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PeTItionS~峡間の二重ノンブル~  作者: 知疏
第二章
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第6話 前からあるもの

 まだだ、まだ笑うな。

 高揚する気持ちを咳ばらいをすることで一旦落ち着かせる。

 こういう時は、どうしても嘘やドッキリを警戒してしまうめんどくさい性。

 この臆病な性格のおかげで面白味のない奴だと言われたこともあるが、そんなこと知ったこっちゃない。

 騙されて恥をかく方が嫌だ。

 確信を得てから行動する、当たり前のことじゃないか。


「どうして俺が能力者だと?」

「私の『対象解析』は、文字通り見ている対象を解析できる能力です。例えば、人を対象にすれば、その人物の身長、体重、年齢、本名はもちろんのこと、遍歴や大よその思考まで読み取ることができます。この力で佳楠さん観察させていただきました」


 え、こわ。

 その能力マジ?

 いや恐ろしすぎるだろ。


「それで、俺が能力者だと?」

「そうです。戻月れいげつという星の日本という国の生まれ、母との二人暮らしで、よく遊んでいた友人は……………二人。平和な生活をおくっていたが、ある日意識を刈り取られ、この世界に飛ばされた稲月佳楠さんは源理能力者です」

「うわ、そんなことまで分かるのか」


 うわとか言っちゃった。

 でもこれでカルラさんの能力が本物だと分かった。

 流石は唯一無二の能力。

 プライバシーもくそもないな。


「……佳楠さんは、本当に大和に心当たりがないのですか?」

「大和ですか……はい、全然ありませんけど。それがどうかしましたか?」

「いえ、何でもありません。それはともかく、これで私の言っていることが真実だと理解してもらえましたか?」 


 ここまで言われちゃ信じざるを得ない。

 それに、実は源理能力者じゃありませんでした、なんてしょうもない嘘をカルラさんがつくメリットがない。


「カルラさんが言っていることに信憑性があるのは分かりました。では本題に入りましょう。俺はどんな能力を持っているのですか?」


 さぁ、どんなチート能力が俺には備わっているんだ。

 主役にありがちな炎タイプか? それとも最強系の雷タイプか?

 どんな能力でも使いこなしたやる。


「佳楠さんの源理能力は『想像干渉』。想像を世界に干渉させる能力です」

「想像を……干渉させる」


 余りの衝撃に、絶句してしまう。

 想像干渉だと? どういうことだ、それが俺の源理能力だというか?

 恐る恐る震える声で質問する。


「カルラさん。それが、想像干渉が俺にとっての唯一無二の能力なんですか?」


 もしそうだとしたら、転生した際に手にする能力という理論が壊れてしまう。

 だから多分、元々持っていた想像干渉をカルラさんが源理能力だと勘違いした可能性もある。

 きっとそうだ。

 永年の研究がそう簡単に覆されるはずがない。

 そう信じたいが、やはり俺の思考はネガティブに考えてしまう。

 でもその研究の答えが間違っていたら……。

 嫌な仮定ばかり生まれ、それに比例するように鼓動がうるさくなっていく。

 終始黙っていたカルラさんが、言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。


「佳楠さん、あなたが今どういう心境か、私には分かります。だからこそ、あなたの反応に私も戸惑っています。こんなケースは初めてです」

 

 疑問ばかりに頭が向き気づいていなかったが、カルラさんの表情も心なしか強張っているように見える。

 むしろ俺より戸惑っているみたいだ。

 

「少し整理する時間が欲しいので、今日はこのくらいでいいでしょうか?」

「はい……」


 俺だって、少し時間が欲しい。

 首をこくっと縦に振りながら、息を吐くように返事をする。

 カルラさんは仕事で使った箱を持ち、奥の廊下へと消えていった。

 ふと視線を下すと、カルラさんの袋に隠れ切れていない紙があった。

 何も考えず、なんとなく手に取ってみる。

 その紙は何重にも重なっており、広げると俺の横幅よりも広くなった。

 あ、これ新聞か。

 紙にはやはり読みにくい字列と幾つかの写真が載っていた。

 この世界にも新聞ってあるんだな。

 新聞があるってことは印刷できるほどの技術があるってことか、あるいはもこれも魔法の仕業なのか。

 まぁどっちでもいいか。

 敷き詰めるように羅列されている文字の中で、一際存在感を放つ見出しに目が惹かれる。

『最悪の申し子、足取り発見か!?』という、普段なら隅から隅まで読んでしまいそうな記事だが、今は新しい知識を得るより、頭の中を整理する時間がほしい。

 

 受け取った新聞を全部見もせず机の上に置き、なんとなく視線を窓に移す。

 外は昼間よりもさらに暗さを増しており、人が出ると数分もしない内に食い殺されそうな雰囲気をしていた。

 ガラスに反射している、少し透けている細肉中背の男を見つめる。

 酷い顔してんな俺。

 目細すぎないか。

 容姿という生まれ持った姿に文句を言う。

 そういえば、この世界に来てから自分の姿見ていなかったな。

 代り映えのない自分に安堵しつつも、落胆の方が大きく出てしまう。

 色々変わってしまったが、自分だけは変わってない。

 再び大きく息を漏らす。


「せっかくのチートコースだと思ったんだけどな」


 特別な力を手に出来るなんて、現実じゃありえないか。いや、特別力なら前から持ってるだろ。

 自嘲気味に薄く笑いながら、背もたれに凭れる。

 カルラさんだって、俺に『想像干渉』という能力があると言った。

 やっぱり俺には能力があるのか。

 その事実が、さらに俺を苛む。

 そんなことは、前の世界から分かってる。分かっていても、意味がないんだ。

 むしゃくしゃする気持ちを自分の髪にぶつける。

 なんで俺は能力を操れないのかなぁ。

 窓に映る俺の顔が、普段なら笑えるほど醜くなっていた。

話が全然進まない……だと。

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