アノソラノカナタ
セカキス二作品目。聡明何時だってやってくる。そんな事を思って作りました。
もう動かなくなったって、君が望めばまた動けるさ。
もう喋れなくなったって、君が手を握れば喋れるさ。
もう触れなくなったって、君が笑えば僕も笑うさ。
もう逢えなくなったって――――――
「もう逢えなくなったって?」
隣で微かな声がする。
妙に馴れ馴れしい、妙にウザったい声。
ボクは余りの居心地の悪さに眼を覚ましてしまう。
もう眼を醒ました以上、こんな熱帯では二度寝も出来ない。
だから僕は夏が嫌いなんだ。
起きると、そこは教室。
あれ? 何でだ、僕は家で寝てた筈なんだけど………? まぁいい、隣のソイツ―――赤司 拓と言ったか、今日転校してきたばっかりなのに、何なんだこいつは。
五月蝿い。
煩過ぎる。
こんなの傍迷惑だ、昨日までここは僕の特等席。
一番窓際で、何もない席。
そして何と言っても一番後ろ。
そんな最高過ぎる世界をブチ壊したのもコイツのせいだ、だから僕は嫌い。
「おいおい、何だってそんな不機嫌なんだよ?」
「煩い、お前には関係無いからスワヒリ語で国語の要約広辞苑でも作ってろ」
「それなら前の学校で作ったぜ?」
「お前はこんな辺鄙な学校より外交官目指せよ」
そんな下らない会話が出来るのも、コイツお陰だ。
良い迷惑だけどな。
「お、おい!! 待てよ。一緒帰ろうぜ?」
「残念だがそんな変態的な性癖は持ち合わせて無いからお前は校庭にナスカの地上絵を55/1クオリティで鮮明に描いて来いよ」
「それはレーベル的な問題じゃね?」
「お前はなんでたまにマトモな事を言うんだ?」
付き合いは続く。
「なぁなぁ、一緒にトイレ行こうぜ?」
「アッー♂」
「は、はぁ?」
「お前一人で行けよそんぐらい!!!」
「いやいや、高校生なら連れションぐらい当たり前だって」
付き合いはまだ続く。
「なぁおい、アレ何だよ」
「ふぇ? ありゃ校舎だろうが」
「いやいや、俺達の教室の窓にぶら下がってるアレ」
「俺の[獄炎書(エロ本)]!!!」
そんな、時だった。
思えば、楽しかったのかも知れない。
思えば、今まで暇なだけだったかも知れない。
ソイツが隣で笑ってくれたから、ボクも少しは変われたんじゃないか?
あんなずっと笑われると、僕も笑いたくなっちまう。
僕はあの――――道化師みたいな笑顔を憧れていたのかも知れない。
「道化師…………か」
思わず口に出てしまう。
隣で本を読んでいた彼女は、ぴくりと反応する。
「道化師って何?」
「さぁ、僕も知らないさ。つかお前、もう暗いから帰れ」
「えー? まだ柚くんと居たいよー」
「煩い。目の見えないお前を背負ってくの結構めんどくさいんだぞ、僕の身にもなれよ」
「やったー! 柚くんの背中あったかだもんねー? あったかあったか~♪」
彼女は笑いながら僕の背中に抱き付く。
が。
恐ろしい程の頭痛が走る。
まて、待て。まてってば。待ってくれよ!!
なんだこれ…………何で目が見えてねぇコイツが本を読んでる?
柚くんって、誰だ?
俺はハッとなってソイツを見る。
だけどそこは、俺の部屋でも、何処でも無い。
学校の屋上だった。
夕暮れに染まる朱の円形は、どんどん沈む。
それが恐ろしくて、堪らなかった。
「ねぇ…………だれかいないの?」
何処からか声がする。
聞き覚えのある、幼なじみの声。
安らぎのある、暖かい声。
俺は、その方向へ走る。
ひた走る。
どうせ何も無くたって良い、そんな世界だから。
また明日逢おうねなんて、出来もしない事ならそれを少しでも現実味を帯びさせるのは変じゃないかな?
終わる世界だったって、別の意味で始まる世界。
僕とまた逢えるならそんな世界を望むさ。
何時だって。
会いたい相手が居る。
逢いたい奴が居る。
そんな[会えない]とか四文字で片付くモノじゃない、僕が探してるのは。
彼女なんだ…………!!!
そんな聡明過ぎる簡単な世界を終わらせてしまうなら、その時は君の隣に居るよ。
僕は独りぼっちでさ、世界を拒んで居た。
もしも、逢えなくなったら、僕は死んじゃうよ。
思い出した。
○○県○○市中学生飛び降り自殺学校側供述によると酷い苛めを受け先生にも掛け合ったが先生の不適切なアドバイスにより女子生徒が自殺した。
クソがァッ!!!
女子中学生屋上で飛び降り自殺か9月1日○○県○○市内の中学校にて、屋上から女子生徒が飛び降り、自殺した事件が発生した。死因は飛び降りの衝撃で死亡したと思われるが少女の身体には無尽蔵の打撲
ふざけんなァ!!!
踞っていた少女を見つける。
間違いない。
死んだ幼なじみだ―――――!!!!
「あ、剱くん? あー、剱くんだー」
「う、嘘だろ………? 瞑………なのか……!?」
「うん、めいは元気だよー? どうしたの? そんな汗かいて?」
まて、何でだ? 瞑は昔から目が見えない。俺が汗かいてるのは事実だが………見えるのか?
「お、お前……僕の顔が見えるのか?」
「見えないよー、でもさ、心の中で剱くんなのは視えるよ?」
俺は思わず、その華奢過ぎる小さな身体に抱き付く。
あぁ暖かい。
「うわー? 剱くん恥ずかしいよぉ………」
「いいんだ………お前が居ればそれで良いんだ………!!!!」
彼女の小さな頬に伝うその滴は、僕の頬に伝わり、濡らす。
涙。
彼女の眼は緑色に輝いており、目が………
目が拓かれて居る。
僕は彼女小さな体を抱きながら、彼女も精一杯の力で抱きしめながら。
「なぁ…………もしも逢えなくなったらの話、覚えてるか?」
僕はおもむろに聞く。彼女は頷き、こう言った。
「うん。その時はお互いにキス……するんだよねっ!」
僕は彼女の小さな頬に。
彼女は僕の唇に。
そして抱き合う。
「あのー? 部長? これで良いんですかね」
「よしって事にしておこ!! じゃぁ、今日の――――解散ッ!!!」
『おー!!!』
どうだったでしょうか。案外良く出来たと思います。セカキス作品という事で、やっぱり最高の出来にしたいなぁと思いまして、頑張った所存で御座います。では、皆様。またいつか。