三の夢 Long time ago...
私たちが住んでいた世界『魔国・エリュシオン』。
そこで起きた事件が、私がここに居る理由です。
今から、その全てをお話しします。
† † †
その国は、この世界とは異なる別の時空に存在した。
その世界には、二つの国が存在した。
悪魔種や、魔獣種と呼ばれる存在が住む、『魔国・エリュシオン』。
エリュシオンとは、日本語訳すれば、『死者の国』となるらしい。
そして、もう一つ。
この時点で察している人も居るかもしれないが。
それは、天使種や聖獣種が
住むと言われる、『神国・アルカディア』。
こちらは、日本語訳すると『理想郷』という。
蛇足だが、『ユートピア』も、『理想郷』という意味があるが、違いは、アルカディアが自由主義、ユートピアが社会主義と、正反対な側面も持つ。
その二つの国は、意外にも仲良くやっていたという。
というのも、その二つの国以外にその世界には国がなかった。よって、相互関係以外に介入するものがいなかったから、特に他の事を気にせずのびのび交易やら協力やらが出来たのだろう。
その世界は、平和だった。
そう。
平和...だった
それは、今、夢たちが生きている、2000年もの昔の事だった...
† † †
その日は、雲一つ無い晴天だった。
しかし、魔国の首都、『魔都・ゼロ』に聳える城、通称『魔王城』には、衝撃が走っていた。そして、一人の人物がその城の玉座の間の扉を開けた。
「魔王さま」
その女性は、限りなく人間の姿形に近かった。
しかし、背中に生える漆黒の翼と、某パンと戦うバイ菌男のような尻尾が、彼女が人間ではない事を証明していた。
彼女の名前は『シス・ルシファー』。
昔は、神国の神官の内の一人だったが、今の魔王にその真面目さと働きぶりを買われて、直々にスカウトされた者で、現在は魔王直属の精鋭部隊『大罪』の隊長の一角『傲慢』としてその名を轟かせている。紫色の長い髪の毛を持ち、その美貌は底が知れない。
「...どうした...シス」
その声に反応したのは、玉座の闇。
どこにでもあり、かつ、物理的に存在しないもの。
名は、『魔王』。
役職が魔王なのではなく、名前が魔王なのである。
魔王は、世襲制である。
よって、魔王から生まれたものには、初めから名前がない。
何故なら、生まれながらにそれは『魔王』だからだ。
「は、至急、御耳に入れたいことが」
「...話セ」
「一大事に御座います。神国が、我らに対し宣戦布告を行いました」
「...」
「理由を問い質しても、惚けるな、の一点張りで、まともに取り合えません」
「...成ル程」
魔王は考える。現在の戦力で神国と事を構えられるか、と。
魔王の下した結論は。
「...徹底抗戦。街ノ住人ノ避難ヲ。城ノ大広間ヲ解放シロ」
「...は」
「させねぇよ」
「うぐッ!」
いきなり、お腹にエルボーを食らったシスは、激痛に身を捩る。
「お、お前は...」
「おっと、今ので気絶しねェとは、なかなかの実力者か?」
「大神官...ガブリエル!」
「おうおう、よくみたらてめェ、シスじゃねェか。元気してたか?」
彼の名前は『ガブリエル』。神国の王直属の武闘派の大神官で、通称『神の水』と呼ばれる。ボサボサの長髪をポニーテールに結び、気だるそうな若者のような格好と顔をしている。
彼にファーストネームが無いのは、神官の特殊さ故だ。
神官になるには、俗世の生活を全て捨て、見習い神官として軽く15年は修行に打ち込まなければならない。そして、俗世を捨てるときに一緒に自分の本来の名前を捨てて、新たな名前が与えられる。
日本で言う、出家である。
更に、そこから大神官になるには途方もない試練を受け、合格しなければいけない。
現在大神官と呼ばれるものは、以下の通り。
『神の水・ガブリエル』
『神の炎・ミカエル』
『神の風・ラファエル』
『神の地・ウリエル』
皆、相当の手練れである。
ちなみに、ルシファーにファーストネームがある理由は、至極単純だ。
魔王が、ルシファーと言う名前を呼ぶのがめんどくさいから、シス、と言う名前を与えたのだ。
「どうやって、この城に入った?!」
「蜃気楼で誤魔化した」
「...?!」
「俺は、『神の水』と呼ばれるレベルの水使いだぜ?空気中の水分をいじるなんて、造作もない」
「...汝ノ望ミハ?」
「別に?宣戦布告のついでってやつ?あと、そうだなァ...てめぇの命、とか?」
「...ソノ望ミ、叶エル必要ナシ」
「へェ?言うねぇ。まあ、それが駄目なら...俺が直々に殺してやるッ!」
そう言うと、ガブリエルは身体中に水を纏い、瞬時に凝固させた。つまり、氷の鎧、である。
手には、2mもの長さの両手剣が握られている。
「まあ、昔のよしみってことで、ルシファーは殺さないでやる。だが、てめぇは殺して帰るからな。それが、我らが王の望みだ」
「や、やめ...」
「はぁァァァァア!」
ガブリエルは叫んだ。
すると、不可思議なことが起こった。
室内で、窓を開けていないにも関わらず、暴風が吹き荒れたのだ。
そして、その風で、魔王を包んでいた闇が吹き飛んだ。
そこにあったのは、一つの闇の球体。
これが、魔王の正体である。
「破ッ!」
ガブリエルは再び叫び、自らコアの方に走る。手に、氷の両手剣を持って
シスは、これから何が起こるか分かっても、それを眺めることしかできなかった。
「斬ッ!」
そして、コアは...
