癌 その1
今回は、本筋を少し離れて、癌について、少しばかり説明する。
一番初めに、授業で癌について習った時、癌は、遺伝子の傷によって起こる、と説明された。確かに、今日の医学では、遺伝子のどこがおかしくて、だから、将来どんな病気になる、だとか、出生前診断で、胎児は将来、こういう病気を起こす可能性がある、などということを予測することが出来るようになってきたし、これからも、様々な遺伝子の異常が解明されていくだろう。それでも、遺伝子の傷という、漠然とした表現だけに、実感が持てなかった。
ひとまず、遺伝子云々の話は置いておいて、まず、癌細胞の特徴について考えてみる。私たちの身体は、60兆個の細胞から出来ていて、日々、増殖したり、死滅したりを繰り返している。このうち、細胞の増殖に歯止めがかからなくなった状態、即ち、細胞の異常増殖が、癌である。だから、癌細胞は、自分自身の細胞と同じ構造をしているため、その分、確実な治療というのが難しいのである。増殖を繰り返す訳なので、癌に侵された臓器は、当然、肥大する。また、癌細胞自身、生き残るためには、栄養が必要となるため、自ら、血管増生を行うことがある。(抗がん剤として、血管増生をストップさせ、癌細胞を死滅させよう、という試みもある。)そもそも、細胞分裂をするか、しないか、というのは、シグナル伝達によって、調整されている。様々な生体分子が、上手く働くことによって、この細胞は、分裂していいよ、とか、君は、まだ分裂しないほうがいいよ、とか、君は死んだほうがいいよ、といった感じに制御される。死への誘導、というのは、アポトーシス、という名前で知られている。癌細胞は、アポトーシスを抑制したり、増殖シグナルの更なる増強などを通して、異常性を獲得していくのである。