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PeTItionS~峡間の二重ノンブル~  作者: 知疏
第二章
23/30

第23話 沈黙の村

 その村は異様だった。

 村人が寝泊まりをしているであろう木材と石で構成された家屋は、古びれているが手入れが行き届いており廃れているわけではない。

 移動中にあった畑の野菜もちゃん成長していたし、寒村ではないのはなんとなく分かる。

 それなのに村に足を踏み入れてから、人の姿がどこにも見当たらない。

 こそこそとせず通りのど真ん中を堂々とあるっているにも関わらずだ。

 俺でも分かる、こりゃ罠だ。

 

「へへっお客さん。往来で危なっかしいことはするもんじゃありやせんぜ」


 この期に及んで白々しい。

 人っ子一人見当たらないというのに人目もくそもあるか。

 取りあえず額の汗凄いですよ。

 カルラさんの手が汚れるちゃうから止めろ。


「ヴァルトさんはどこに居ますか?」


 歩みを止め問いかけるカルラさん。

 ドスのキレは継続中の模様。


「さっ、最初に伝えた通り協会で待ってやす!」


 反対にヘンの声は慌ただしく裏返っている。 


「嘘ではありませんよね?」

 

 鋭くない。

 棘はないが、ただただ冷たい声。

 ヘンの顔が見る見るうちに青ざめていく。

 さすがにおちゃらけた態度を保てなくなったみたいだ。

 分かるよ。カルラさん怖いもんな。


「嘘なんてつくわけありやせんよ! 信じてくだせぇ!」


 うっわ胡散臭。

 

「………進んでください」


 意外にもカルラさんはすんなりと歩をすすめ始める。

 その足取りは普段と違わず、敵陣にいるにも関わらずたどたどしさを感じさせない。

 罠なのはカルラさんだって分かってるはずだ、来る前から言ってたし。

 きっと何か考えがあるんだろうけど……。

 

 二階建ての建物が連なるなか一際存在感を放つ教会は、村のどの場所からでもその姿をおっがめられるほど高い。現に1キロは離れてるであろうこの場所からでもその姿はっきりと見える。

 きっとこの村のシンボルなのだろう。

 そこで待つと言うことは、相手は村長とかか?

 横にいるエルドさんに色々と話しかけたいが、そんな雰囲気じゃない。

 周囲を警戒しているようだ。


 窓から覗く花の飾られた花瓶、商品の置いていない売店、風の音しか聞こえない路地。

 本来なら人がいるはずの場所なのに誰もいない。

 荒廃とも違う空しい静寂に、不安をなでられる。

 

 カルラさんが何を考えているか知らないが、あまりにも堂々としすぎじゃなか?

 これじゃあいつ狙撃されても文句は言えないし、何より歩哨に気づかれてしまう。

 今のところ気配はしないが、教会から直接監視している姿がないのを見るに、間違いなくどこかには潜んでいるはずだ。

 気配がないのは、相手が俺より格上か、もしくは歩哨を配置していないかの二択。

 後者はあり得ない、と戻月なら考えるべきだろうが、常世ではどうだ?

 遠距離でも瞬時に伝えられる連絡手段があるのだろうか?

 機械の類いは目にしたことがないが、この世界には魔法がある。

 いや、魔法については疎いから分からんが、連絡手段があるにしろないにしろ歩哨はいると考えた方が良いだろう。

 とすれば俺が探知できてなくとも二人が気づいてるはず。

 エルドさんもカルラさんに付き従ってるし二人の間で何か企てられてるのだろうから、俺も口出しせずに従うけど、作戦があることくらいは知らせて欲しかったです。


 心の中でぶつくさしていると、カルラさんは唐突に足を止めた。

 

「あぶうぉっと」


 危ない危ない、今度はぶつからずにすんだぞ。

 はっと顔を上げると眼前には目的地が聳えており、数歩すすめば敷地に入る。

 周りを囲っている格子状の塀を見る限り、建物の高さの割に範囲は狭く、いかにも村の教会って感じだ。

 ジロジロと観察していると、カルラさんが神妙な面持ちで振り返る。


「ここから先は……」


 そこで一端言葉を切ると、黙り込んでしまった。

 最近のカルラさんによく見られる傾向だ。

 そんでもって二の句には重い話題がのしかかってく―――


「あグっ!」


 ―――来なかった。

 気色の悪い音を発したのはヘンだ。

 カルラさんの殺気にあてられて気が狂ったらしい。知らんけど。

 奇声をあげたヘンを一瞥し、カルラさん話を再開した。


「ここから先は本格的に相手方のテリトリーです。佳楠さんはエルドさんに乗っていてください」

「乗っているんですか?」

「はい。私たちは争いに来たわけでも諍いをしに来たわけでもありません。いざとなったら直ぐに逃げます」


 直ぐに逃げる、か。

 カルラさんの言葉に、顔が綻ぶ。


「了解しました」

「それと顔だけ絶対に見られないようにしてください」


 返事をするようにフードを深くかぶり直すと、カルラさんはエルドさんに視線をスライドさせる。


「内部の人数は合計で八人です」

「あぁ」

「村中には二十一人潜んでいます」

「にっ!」


 驚きのあまり、声に出てしまった。

 二十一名!

