第一幕 第三場
村長の屋敷は村の広場から離れた所にある、おっぱい村の一等地に建っていた。広い庭園に地上三階、地下一階という立派な屋敷が堂々と鎮座している。屋敷の最上階からはおっぱい村の全貌が窺えるほどの景観で、村に張り巡らされた川のような用水路の流れがよくわかる。用水路は村の入り口から村長の屋敷の方角へと流れていた。
女中のグレーテルとともに屋敷に戻った村長を出迎えたのは、新妻のトゥルーデだった。
トゥルーデは三十代半ばにもかかわらず、二十代前半に見えるほど見た目が若くて美しく、そしてなによりも胸が大きすぎもせず小さすぎもせず整った美乳だった。
「ああ、あなた。ようやく帰ってきてくださったのね」トゥルーデはそう言うと村長に手紙を差し出す。「これを見てください。何者かがうちの玄関前にこれを置いていったのです」
村長は手紙を受け取るとそれを読み始めた。
「なになに。おっぱい村の村長へ。おっぱい祭りを中止せよ。さもなければおっぱい村に災いが訪れることだろう。それでもなお、おっぱい祭りを続けるというのならば、おっぱい村の村長には死んでもらうことになる」
「ああ、どうしましょうあなた」トゥルーデはひどくおびえた様子だった。
「落ち着きなさいトゥルーデ。こんなのただのイタズラじゃよ」村長は妻をなだめる。
「でも万が一という事もあります。村の猟師達を集めて警戒させましょう。私がすぐにみなさんを呼んできますね」
トゥルーデはすぐさま家を飛び出していった。村長の呼び止める声はむなしく家の中に響く。
「まったくあいつは顔と胸はいいのに、そそっかしいのが玉にきずじゃ」
女中のグレーテルが微笑する。
「それだけ村長様のことが大切なんですよ。奥様ったら村長様がいない時に言っていましたよ。あの人は私たち母娘を家族として迎え入れてくれた恩人だ。あの人のためなら私は死んだってかまわない。それほど私はあの人のことを愛していると」
「照れるのう」村長は照れくさそうに頭をかいた。「しかしこんなイタズラごときで猟師達を集めるのは気が引けてしまう。猟師達もおっぱい祭りを楽しみたいはずなのに」
「村長様、奥様の行動は私は正しいと思います」
「ん、どうしてじゃ?」
「考えてみてもください。おっぱい村の住人にとっておっぱい祭りは年に一度の楽しみ。それをイタズラにしても中止せよ、などという輩がいるでしょうか。おそらくそんな村人はいないはずです。だとしたらあの手紙は外部の人間によるものと考えるのが妥当かと。それならば猟師達を使って、村の外を警戒するのが一番の策だと奥様は考えたのでしょう」
「なるほど、たしかにそうじゃのう。だが手紙は誰が持ってきたのじゃ。おっぱい村の中に怪しいよそ者は……」そこではっとした表情になる。「まさか!」
「気づかれましたか村長様。おっぱいコンテストに飛び入り参加した、魔女の格好をしたあの女の子がいます」
村長は気難しそうに唸る。
「たしかザンネとかいったかのう。しかしあんな小さな女の子がそんなことをするだろうか?」
「見た目に騙されてはいけません村長様。魔女は魔法でその姿形を自由に変える事ができます」
「グレーテル、よもやお前はあのザンネとか言う女の子が魔女だと本気で考えているのか?」
グレーテルはうなずいた。「魔女、もしくはそれに関係するなにかだと思っています」
村長は笑いを漏らした。「よせやいグレーテル。魔女なんて森の奥深くに引きこもっている婆さんじゃぞ。どうしてこんな辺鄙な村にやって来るんじゃ?」
「それはわかりませんが、ザンネの名を名乗った以上、警戒するにこしたことはありません」
村長の顔つきがにわかに険しくなる。「グレーテルよ。それはどういう意味じゃ?」
「私は両親を亡くしこの村に流れ着く前は、おっぱい王国に住んでおりました。その頃に聞いた話ですが、魔女ザンネは三大魔法使いの一人で、悪名高い人食い魔女として有名であり、その名を口に出すのもはばかられる存在でした。その名を平気で口にし、ましてやその名を名乗るとは怪しすぎます」
「確かに怪しいのう」村長は顎を撫でさする。「けれど子供ゆえの無知なおこないかもしれんぞ。子供は怖いもの知らずだからな」
「村長様。警戒するにこした事はありません。幸いにもお嬢様がおっぱいコンテストに参加しておられます。お嬢様にザンネを監視するようお願いを——」
「ならんぞグレーテル!」
村長が声を大にしてグレーテルの言葉を遮った。
「せっかくこのワシをお義父様と呼びしたってくれる愛娘。マリィーには存分におっぱい祭りのおっぱいコンテストを楽しんでもらうのだ。この件に関してマリィーは絶対に巻き込まんぞ。いいな」
「……わかりました村長様」グレーテルは不承不承といった様子だった。
村長はゆっくりとグレーテルの背後にまわると、その肩に手を置き耳元でささやいた。
「安心せいグレーテル。お前さんは物事を悪い方向に考え過ぎじゃ」
「でも私は村長様の身が心配で」
村長は後ろからグレーテルの形の整った美乳を鷲掴みにすると、これをもみだした。
「嬉しい事を言ってくれるのう。お前はなんていい女なんだグレーテル」
グレーテルはメイド服のスカートをたくし上げると村長の手を取り、自分の太ももに滑り込ませる。
「万一ということもありますし、その時はこれを使いますね」
村長の手には固く冷たい感触があった。それはガーターベルとの留め具に装着されたナイフだった。
「もちろんかまわんさ」
村長はそう言うと手を胸に戻し再びもみ始める。
「さあ、トゥルーデが帰ってくるまでワシを楽しませてくれ。グレーテル」
グレーテルは婉然と微笑んだ。
「村長様ったら、奥様も娘もいるのにいけない人だわ」