞が確認できる。)。上皮の下層には、組織を栄養するための、血管があったり、免疫を担う、リンパ組織があったりするわけで、それらに腫瘍細胞が入っていくことで、転移、即ち、腫瘍細胞が他の臓器に移行していく。転移の方法は、今述べた、血管、リンパ管を経るものが多く、他には、播種性転移といって、腹膜や、胸膜を伝わって転移するものもある。血管、リンパ管は、身体の隅々まで繋がっているため、一度、腫瘍細胞が入ってしまうと、あらゆる臓器に転移する可能性が生じる。(余談であるが、血管の総延長は、およそ地球2周分、8万キロメートルほどである。)例えば、肺癌は、肺の周囲において、血管、リンパ管、共に豊富に存在するため、転移の可能性が高く、悪性度が高いと言える。病理学を習っていない学生にとって、脳に出来た腫瘍を見て、原発性の脳腫瘍なのか、肺癌転移であるのか、を区別することは容易ではない。それ故、病理医が、組織標本を確認し、確実に診断していく姿には、感銘を受ける。実際のところ、全ての診断が難しいということでは無く、中には、典型的な形を示す癌もある。(試しに、印環細胞がん、と検索してみると、ある癌が出てくる)
転移した腫瘍は、臓器を圧迫したり、正常細胞を阻害したりして、結果的に、臓器不全を起こすことにより、生命を脅かすことになる。転移せずに、臓器に留まっている状態、即ち、早期がんの場合、臓器摘出などの処置を講じることで、救命率は高くなる。今更、癌の早期発見の大切さを語る必要はないと思うが、血液検査、腫瘍マーカーなど、検査技術は着実に向上していることは、理解していただきたいと思う。勿論、100パーセントの確実性を論じることは出来ないが、今後も、免疫学、生理学などの基礎医学の発展と共に、より精度を増した検査が誕生していくと確信している。