先生の話②
「がんばることってそんなに美しいことなんでしょうか」
あるとき、先生は言った。
「最近の大人はみんな、がんばれ、がんばれ、と子どもたちに言いますね。勉強も部活も両方がんばって両立しましょう、とか、どんなことにも全力を尽くしましょう、とか。でも正直、子どもたちは疲れますよね」
先生はコーヒーを口にした。
「もちろん、がんばることは良いことです。目標に向かって努力している人は美しく見えるでしょう。でも、それは自分でやろうと思うから良いのであって、誰かに言われたからやるというのはあまり意味がない。だから、わたしは生徒や子どもにそういうことは言いません。自分で考えて決めてほしいからです」
先生はコップを置いて、ほおずえをつく。
「それに、がんばるということはそのことに集中するということです。これは逆に言うと、そのことばかりになって周りが見えなくなるということ。これは危険です。注意力が失われてしまい、思いがけない不幸や失敗を引き起こす可能性が出てくる。だから、がんばることは必ずしも良いとは言えない」
先生は真っ直ぐわたしを見た。
「君に覚えておいてほしいのは、がんばりすぎは禁物ということです。がんばりすぎて、身も心も破壊されたり、周りが見えなくなってダメになるくらいなら、がんばらない方がよろしい。怠けても、逃げてもよいのです。そうして回復してから、またがんばればいいのですから」