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病室にて  作者: ぬ~
7/7

最終話 退院にて

退院の日。

「それじゃあ、高野君、包帯を取るよ?」

と、お医者さんが言った。

僕は緊張しながらも頷いた。

包帯が、くるくると僕の目から外されていくのが解る。

そして包帯の感触が目から離れたとき、

「目を開けて」

僕はゆっくりと目を開けた。


眩しい・・・。


僕は目を細めた。

一瞬目の前が真っ白になり驚いたが、時間が経つにつれて光に眼が慣れ始めた。


真っ白の部屋。

ここにずっと居たんだ。と、改めて部屋を認識する。

そして、白衣を纏いメガネをかけた初老のおじさんが目に入った。お医者さんだ。

そしてその隣に、看護婦さんが立っている。その隣には母が笑顔で立っていた。

そして、

その隣。

見た事のない男性が立っていた。

僕は言った。

「森川さん・・・?」

男性は黙って頷いた。



荷物をまとめた後、僕は母に先に車に行ってもらっていた。

夏休み中過ごした病室のベッドに座って、その男性を見る。


森川 修一さん。


島野 明美お姉さんの大切な人。

森川さんには、ちゃんと足があった。

「退院おめでとう」と、森川さんは言った。

ありがとうございます。と、僕はちょっと前まで幽霊だと思っていた男性に頭を下げた。


そういう事だった。

森川さんは幽霊じゃなかった。


あの日。

お姉さんに屋上から突き落とされそうになったあの日、森川さんは僕の病室を訪ねてくれた。

そして、全てを話してくれた。


森川さんは重病にかかり、ずっとこの病院で治療をしていたらしい。

しかし容態が悪化し、医師すらも手の施しようの無い状態になってしまった。

それを悲しんだのが明美お姉さんだった。恋人である森川さんの病を治すために、お姉さんはお百度参りをしていたそうだ。

毎日毎日、ずっと神社の神様にお参りをしていた。

すると、奇跡的に森川さんの容態は良くなっていったのだ。

しかし、ここで問題が起きた。

森川さんの無事を祈り続けてきた明美お姉さんが、森川さんと入れ替わるかのように病に倒れた。

これが、僕が入院する一日前のことだ。

そう。

つまり、僕がこの病院に入院しに気た時には既に、お姉さんはこの病院で生死の境をさまよっていたのだ。

そう。幽霊は森川さんではなく、お姉さんの方だった。


ここからは僕の推論でしかないが、あの日、僕が始めてこの部屋で“何か”の気配を感じた次の日、お姉さんは僕の部屋にお見舞いに来た。

あの時点でお姉さんは、幽体となって僕の前に現れたのではないかと思う。

そしてその日の夜、金縛りのあの夜に、お姉さんは息を引き取った。

後から聞いた話だが、お姉さんの病室は僕の病室の隣の隣だったらしい。あの夜お医者さんの声や看護婦さんの声が騒がしかったのは、お姉さんの処置をしていたからだった。

そしてお姉さんは幽霊となって僕の前に現れて、僕を屋上へ連れて行った。


「彼女は、君を弟のように思っていたらしい・・・」

森川さんが悲しげな顔で言った。

「だから、君を連れて行きたかったのかもね・・・」と。

そうですか。と、僕は言った。

森川さんが僕の部屋に来て以来、お姉さんは現れなくなった。

「彼女の最後に会ったのが僕じゃなくて君だと言うのがね・・・」

複雑だよ。と森川さんは笑った。

僕はベッドから腰を上げると、荷物を抱えてドアに向かった。

「お世話になりました」

それだけを言って、部屋を出る。

背後から、森川さんの嗚咽が聞こえてきたが、振り返らずに僕は病院を去った。


森川さんが自殺をした、と聞いたのは、それから三日後の事だった。




僕は小学生の時に視力を一時失った。

夏の暑い日の事であった。

最終回です。

怖いですかね?

怖がって頂ければ幸いです。

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