第一幕 第五場
村長の屋敷の広間には、村長と妻のトゥルーデに女中のグレーテル、それに老いた猟犬ズルタンが残っていた。
「ああ、あなた」トゥルーデが心配そうに言った。「これで猟師猟犬の皆さんが警戒してくれますけど私はまだ不安で不安で。やっぱり村の重役達にも知らせておくべきだったかしら」
「落ち着きなさいトゥルーデ。優秀な猟師達が警戒してくれているだ。何の心配もいらないよ。それに重役達には祭りの進行という大切な仕事がある。彼らの手を煩わせる訳にはいかない」
「だけどあなた。私は心配で心配で」
「大丈夫だ。あとの事はワシにまかせなさい。お前は祭りの後、この家でおこなわれる重役達を交えての晩餐会の準備を料理番や女中達と一緒に進めておいてくれ。たのんだぞ」
「……わかりました。あなたがそう言うのならば」トゥルーデはしぶしぶ奥の部屋へと行く。
村長は安堵のため息をついた。
「これでトゥルーデが事を大きくする事はなくなったぞ」
「あのー村長様」ズルタンが村長を見上げる。「私になにかできる事はありませんか?」
「ズルタンよ。気持ちはうれしいが老いたお前さんでは——」
「いい事思いつきました村長様」グレーテルが村長の言葉を遮った。「ズルタンの嗅覚で手紙のニオイを追跡してみてはどうでしょうか? それなら老犬でも楽にこなせるはずです」
「たしかにそれはいい考えじゃのう」村長はズルタンに顔を向ける。「出来るかズルタン?」
ズルタンは力強くうなづいた。「もちろんです。やらせてください」
「よしわかった」村長は懐から手紙を出すと、これをズルタンの鼻先に近づける。
ズルタンは二度三度ニオイを嗅ぐと、広間の開け放たれた窓に顔を向けた。
「あっちです」
「よし行くぞズルタン」村長は玄関へと向かう。
グレーテルもそれに続く。「万一に備え、私も同行します村長様」
こうして二人と一匹の追跡劇が始まった。
ズルタンはニオイを追ってにぎやかな村の中心地へと向かっていく。
「この方角からにおってきます」村の中心地へと近づくにつれて、にぎやかさは増していく。「近い近いです」
そして村の中心地にある広場へとたどり着いた。広場はおっぱい祭りで浮かれた人々でごった返している。舞台の上では牧師のハインツがなにやらしゃべっていた。
「村長様あそこです」そう言ってズルタンが指し示したのは、舞台裏にある大きめのテントだった。そこは舞台で催し物をする人たちの控え室として使われている場所だった。
二人と一匹に緊張が走った。
村長はおそるおそるテントの中をのぞいて、そして目を丸くする。なぜならそこにいたのは、おっぱいコンテスト出場者の六人だったからだ。