六話 屋上にて
夏の日差しが僕を照らした。
お姉さんに連れられて、僕は屋上に来ていた。
考えれば、夏休みに入った瞬間に怪我をして入院してしまった僕は、それ以来外には出ていなかった。
だから、陽の暖かさが心地良い。
「こっち、来てみなよ」
と、お姉さんが言った。
僕は言われたとおりに、お姉さんの声の方へと向かった。
「ここ持って」と、手を掴まれて手すりに手を持っていかれる。
手すりにつかまりながら、僕は屋上の隅に居るのだと理解した。
お姉さんは何でこんなところに僕を連れてきたのだろう。ただ、外に連れ出してくれただけだろうか。
そんな事を考えていると、ふと、お姉さんが小さな声で言った。
「許せないよね」
と。
「え?」と、僕は聞き返した。
「私を一人にするなんて、酷いよね」と、お姉さんは言った。
それは、呟くような声だった。
「何を言っているの?」と聞き返しながら、
僕には少し理解できていた。
たぶん、森川さんの事を言っているのだろう。と。
自分を一人残して死んでいった森川さんの事を、言っているのだろう。
「・・・・・」
僕は上手い言葉が思いつかずにそのまま手すりにつかまったまま立ちすくんでいた。
お姉さんも何も言わない。
僕の体が夏の外気に暑さを感じ始めたとき、
ドンッ
と、僕の体をお姉さんが押した。
「え?」
と、僕は手すりに強くしがみついた。
が、体の半分が向こう、つまり下に向かって出てしまっている。
「わ、わぁあああああッ!」
僕は声を張り上げた。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
しかし、お姉さんは助けてくれない。それどころか、僕のそばに居るのかも解らない。
「高野君!」
後ろの方で声がした。
同時に、こっちに向かって走ってくるような足音。
その音が僕の真後ろに近づいてきたと同時に、僕の体は屋上の地面に引っ張られていた。
「何をしてるの!?」
その声は看護婦さんの声だった。どうやら助けられたらしい。
どうやら、お姉さんは居ない。
僕は泣きそうな恐怖に襲われながら、思った。
お姉さんが僕を、殺そうとした・・・?
「――――――」
看護婦さんが僕に何かを言っているが耳に入らない。
何故だろうか。
何故、お姉さんは僕を殺そうとしたのだろうか。
「許せない」と、お姉さんは言った。
「私を一人にするなんて」と。
だからといって、何で僕を・・・と、そこまで考えて、
「看護婦さん!」
僕は叫んでいた。
「下見て!」と。
下を。地面を。手すりの向こう側を。
お姉さんは、僕を殺して自分も死ぬつもりだったのかもしれない。
そう思ったから。
「何・・・?」
と、少し怯えたような声で、看護婦さんは多分下を見てくれた。
そして、
「別になにもないわよ?」と言った。
違った。
僕の予想は外れていた。
「ほら、もう部屋に戻りましょう?」
看護婦さんが僕の手を掴んで、部屋へと歩を進めた。
そして思い出したように、
「お客さんが来てるのよ」と言った。
誰?と力なく看護婦さんに問うと、
信じられない答えが返ってきた。
看護婦さんは言ったのだ。
「森川 修一」と。