第14話 ラバーダッキング
いつまでこの家にいるんだろう。
エルさんの言葉を思い返すたびに、焦ってしまう。
なんでだか分からない。それについてばっかり考えてしまう。
将来が不安なのだろうか。
落ち着いて状況を整理しよう。
俺にはこの家以外に行く場所も無ければ、外に知り合いがいるわけでも無い。
このまま一生カルラさんに養ってもう、ヒモ男になってもいいのだろうか。
否、断じて否。ヒモとか絶対なりたくない。
今は準備期間だからノーカウント。
せめて家事ぐらいは手伝おう。任せっぱなしだったからな。
では、俺でもなれそうな職業とはいったいなんだ?
魔術と想像干渉の修行と並行してこの世界について勉強しているが、この世界の住民にとっては常識的なことばかり。俺には学がない。
事務や経営といった仕事は必然とボツ。
そうなってくると、冒険者や傭兵のような戦闘系の職種に絞られる。
有力なのは冒険者。
傭兵はだめだ。魔術しか使用出来ない俺では、雇われる見込みすら薄い。
想像干渉が常時使えるようになれば多少はマシなんだろうけど、万が一源理能力者だと知られたら、カルラさんみたいに国から追われるハメになるんだよな。
でもそれって国に雇われるって事だよな。案外悪くないんじゃ無いか?
……それはないな。
カルラさんがあんなにも肩身を狭くして生活しているんだ。
きっと過去につらい経験をしたのだろう。
一人の女の子があそこまで追い込まれるなんて、相当なことをされたに違いない。
美少女の敵は男の敵だ。
という訳で傭兵は却下。
消去法ではあるが、やはり有力なのは冒険者。
冒険者と一口に言っても、やっていることは人それぞれ。
迷宮を探索したり魔物を討伐したりするだけでは無く、荷物運びや育児家事などの依頼を受けることもある。
わかりやすく言えば何でも屋だ。
だが、比率で言えば迷宮探索をしている人がほとんどだろう。
迷宮というのは、魔術しかなかった時代に建設されたといわれてる古代遺跡のことで、各地に点在している。
なんでも超高額で取引される秘蔵のお宝があるとか無いとか。
そんな夢見て迷宮に挑むも、迷宮には魔物が徘徊していて、生半可な装備じゃ攻略できない。
その軍資金集めにちょっとして依頼をこなすケースが多い。
専門ではないので報酬はそう高くないが、その分依頼が絶えることは無い。
安定していると言えば安定してる職業。
俺でも簡単な依頼だけをこなせば、その日暮らしで生き延びることは出来るだろう。
でもせっかく異世界に来たんだし、パーティーとか組んで冒険してみたい。
死線を乗り越えた仲間達との、輝かしい思い出を作りたい。
特別な力だってあるし、一目置かれるような存在になるかもしれない。
……それはだめだった。
どうしよう。学も無ければ実力も無い。
その日暮らしはしたくない。
……こうなったら、もうこの手しか無いな。
――――――
昼下がり。
いつものようにカルラさんとで勉学に励んでいる。
勉学と言っても、魔術についてがほとんど。
堅苦しさは一切ありません。
レッツ勉学と行きたいところだが、今日はカルラさんに相談があるのだ。
「あの……俺にカルラさんの仕事を手伝わせていただけないでしょうか」
目線を書物に当てながら、ぎこちなくないように問いかける。
「やはり鑑定士になりたいのですね?」
「いやそっちではなくてですね」
カルラさんはふわりと微笑むと分かっています、と一言。
続きを促されたので、本を閉じカルラさんに向き合う。
俺の考えはこうだ。
家を出るのが厳しいなら、もういっそのことカルラさん元で働こう。
我ながら最低だ。
でも一番これが一番現実的だと思う。
なんなら給料だっていらない。
てな感じの旨を伝えた。
「なるほど。佳楠さんの考えは分かりました。ですが、まだ魔術の修行が終わってません。それが終わるまで、他のことは教えないと言ったはずです」
「でもこのまま何もしないわけには」
「魔術、源理能力、そして常世。佳楠さんは3つのことを覚えようと努力しています。これ以上付け加えたら、佳楠さんがパンクしますよ」
「確かにそうですけど」
それは分かってるんだけどね、俺も役に立ちたいって何と言うか、何かしてあげたいって言うか……頼られたい。
あ、そっか。頼られたいんだ。
ここまで成長したって事を、カルラさんと対等になることで認められたいのか。
なんと馬鹿なことを。
俺もまだまだ子供だな。
悩みの原因が分かった途端に、気が晴れるのを感じた。
「すみませんカルラさん、俺が間違っていました。烏滸がましかったですね。ちゃんと魔術も想像干渉も習得してから出直します」
「私もその方が良いと思います」
「その時は、カルラさんの仕事を手伝わせてくれるんですよね」
「それは佳楠さんの実力次第です」
カルラさんはかわいらしく顔を綻ばせた。
質問は濁されてしまったが、この笑顔が見れたならプライスレス。
「あ、家事は手伝ってくれて構いませんよ」
「当たり前ですよ」
抜け目の無い人だ。
手伝うけどさ。
あ、家事とは関係ないかもしれないが、あれも習っておきたいな。
リベンジのために。
「俺に弓を教えてくれませんか?」
「パンクしますと伝えたばっかなのですが」
「あえっと、あのですね。狩猟をしようと思うんですよ。食料調達のために」
「食料には困っていませんが」
「あ、そうだったんですね。えっと、それなら……俺のためです。狩猟が出来た方が何かと便利でしょ」
「……確かに一理あります」
「それにこの世界についての勉強もそろそろ切り上げて、本格的に実践に向けたいと言いますか」
「では、アマヅラシをすべて覚えることが出来たら教えましょう」
やっぱりそうなるのか。
致し方ない。
「分かりました。約束ですからね」
やりたいことが山積みだ。
でももう焦りは無い。
生き急がず、落ち着いて片付けていこう。
コトバニダス、コレダイジ。