斬れなかった。
どころか、氷の両手剣は、コアに吸収されてしまったではないか。
「...我ニ勝トウナゾ100年早イ」
そう、これが魔王の力。
能力『真ナル闇』。
全てを吸い込み、喰らい尽くす、闇。
...そういえば、まだ能力自体についての詳しい説明をしていなかったと思う。
能力とは、この世界で生まれた全ての生物が持つ力である。
もちろん、例外もいる。
この世界に生まれたのに、力を持てなかった生物もいる。
逆に、今、夢がいる世界にも、本当に極希に能力を持つ人間が生まれる。
例えば、卑弥呼。
彼女は、巫女としてふさわしい能力を手にいれたと言うが、もちろん太古の事なので、今となっては確かめようもないが。
能力には、様々な種類がある。
自在に水を操れたり、自らの能力を数十倍に引き上げたり、未来予知の類いなど、本当に様々である。
そして、今肝心の魔王の能力は、『魔王に触れたもの全てを吸収し、自分の力とする』という、非常に倒しづらい能力である。
しかし、肝心のガブリエルは、武器を奪われたと言うのに、平然としている。それどころか、嘲笑すら浮かべているではないか。
「...何ガ、可笑シ...ウグッ?!」
しかし、その時だった。魔王の様子が、急におかしくなったのだ。
「やっと効いたか」
「貴様ァ!魔王さまに何をしたッ?!」
「簡単な話だよ。悪魔全般に猛毒となる物質『聖銀』を、両手剣に大量に詰め込んだんだよ。それで倒せたら御の字。吸収されても毒を吸収して死なないなんて半端な量は入れずに、ちゃんとドラゴンですら一撃で殺してお釣りが来るレベルまで凝縮させたんだ。まあ、魔王の能力が『反射系』なら、少しやばかったかもね?」
「グォッ?!」
そして、魔王だった球体は、二度と動くことが出来なくなった。
それは、魔国の崩壊を意味していた。
† † †
それからは、一方的でした。
2000年もの長い間、私たちは逃げ隠れしていたのです。
それこそ、時空を越えて...
一度だけ、まともに交戦する機会があったのですが、結果は惨敗でした。敵の装備が全て聖銀製だったのもあり、私たちはなすすべもなく敗走しました。
そして、今に至ります...
私たちは、最後の希望を探していました。
それは、聖銀に影響されない、つまり、悪魔ではない味方、そして、能力を持っている味方。
そうです。人間の事です。
しかし、私たちが確認できた最後のオリジン保持者...つまり、卑弥呼の事ですが...を皮切りに、希望が途絶え始めました。
しかし、ついに、新たなオリジン保持者を見つけたのです。
それが...
如月 夢、貴方です。
はい。お久しぶりです。松岡です。
『夢幻』のみ読んでいる方、投稿に3週間も穴を開けてしまって申し訳ありません。
『七彩武装』の方も読んでいただいている方、3日ぶりですね。
今回、両作品含め初めて三人称に挑戦したわけですが...
なかなか難しいね、三人称!
意外にも難しかったです。
というのも、一人称はそのキャラが思っていることだけ書けばいいのですが、三人称になると、急に必要な情報量が増大...それこそ、何倍にも膨れ上がるわけです。
だから、必然的に文字数も少し多くなるわけです。
だって、これ書くの2時間かかったんだよ?!2時間!
いつもより30分程度多い。
ちなみに、連続2時間です。
つまり、16時から書いて、今書き終わりました。
...とまあ、そんな裏話は置いといて...
今回も、皆さんに楽しめたらいいなと思います!
...そういえば、まだ章設定してねぇな。
後でやろっと。
ではでは!