プロローグ
走馬灯ですよ。
まさしく走馬灯。
サラリーマン、48歳、妻、娘あり。
地方の中堅印刷会社の平管理職、出戻り。
同業他社で出世して、現場管理職になった途端に会社が倒産、
途方に暮れていたら前の会社からおよびが掛かり、現場復帰。
以前の後輩に顎で使われて、ストレスで脳梗塞になり、
管理職として復職。
ようやく仕事に慣れて、近々主任の声がかかってきた、のに。
通勤中の車のなか、いつも通りの交差点で、俺の車の側面に、
信号無視の大型トラックが突っ込んできたのだ。
何がなんだか。
瞬間的に時間が止まった気がして、今までの人生が思い出される。
小学生からシミュレーションゲームにはまり、社会人になってからTRPG、更にカードゲームにのめり込み、35歳で妻と出逢い結婚、ゲームから足を洗い、妻と産まれた一人娘の為に捧げた人生。
悔いが無い、と言えば嘘になる。
まだ娘は11歳。
妻には苦労をかけてばかり。
ただ、小さな我が家は俺が死んだら支払い義務が無くなる。
更に死亡保険は3,000万、トラックの運転手からも慰謝料が出る。
なんとか生活出来るだろう。
って、ずいぶん長い回想だな。
いや、思考が加速してる?
もしくは時間の流れる速度が遅くなっている!?
[気がついたかな?]
頭の中に知らない女性の声が響いた。
誰だよ、何だよいったい!?
[もう、貴方は死んじゃうんだけど、意識だけ逃げる事が出来るの。どうする?]
意識だけ?
体はどうなるんだよ!?
それって死ぬのと変わらないだろ!!
[確かに体は死ぬんだけどね。でも、意識とか、記憶は残るの。体は、まあ、何とかなるよ。]
俺はもう、戻れないのか?
[死んだら可能性は零だけど、意識が有るなら可能性は零じゃないよ。]
可能性は有るのか。
そっちに何のメリットが有るのか知らないが、
それに乗るとしよう。
[覚悟できた? じゃあダウンロードするよ!]
俺の意識が急速に薄れて、暗転した。
最後にみえたのは、俺の家族の笑顔だった。