 中にいる八名と合わせれば総勢二十九。俺らの約十倍。

 後ろを振り返り、村を見つめる。

 白兵戦になったら負けは必至。

 かといって距離をとって戦えるような広い道もない。 


「佳楠さん? 大丈夫ですか?」

「大丈夫か大丈夫じゃないかで言ったら、だいじょばないです」

「何か問題でもありましたか?」

「問題と言うよりも……正面から攻め込んで大丈夫なんですか?」

「大丈夫です、問題ありません。私を……」


 俺から視線を外し、また伏し目になってしまった。

 大胆不敵に進軍しようとしたカルラさんが、今更慎重になることがあるのだろうか。


「……私を、何ですか?」


 カルラさんは徐に視線を戻すも、教会の方を向いてしまった。


「私がなんとかしますので、佳楠さんは心配しないでください」


 枯れ葉のような声でそう言うと、ヘンに指示を出し教会へと歩み出してしまった。

 カルラさんらしいと言えばカルラさんらしいが、らしくないと言えばらしくない。


「待て小僧」


 カルラさんの後を追いかけようとしたがが、エルドさんに呼び止められた。

 

「何ですか?」

「娘が言っていたであろう、乗れ」


 そういえばそうだった。

 俺が側まで行くと、エルドさんは乗りやすいようにしゃがんでくれた。


「エルドさんはどう思ってるんですか」


 乗りながらぼそっと聞いてみた。


「どうもこうもない。娘が情報を引き出し、我に乗って立ち去る。小僧が憂懼する必要などどこにもない」


 エルドさんも躊躇うことなく教会へ向かう。

 現状に一番にしっくりくる言葉をあげるとすれば、正気の沙汰じゃない。

 死地への入り口とも思える拱門をくぐり、両開きの扉の前で待っているカルラさんの所まで移動する。

 取っ手に手をかけ、横目でこちらに確認をとるカルラさんに、頷いて返事をする。

 腹が据わったわけではないが、引き返すという選択肢もない。

 金属同士がひっかき合うような音を鳴らしながら、扉が開かれた。


「お待ちしておりましたわ。ミス.カルラ」


 声の主は、花のようにやわらかい白のアフタヌーンドレスを身にまとった烏羽色に近い青髪の女性。

 その両脇にいる男どもを視界に納めた瞬間、心臓が一段階激しく揺れた。

 メタルプレートで頭までガチガチに装備を固めたおっさんが六人と胸に紅い紋章をつけた金髪の男が一人。男どもは腰に剣を携えている。

 高鳴る鼓動を振り払い潜考する。

 カルラさんによればこれで全員だが……。

 教会内の全てにくまなく目をこらす。

 列柱は細く人間の幅じゃ収まらないが、椅子の陰に隠れている可能性はある。

 折上天井に描かれた文様は何者にも邪魔されることなく、全貌を見せてくれている。

 二階はないので上から奇襲をかけられる心配はない。

 注意すべきは椅子だけか。


「あらあらヘンったら、そんな惨めな格好になって」


 この状況を見て動揺する素振りを一切みせない。

 

「だんなぁ、笑ってねぇで助けてくだせぇ」


 旦那ってアイツの事かよ!

 普通男だろ。


「しくじったのは貴方でしょう。自分でなんとかしなさい」

「そんなぁ……慈悲を分け与えてくだせぇ」


 ふざけなしでこびているヘンを、女は青い花をあやかった扇で顔を隠しながら愉快そうに嗤っている。

 艶やかに伸びた暗い青が、女の黒さを助長している。


「それで? 用件はなんですか? ミス.カルラ」


 質問に応答するはずのカルラさんは、取っ手に手をかけた状態のまま微動にせず、真っ直ぐに何かを見据えているように見える。

 多分相手は金髪だ。

 アイツの眼孔もカルラさんを捉えている。

 しばらく二人が動くことはなかったが、やがて息をついてからカルラさんが振り返った。


「問題発生です」

「なんだと?」


 エルドさんが聞き返すが、答えたのはカルラさんではなく


「物騒な考えはよしてください」


 金髪だ。


「先にも申しましたように、私たちは話し合いがしたい。これは命令ではなく私個人として。どうでしょうか?」


 金髪は右手を左胸に添えながら軽く頭を下げた。

 よく見る貴族の挨拶だ。


「不格好ですよ」


 カルラさんのどうともとれない返答に、男は顔を上げハハハと笑って見せた。


「失敬。柄にもないことをしてしまいました」

「本当にね。貴方の式礼からは誠意を感じなかったわ」

「いやはや、彼のヴァルト夫人に指摘されては言い返せるものも言い返せない」


 ヴァルト夫人と呼ばれた青髪と金髪が、俺たちを忘れたように静かに笑い合う。


「さて返事を聞きましょうか。私は真実が知りたい。話していただけませんか?」

「貴方に話すことなど、一つもありませ」


 即答。

 だがいつものような余裕がない気がする。

 

「それは残念です。では貴方はどうです? 小峰佳楠」


 予想だにしないタイミングに名前が呼ばれ、体がビクッとする。

 え俺? なんで俺? 俺と何話すの? ていうかなんで名前知ってんの?


「いや、貴方は喋らなくても良い。私の話だけでも聴きませんか?」


 話? コイツが俺に?

 男がニヒルな笑みを浮かべる。


「世界を混沌へと至らしめた最悪の申し子、アーチェ・エカミリス。確か現在は……カルラと名乗っている少女について」


いやー今回の戦闘シーンではエルドさんのダイナミックアイアンクローが佳南のこめかみに本当にすみませんでした!

長い期間更新しなかった挙句嘘をつく。作者は馬鹿なんでしょうか?

次回は今週中に挙げます。絶対に挙げます。

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