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病室にて  作者: ぬ~
3/7

三話 話にて

昼ごろ。だろうと思う。

視覚が働かないと、普段は解るそんな事すら解らない。

が、今の僕にとって今が昼であるのか、それともそうでないのかは、問題ではなかった。

ただ一つ。ただ、夕べの“事”だけが、頭の中で何度も何度も反芻されていく。

荒い息遣い。今でもハッキリと思い出せる。

「夢だ」と言われれば、そうかも知れないとは思う。が、それでも納得できない“現実感”があったのも事実だった。

夢なのか。そうではないのか。

それが頭の中でぐるぐると巡り、さっきから垂れ流しにしているテレビの音も、殆ど耳に入ってこなかった。

だから、


「やぁ」


その声が聞こえた時、僕は身を固めた。

反射的に、声が聞こえた方に顔を向ける。

「な、何・・・?何でそんなにビックリしてるの・・・?」

と、声は言った。

その声には、聞き覚えがあった。

「お姉ちゃん・・・」

島野 明美さん。当時確か19歳で、大学生であったと思う。

よく近所の子どもたち――つまりは僕等であるが――と遊んでくれる人で、気さくで優しいお姉さんだった。

「ああ、何でもないよ。大丈夫」

僕は声のするほうに顔を向けた。

「ああ、よかったよ。元気そうで」と声が言った。

「ゴメンね」とも。

「本当はもっと早く来たかったんだけど、予定がね」

「ううん、いいよ」

声が移動している。

今、僕の隣にお姉さんが居た。

ふと、僕は思った。

昨日の話を、お姉さんに相談してみようか。と。

別にお姉さんがこういう話に詳しい、というわけではなかったが、誰かに話しておきたい気持ちがあった。

家族にそんな話をすると心配されそうだから、まだ誰にもその話は話していなかった。

「あのさ・・・」

と、僕は口を開いた。

「ん?何?」と、お姉さんは言った。

「夕べね・・・」

僕は夕べの話を簡潔に話した。

“何”かが僕の部屋に居た事と、それが確実に“人”ではないという事を。

「・・・・・・」

お姉さんが黙り込んだ。

僕は何も言わないまま、お姉さんの反応を待つ。


数分して、お姉さんが口を開いた。

「私の、大切な人の話なんだけどね・・・」と。

「私の大切な人は、この病院にずっと入院してたの。森川 修一って言うんだけど・・・」

お姉さんの声は、とても悲しそうに聞こえる。

「その彼はね、もう絶対に治らない、ってお医者さんに言われるくらいの重病にかかってて、手術もできない状態だったの」

僕は頷く。

「私、毎日この病院に通ってて、何とか治って欲しかったの・・・。それでも、彼の容態はどんどん悪化して・・・」

それでね、と、お姉さんが口を開いたとき、

ガラガラガラ

と、扉の開く音がした。

僕は思わずそっちを向く。と、

「お昼ご飯ですよ」と、看護婦さんの声がした。

「あ、はい」僕は頷いた。

「じゃあ、私帰るね」

お姉さんが言った。

僕は黙って頷いた。あの話を、看護婦さんの前で出来ないことくらい、子どもの時分にもよく解っていた。

それに、と、僕は思った。

もう、皆まで言われなくても、確信できていた。

「あの、看護婦さん」

お姉さんが出て行ったのを確認して、僕は看護婦さんに話しかけた。

「何?」と答える看護婦さんに、僕は、

「森川 修一って人、ここに入院してたの?」

と聞いた。看護婦さんは驚いたような声で、

「そうよ、何で知っているの?」といった。

僕は首を横に振って、別に、とだけ言った。

間違いない。

昨夜この部屋に居たのは、その人だ。

と、子供心に、何故か納得していた。

遅くなってしまいました。

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