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第一幕 第十場

 村長は自室の窓の前を行きつ戻りつしていた。おそいおそいまだ帰ってこぬのか、と心の中でぼやく。


 村長は自室に集まった人々に目を向ける。厳しい表情の猟師猟犬達の沈黙が場の空気を重くする。それに異を唱えるように、ようやく泣き止んだ巨乳娘のエルゼがくしゃみをし続ける。そのたびに巨乳が揺れた。


 ドアがノックされた。エルゼを除く一同に緊張が走る。


「失礼します」そう言って女中のグレーテルが部屋に入ってくる。グレーテルの後には胸の大きな少女が続く。その少女は咳き込み、そのたびに巨乳が揺れた。その姿はまぎれもなくエルゼだった。


 その場にいた人々が信じられないといった様子で二人のエルゼを見つめる。


 くしゃみをするエルゼが咳をするエルゼを見て言った。「あれれ? 私がいる?」


 咳をするエルゼがくしゃみをするエルゼを見て言った。「本当だ。私がいる」


 二人のエルゼは互いに互いを観察しあう。その様子はまるでエルゼが鏡を覗き込んでいるのではないかと錯覚してしまうほどだ。


「ええいエルゼよ」村長が部屋の壁を指し示す。「そこに並びなさい」


「どっちの?」咳をするエルゼが言った。


「私?」くしゃみをするエルゼが言った。


「二人ともじゃ。今すぐに並びなさい」


 二人のエルゼは言われた通りに壁に背を向け並んだ。その二人を取り囲むかのように猟師猟犬達が並ぶ。村長と女中のグレーテルはその列の真ん中に陣取った。


 村長が咳払いする。「さてとエルゼよ。これはどういうことかね? どうしてお前が二人もいるのじゃ?」


「えっ?」くしゃみをするエルゼが言った。「どうしてだろう?」


「どうして私が二人いるの?」咳をするエルゼが言った。


 くしゃみをするエルゼが咳をするエルゼに言う。「あなたエルゼ?」


「うん私はエルゼ」咳をするエルゼが答えた。「あなたもエルゼ?」


「うん私もエルゼ」くしゃみをするエルゼが答えた。


「ええいハッキリせんか!」村長が怒鳴り声をあげた。「同じ人間が二人もおるわけないだろうが。どちらかが偽物にきまっておる。それは誰じゃ!」


「だとしたら私はエルゼじゃないのかな?」咳をするエルゼが言った。


「もしかして私はエルゼじゃないのかな?」くしゃみをするエルゼが言った。


 村長の額に青筋が現れる。「こやつらめ。人を馬鹿にしおって」


「村長様」グレーテルが言った。「天然ボケのエルゼに化ければバレる可能性がぐっと低くなる。それを知ってて化けているとすれば敵は賢いです。これを見破るのは難しいでしょう」


「うむ。弱ったのう。どうすればいいんじゃ」


「私にお任せください村長様」


 グレーテルは屈むとスカートの中に両手を入れる。そしてゆっくりと立ち上がると、その両手にはナイフが握られていた。


「おっぱい祭りを、おっぱいコンテストを邪魔するヤツは許しておけません。ましてや、村長様の命を脅かす輩など言語道断。この二人のどちらかが偽物とわからなければ、両方殺せばいい」


 そう言うとグレーテルはナイフを掲げる。


 村長は叫んだ。「待て早まるなグレーテル!」


 グレーテルは二人のエルゼに向けてナイフを投げた。ナイフはそれぞれの顔面に向かって飛んで行く。咳をするエルゼは素早く身を屈める。くしゃみをするエルゼは微動だにしない。何が起こっているのかわかっていない様子だ。やがてナイフはくしゃみをするエルゼの顔面すれすれを通過し、壁に突き刺さった。くしゃみをするエルゼの髪の毛がいくつか舞い落ちる。


「これで決まりですね」グレーテルはとっさに屈んだ咳をするエルゼを指差した。「こいつが偽物です。天然ボケのエルゼなら、飛んでくるナイフを避ける事など出来ませんからね」


「お前が犯人か」村長は咳き込むエルゼに言った。「脅迫状もお前の仕業だな」


 咳き込むエルゼはさらに咳き込むと、両手を地面につけ四つん這いになる。息を喘がせながら笑った。


「そうだよ。私が脅迫状をこの家に送りつけたのさ」


 猟師達が猟銃を構え、猟犬達が闘争態勢に入った。


「貴様!」村長は偽エルゼを鋭くにらみつける。「どうしてそんなことを」


「どうして?」偽エルゼは息苦しそうに胸を押さえた。「すべては『魔女ヨリンデ』のためさ」


「ヨ、ヨリンデだと」その言葉を聞いて村長がうろたえ始めた。


「そうさヨリンデさ。ヨリンデはこのおっぱい村を憎んでいる。お前がおっぱい村の村長の座にいる限り、命の保証はないぞ。命がおしくば、村長を辞める事だな」


 そう言うと偽エルゼは悲鳴にも似た雄叫びをあげた。すると偽エルゼの体から煙が立ち上る。そしてその煙が晴れると、そこには偽エルゼではなく一匹の女狐の姿があった。


 女狐は自分の姿を見て戸惑っている様子だった。「ど、どうして魔法が解けたのさ?」


 突然の出来事に一同は度肝を抜かれ、呆然と立ち尽くしていた。


 その隙を女狐は逃さなかった。瞬時に人々の間をすり抜けると窓を破り逃走する。


「しまった!」村長が叫ぶ。「追え。追うのじゃ!」


 猟師猟犬達が慌ただしく部屋を出て行く。


 部屋に残されたのは村長と女中のグレーテル、それに巨乳娘のエルゼだけだった。


 村長はイスに重たい身を沈めた。


「ヨリンデだと。まさかそんな馬鹿な……」そう言うと村長は押し黙ってしまう。

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