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第一幕 第二場

 村人達の歓喜の声のなか、村長は満足げな笑みを浮かべながら舞台を下りると、そこで待機していた牧師に向かって言った。


「あとは頼んだぞハインツ」


「おまかせください村長様」牧師はそう言うと舞台に上っていく。


 村長は牧師の背中を見て思った、この男におっぱい祭りの進行役を任せてよかったと。牧師のハインツはまだ二十代の若者で、祭りの進行役という大役には適さないと村の重役達は考えていた。だがしかし、祭りの準備の際に見せたひたむきな態度と献身っぷりに重役達は心打たれ、その考えを改めたのだった。


 牧師は舞台に立った。大勢の観衆にすこしも臆する様子は見せない。


「みなさんこんにちは。牧師のハインツです。今年のおっぱい祭りの進行役を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いします」


 村人達から拍手が上がった。


「それではおっぱい祭りのメインイベントである『おっぱいコンテスト』について説明させていただきます」


 牧師は懐から紙切れを取り出した。紙切れにはおっぱい村の象徴である二つ連なった『U』の文字が刻まれている。


「みなさんのお手元には事前に配られたこの投票用紙があると思います。みなさんにはこれから紹介するおっぱいコンテスト出場者の中から、誰がもっとも美しいおっぱいなのか投票していただくことになります。その際には必ず投票者の名前を書く事。無記名は無効となりますのでお気をつけ下さい。集められた投票用紙は私が責任を持って管理し、開票させていただきます」


 村人達は事前に配られていたであろう投票用紙を取り出し、それを見つめる。


「ここで一つ注意点があります。毎年の事ですがおっぱいコンテスト出場者の決意表明終了後にすぐさま投票に来る方がおられますが、それは出来ませんのでご注意ください。投票は今から六時間後の午後六時にこの広場で行われます。そしてその一時間後に結果発表となっております。ですので、この六時間の間に誰に投票するのか決めておいてください」


「俺はもう決まっているぞ!」誰かが叫んだ。「トリーネさんだ!」


 村人達はお調子者の言葉に声を大にして笑った。


「まあまあ落ち着いてください。ご存知の通りおっぱいコンテストの出場者は決意表明終了後、投票までの時間を使って村人達に自分のおっぱいのすばらしさを伝える事が出来ます。これがおっぱいコンテストの重要なところ。たとえ最初のアピールでトリーネさんに決めたとしても、その後の他の出場者のがんばりしだいでは、投票者の心変わりを起こし票をもぎ取る事が出来ます」


 村の男達がにやついた笑みをうかべた。


「ただしおさわりは厳禁!」


 牧師は語気を強め、村の男達に釘を刺した。


「コンテスト出場者のおっぱいに手を触れた方は投票権を失います。毎年何人か投票権を失う方がいますが、そのような破廉恥なおこないは決してなさらぬようお願いいたします。そしてコンテスト出場者は服を脱いでおっぱいをさらけだしてはいけません。その時点で失格となりますのでご注意ください。あくまで健全なコンテスト。清く正しく己のおっぱいのすばらしさを伝えてください」


 舞台袖から派手な衣装に身を包み白い仮面を付けたピエロ達が十数人現れた。ピエロ達はヴァイオリンやチェロ、ティンパニなどの楽器を手にしている。ピエロ達は舞台脇に陣取ると陽気な音楽を奏で始めた。


「みなさま大変長らくお待たせしました」牧師が言った。「これよりおっぱいコンテスト出場者の紹介に移らせていただきます」そこで一呼吸間を置くと声を張り上げる。「おっぱい祭りのおっぱいコンテスト。その栄冠を手にし賞金百万グルデンを手にするのはいったい誰なのか!」


 村人達が沸き立つ。誰しもが待ちに待っていた瞬間だ。


「それではエントリーナンバー一番どうぞ!」


 舞台袖からやせっぽちの少女が姿を現した。ツギハギの粗末な服を着て、おどおどしながら舞台中央に歩いてくる。少女の胸にはなだらかな丘陵しか見当たらない。


「村一番の貧乏娘」牧師が言った。「このおっぱいコンテストで優勝して賞金を手にし、男手ひとつで自分を育ててくれている父親に恩返しをしたい。なんとも泣かせてくれる出場理由。しかしその小さな胸では優勝は厳しいか。だがあきらめるのはまだ早い。男達の中には貧乳好きも多い。そこに好機があるぞ」


