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PeTItionS~峡間の二重ノンブル~  作者: 知疏
第二章
10/30

第10話 初めての魔法

 あれから数日が経過し、俺達はまたしても家の近くの少し開けた場所にいた。

 もちろん街に行くわけではない。

 ついに今日から始まります魔法の修行。

 ここ数日間、いやこの世界に来てからずっと勉強漬けの毎日だったから、この時をどれだけ待ち望んでいたことか。勉強もそれなりに楽しかったけど。

 今までの成果を見せるの時はきた。 


「では始めます」


 最初に行われるのは、カルラさんによるデモンストレーション。

 持っていた巾着袋から拳大の黒一色に染まった石を取り出すと、それを左の掌にのせ、逆の手で蓋をするように覆う。

 この石は魔鉱石と言って、魔法の修行でよく使われるものだそうだ。


「危ないので、二三歩下がってください」


 指示通り二三歩下がると、カルラさんの手にがやわらかな朱に淡く輝き出す。

 朱は段々と紅へと変色していき、いつしか火花を散らし始める。

 カルラさんが右手を徐々に浮かせ始めると、右往左往に散っていた火花が、右手に誘われるように上へと動きを変える。

 火花は一つに纏まり、炎が姿を現す。

 そして、カルラさんの右手が勢いよく振り上げられると、せき止められていた炎は天高く舞い上がり、火柱へと変貌を遂げる。


「すげぇ」


 手品のような不審な動きがあるわけでもなく、ごく自然と行われる一挙手一投足。

 そこから生み出される非現実的現象。

 これだよこれ! 俺が見たかったのは。

 今まで何回かカルラさんが魔法を見せてくれたが、地味なのが多かった。転移魔法にはさすがに興奮したけど。

 やっと目にすることが出来た妄想通りの魔法。

 それを俺も使えるようになる。

 希望に胸を膨らませ、カルラさんの魔法が終わるのを待つ。

 火柱は一向に衰える気配はなく、範囲を拡大している。

 鬱蒼とした森林の中で炎魔法。いくらこの場所が開けてるといっても、少しのミスで周りの木々に燃え移るのは当たり前。

 カルラさん? それ以上いくと、結構やばいっすよ。

 もう十分見たんで、終わっていいっすよ。

 カルラさんを見ると、恐ろしいことに彼女は僅かに笑っていたのだ。

 ここら一帯でも焼き払うつもりかよ。


「カルラさんもう魔法を止めてください。でなきゃここら一帯が焼け野原になっちゃいますよ」


 カルラさんは少し落ち込んだような表情でこちらに顔を向けると、わかってますとぼそっと呟いて右手を魔鉱石に被せた。

 火柱は姿を消し、木々も焼けている様子はない。

 そのことに安堵していると、カルラさんが俺に魔鉱石を渡してきた。


「次は佳楠さん番です。今のようにやってみてください」

「はい」

 

 受け取った魔鉱石は温かく、先ほどの光景が現実だと実感させる。

 俺がこれから行うは魔法は、『媒介魔法』と呼ばれる魔法だ。

 そもそも魔法というのは、空気中にある魔素を体内に取り込み、マナと呼ばれる器官を通して魔力へと変換する。ただ、その変換量は少なく、生身で魔法を発動することは出来ない。そこで、魔素を含んだ物質を媒体とすることで、媒体の中にある魔素を自身の魔力で結び、魔力量を増やすことによって魔法が発動できるらしい。媒体にする物質は、魔素を含んでいるなら何でものいいそうだが、基本的には人工的に作られてた杖が使用されている。

 因みに魔鉱石は特に魔素が多く含まれている物質らしく、魔法の練習にはうってつけらしい。

 別段希少というわけでもないので、一般の家庭には一個は置いてあるそうだ。

 他にも色々教えてもらったが、つまりは何かを通さないと魔法は使えない。これだけを覚えとけば取りあえずオーケーだろう。

 ぶっちゃけよく理解してないし、理論とかは難しいから全くわからん。

 

