八の夢 動乱
...なん、だと?
し、雫が、何者か、だって?
「考えても見ろよ。今まで、ずっとやられっぱなしだった生徒が、いきなり逆転勝利する。普通は、おかしいって疑うよな?」
...こいつの思考回路は、どうなってるんだ?
普通は、確かに疑う。でも、でも、
「雫が理由だって言う根拠は?」
「一つしかないだろ?今までは、天海は居なかった。今日は、居た。それだけだ」
「しょ、証拠にはならないぞ」
「どうだか?好きな女の前でカッコつけたがるのは男の性だと思うが?」
「...」
証拠にしては弱すぎるはずなのに、僕は口ごもってしまった。
何故ならば、確かに彼女の、雫のお陰で僕は自分の能力に気付けたし、 そのお陰でカツアゲに打ち勝てた。
でも、それは、人外の能力だから...
他人に気づかれたら、とんでもない騒ぎになり、国を救ってほしいと言う彼女の願いを叶えられなくなってしまう。
「...どうしたんだ?いきなり黙り込んで...まさか、本当に天海にカッコつけたかったのか?」
「...」
「あるいは...まさか、天海は実は悪魔で、取引をして変な力を手にいれたとでも言うんじゃないだろうな」
「━━━ッ?!」
「ッ?!」
「おいおい...なにマジになってんだか...お前はちょっとしたジョークも解らないのか?て言うか、何で二人して驚いてるんだ?」
なんだ...適当か...
秘密がばれたのかって思って本気でドキドキした。
思わず、雫と顔を見合わせる。
「...?なんだ?お前ら...さっきから本当に妙だな...まさか、オレの予想が当たってたのか?」
再び危険球。
しかし、今回は動揺を悟らせずに乗りきることができたのか、
「...まあ、良いけどよ」
と、話をそらすことに成功した。
「でさ、お前...本当にやつらを倒したのならさ...」
「...なんだ」
「オレに付き合え」
グォッフッッッ!!
いきなり飛んできたのは、右のストレート。
それが、音も切り裂くスピードで
「グハ?!」
鳩尾にクリーンヒットした。
なんだ、この先輩?!
喧嘩慣れしているだけでは、絶対にこんな速度はでないはずだけど...
「夢くん??!!」
「...大丈夫だ」
良かった。朝掛けていた『痛覚無効』がまだ効いていたみたいで、特に大きな怪我もなく乗り越えられた。その割には大きな声をあげたが、それは単に肺の空気が抜けた音だ。
「...へえ。中々やるじゃねえか。これ喰らって立ったやつあんまりいねぇんだけどな」
「...なんの真似ですか?先輩」
雫が少々怒り始めている。
「あ?理由なんかねぇよ。ただの退屈しのぎだよ。オレに付き合えるレベルの強いやつなんて滅多にいないからな。そのために呼び出したまでだ」
「...ッ!この下郎!」
「...下郎なんて言葉初めて聞いたよ。中々博識なんだね」
「何余所見してるんだ?」
「グッ?!」
と、言うわけで、彼女が暴走する前に、一発鳩尾に拳を入れて黙らせようとする。丁度、先輩が僕にやったように。
今まで喧嘩したことがない僕がここまで打ち込めるのは、単にに『スピード上昇』と『身体強化』を掛けただけだ。
しかし、
「...やるじゃねぇか」
再びの反撃を食らう。それも、至近距離からの回し蹴り。
何とか蹴られる前に『知覚速度増加』を掛けて、強化された腕で回し蹴りを防ぐ。
そして、その足を引っ張り、バランスを崩そうと試みる。
「...なるほど...だが、駄目だ」
しかし、その足を簡単に振り払われ、今度は、全身を使ったドロップキックを喰らう。
しかし、痛みを無効かしているため、たいした攻撃にはならない。ただし、せっかく詰めた間合いを開けられてしまったのと、体制を崩し、地面に倒れ込んでしまった。
...て言うか、先輩なんでこんなに喧嘩慣れしているんだ?!
その疑問に答えるように、
「オレは、昔色々格闘技やってたんだよ。どれもこれも一瞬で強くなりすぎてすぐやめたけどな」
と、勝手に答えてくれた。
...天賦の才、ってやつか。
僕は、起き上がると同時に『傷修復』を、先輩に気づかれないように掛ける。
「...なんだ?お前、妙に頑丈だな...」
あり得ない、と呟く先輩。
まあ、気づかれることはないだろう。
今度は、僕が攻勢にでる。
雫は、今は僕たちの喧嘩を見届けていてくれる。
それほどまでに『夢幻』は信用できる能力だと言う証明になる。
...あれ?じゃあ、僕の信頼度ってどうなんだろう?
...閑話休題
僕は、先輩の目の前まで走り込むと、そのまましゃがんだ。
「...は?」
そして、見付からないように『テレポート』を使用した。
転移先は、先輩の背中!
「....なっ?!ど、どこ行きやがった?!」
「ここですよ」
言いながら、『弱点看破』を使って、先輩のどこに攻撃を当てるともっとも効率がいいかを計算する。思考時間、刹那。
「見切った!」
そういいながら、強化された手刀を、見つけた弱点...先輩の、首筋に一気に降り下ろす。
...直前で。
「...?!」
何となく、勘で、危険が迫っている気がして、先輩もろとも体当たりで吹き飛んだ。
瞬間。
ボウッ!!
さっきまで、僕たちがいた空間一帯が「爆発」した。
いや、正確に表現するなら、「燃えた」、と言ったところか。
「...危なかった...」
「今のは...何だ?!」
「ほう?あれを避けますか...中々素質があるようですね」
虚空から、男とも女ともとれぬ中性的な、しかし、それに似つかわしくない古風な声が聞こえてきた。
「だ、誰ッ?!」
「...おや?そこにいるのは、『嫉妬』の娘ではないですか」
続いて聞こえてきたのは、驚いたような声。
「今の攻撃...まさか、『神の炎』ミカエル?!」
「...気づかれましたか。...なら、今さら姿を隠す必要もあるまい」
そう言って現れたのは、まだ幼い、少年と青年の中間の容姿をした男だった。
「『嫉妬』の娘以外は初めまして。小生の名前はミカエル。『神の炎』という二つ名を頂戴している」
「...なんだよ、これ?ドラマの収録か何かか?」
「いえいえ、今から行うことを陳腐な娯楽と一緒にしていただいては困りますね...小生の目的は唯一つ。敵方を屠ることだけです」
「...やっぱり、僕の能力を狙ってやってきたのか?」
「...は?オリジン?なんだよそれ?お前ら、揃いも揃って中二病ばっかりか?」
...いまは、説明している時間はない。
こいつを、ここで倒す!
「夢くん、気を付けて!そいつ、滅茶苦茶強いから!」
「おや?この小生と一戦交えるつもりですか?...面白い。その根性、叩き直して差し上げましょう!」
斯くして、僕の、初めての対天使戦が始まってしまった。