 少女は舞台中央に立つとお辞儀をした。


「あ、あの。リーゼ十三歳です。よろしくお願いします」そう言うと舞台後ろに下がる。


「続きましてエントリーナンバー二番どうぞ!」


 舞台袖からフリルの付いた白いドレスに身を包み、猫耳としっぽを装着した少女が姿を現した。少女は背筋をピンと伸ばしゆったりとした足取りで舞台中央に進む。自信に満ちた少女の胸はごく普通の大きさだ。


「おっぱい村の村長の愛娘」牧師が言った。「お義父様に見繕ってもらったこのドレスで優勝を勝ち取ってみせます、と大会前から勝利宣言。その自信に裏打ちされた美貌と平均的な胸は男達の心を鷲掴み。やはりおっぱいは普通の大きさが一番なのか」


 少女は舞台中央に立つと、スカートの両端をつまみ軽く会釈をする。


「おっぱい村の村長の娘、マリィーです。今年で十四歳になります。みなさま、以後お見知り置きください」


 村長はにんまりと笑った。やはりマリィーはかわいい。優勝するに違いない。


「続きましてエントリーナンバー三番どうぞ!」


 舞台袖からごく普通の村娘の格好をした少女が現れたかと思いきや、いきなり転んだ。少女は照れ笑いしながら立ち上がると、大きな胸が揺れた。


「おっぱい村きってのドジっ子。炸裂する天然ボケはハンスと一位二位を争うほどだ。やはり巨乳は胸ばかりに栄養がいってしまうため頭は馬鹿なのか。しかしそんなおっちょこっちょな彼女だからこそ、愛でたい男がいるのも事実。それが勝負にどう作用するのか見所だ」


 少女は舞台中央に立つと笑顔で手を振った。


「えー、あのー。エルゼです。十六です。がんばりますのでよろしくね」


「続きましてエントリーナンバー四番どうぞ!」


 舞台袖から背中が大きく開いた真紅のドレスを着た女性が登場した。その女性が腰をくねらせながら歩くたびに、深いスリットからなま足が姿を現し、たわわに実った胸が揺れる。


「でかい! 巨乳娘エルゼとはなんだったのか。あっちが巨乳ならこっちは爆乳だ。熟れた人妻が大人の魅力を見せつける。ああ、人妻。なんて甘美な響きだ」


 女性は舞台中央で前屈みになると、これみよがしに胸の谷間を強調する。


「イルゼビルよ。年は二十三。みんなよろしくね」そう言うと村人たちに向けて投げキッスをした。


「続きましてエントリーナンバー五番どうぞ!」


 舞台袖から筋肉隆々の老婆が姿を表した。格好こそ普通の村娘だが、ふくれあがった筋肉のせいで服がひきちぎれんばかりにぴったりとしている。堂々と歩く姿はとても男らしい。


「今年で出場記録は連続三十回。しかし一度たりとも優勝できない。無駄な贅肉がいっさいないその筋肉質の胸に、いったい誰が魅了されるのかはなはだ疑問だ」


 老婆が舞台中央に立つと同時に、村人達からブーイングがあがる。老婆はそれに両の中指を立てて応えた。


「あたたかい声援ありがとう。今年もトリーネをよろしくね」


「以上の五名でおっぱいコンテストを——」


「ちょっと待った!」そう言って黒いローブにとんがり帽子をかぶった小さな女の子が舞台に上がってきた。「わらわも、おっぴいコンテストに参加してやろうではないか」


「ちょ、ちょっとお嬢ちゃん」突如現れた女の子に牧師は戸惑う。「これはおっぱいコンテストだよ。お嬢ちゃんには胸ないでしょ。それに見かけない顔だね。どこの子だい?」


「よいではないかハインツ」村長が牧師に向かって言った。「今日はお祭り。よそ者の飛び入り参加も認めようではないか」


「よくわかっておるではないか村長様は」女の子はしてやったりの笑みを牧師に向けると、村人達に向き直る。


「わらわはザンネ。この肉体は五歳児だが、その魂は百年以上も生きる伝説の魔女なり。今日は愚かな人間どもの遊びに付き合ってやろう。感謝するのだぞ」


 村人達が苦笑いをするなか、牧師が仕切り直す。


「えーではみなさま。以上の六名でおっぱいコンテストを行いたいと思います。それでは決意表明タイムに移らさせていただきます」


 今年もおっぱいコンテストは盛り上がるぞ、と村長が思っていると誰かが腕の袖を引っ張った。村長が振り向くとそこにいたのはメイド服をきた少女。それは自分の屋敷で住み込みで働いている女中のグレーテルだった。


「大変です村長様」グレーテルは言った。「今すぐお屋敷にお戻りください」

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