 カルラさんが見せてくれたのは、纏炎てんえんと呼ばれる、媒体を炎で覆うだけの簡単な魔法。炎にする理由は、ある程度不安定でも生成しやすいからだそうだ。

 火の大きさによって、大体の魔力量がわかってくる。多ければカルラさんのように溢れかえり、少なければ僅かに変色するだけ。

 

 はてさて、俺はどんくらいの魔力を持っているやら。

 カルラさんと同様に魔鋼石を両手で包み込む。

 よしっ、と一言気合いを入れ、魔鉱石に力を注ぎ始める。

 全身の流れをすべて集結させるように、手に込める力を強めていく。

 魔法の発動させかたは存外シンプルなもので、想像力が大いに関わってくるらしい。

 魔法を構成するのが魔力で、発動させるのが想像力と言ったとこだ。

 そして、両目を閉じ、小さな火種を想像する。

 火種はとても小さく、暗闇の中でも目立つことはない。

 それが次第に存在感を大きくし始め、燃えたぎるような炎へと変貌を遂げ……あれ?

 魔鉱石が変化していない。

 おかしいな、教えてもらってたとおり、魔鉱石に力を注ぎ、炎をイメージしたはずなんだが。

 もっかいやってみよう。

 えーと、全身の流れを魔鉱石に集めるようにして、炎をイメージして……何も起きない。

 簡単だって聞いたんだけどな。 


「何も起こらないんですけど……」

「魔鉱石に触れたとき、何か感じましたか?」

「えっと……温かかったです」

「それだけですか?」

「……堅いと感じました」


 カルラさんは黙り込むと、顎の前で拳を握り観察するように俺を見てくる。

 嫌な予感がした。

 そんなまさか、だってカルラさんだって誰でも使えるって言ってたし、そんなことあるわけない。

 そう信じたかったが、答えはすぐに出てきた。


「落ち着いて聞いてください」


 その瞬間に悟った、俺は魔法を使えないのだと。


「佳楠さんは今、魔法が使えない状況にあります」

「……え?」


 答えは俺の予想と違っていた。

 魔法が使えない状況、つまりは魔法が使えなくなるかもしれないとうことだ。


「佳楠さんの体は、理由はわかりませんがマナが機能していません。塞がっているといった方が正しいでしょうか」

「どいうことですか?」

「マナが他の器官と繋がっていないせいで、機能していないのです」

「なんでですか」

「わかりません」


 ちょっと混乱してきた。

 俺のマナは機能していないし、その理由もわからない。

 いや、理由の方は大体予想がつく。

 戻月には魔法がなかったんだ。

 きっと戻月の全員が、マナの機能していない、もしくはマナそのものを持ちえない体に進化したと考えられる。

 そこはどうでもいいんだ。

 今知りたいのことは他にある。


「それで、俺は魔法を使えるようになるんですか?」

「……わかりません。多分、使えない可能性の方が高いと思います」

 

 またこのパターンか。

 俺の人生はいつもそうだ。

 大きな希望を持たされたと思ったら、どん底に落とされる。

 早くして死ぬし、なんだよこの不幸な人生。

 もう悲しみを通り越して呆れるまである。 


「ただ……」

「……ただ?」

「魔力を使わない魔法なら使えると思います」

「……はい?」


 魔力を使わない魔法?

 そんなもの教わった覚えがないぞ。

 てか、魔力を使わないのに魔法って言えんのかよ。


「魔法には、魔力を駆使せずとも発動できるものがあります。正確には、魔法と異なったものになるのですが」

「初耳です」

「覚えるのが必要がない思ったので、教えていませんでした」


 なんでだよ、ちゃんと教えてくれよこのお茶目さんめ。


「教えてください! 覚えます、絶対!」


 希望は残されている。

 俺の人生も捨てたもんじゃないな。

 そう自分を励ましてみても、心の不安が消えることはなかった。

いつも絶望してんなこいつ。

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