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病室にて  作者: ぬ~
2/7

二話 夜にて

頭を打った事からの、一時的な視力の傷害だった。

一ヶ月もすれば治るだろう、とお医者さんに言われ、僕は目に包帯を巻かれた。

まぁ、包帯を巻かれていようといまいと、視力が無い僕には関係のない話だ。

僕は体中にも怪我を負っているらしかった。

右腕は骨折して、固定されて動かない。あと、動こうとすると、胸の辺りに奔るような痛みを覚えた。

全身打撲に、腕の骨折。そして視力の傷害。

お世辞にも、日常生活に支障がない、とはいえない状態だった。

当然のように、僕は入院させられる事になった。

個室に案内――と言っても、車椅子に乗せられて連れて行かれただけであるが――されて、僕はそこのベッドに横になった。

両親が代わる代わるお見舞いに来てくれていたのだが、家は共働きだったため、来れない日も多かった。

友達も来てくれたが、そんなものは入院してから一週間程度の事で、その後ともなれば、皆各々の“夏休み”を堪能しているようだった。


入院してから二週間が経とうとしていた。

友人が尋ねてくることもめっきり少なくなり、部屋に尋ねてくるのは両親か、それとも看護士か医者か、と言った日々である。

一応部屋には備え付けのテレビがあり、それを一日中点けてはいたのだが、音だけで楽しめるほど大人ではなかった。

垂れ流しのテレビの音。

暗い視界。

朝か昼かもわからない。テレビから流れてくるニュースや番組から、時折時間を知る事が出来る程度だ。

しかし、一応それまでの習慣は体に染み付いているようで、朝になれば起き、夜になれば寝る事が出来た。

しかし、この二週間を過ぎた辺りから、僕の体にはある変化が現れ始めていた。


パキ・・・ パキ・・・

音が聞こえる。

一昨日くらいからか、夜になると、この音が聞こえてくる。

どうやら部屋の中の何かが軋んでこんな音がなるらしい。

正確に言うと、夜になると聞こえるわけではなく、夜のように静かで意識が散漫して――否、寧ろ集中しているのかもしれない――いると聞こえてくる。

この音が聞こえ始めたのが、さっきも言ったように一昨日のあたりからである。

その頃から、ようやく体がこの状態に慣れてきたのか、耳が良く聞こえるようになってきた。

別に、周りの音が大きく聞こえるようになったわけではなく、小さな音が拾えるようになって来たのである。

が、ハッキリ言ってそれは小学生であった僕には必要なく、小さかった僕には邪魔なもの以外のなにものでもない存在だった。

何故なら、寝ようと思うと音が聞こえてくるのである。

一度聞いてしまうと、不思議な事にその音がどんどん大きく聞こえてきてしまう。

目を開けようにも、僕の視界は寝ても冷めても真っ暗のままである。

恐怖を拭い去ろうにも、僕にはどうする事もできなかった。

そこで、僕が考えたのはテレビを点けたままにする、というものだ。

点いたままのテレビに布を被せて明かりを外に漏らさないようにし、音を出来る限り小さくして眠る事にしたのだ。

そうする事で僕は余計な音を聞く事なく、いつしか眠りにつけていたのだ。

が、

ある日の事である。

僕はいつものように、テレビを点けたまま横になっていた。

いつもならば気付くと眠れているのだが、その日は中々寝付けずにいた。

ベッドの上を何度も転がり、寝やすい体勢を取ろうと試みるも、中々眠れない。

そうしている内に、僕はある音を聞いた。


ハー・・・ ハー・・・


最初はテレビの音か、と思ったが、テレビは全くそのような音を流している様子ではない。

では何か?と、僕は恐る恐る耳を傾けてみた。


スー・・・ ハー・・・ スー・・・ ハー・・・


吸う 吐く 吸う 吐く


呼吸のように聞こえるそれは、どうやら人間のものである事が解った。

誰かがいるのか?と考えたが、最後に看護士が僕の体に毛布を掛けて出て行ったのを最後に、僕は誰かが部屋に入った音を聞いていない。

では誰が・・・?と考えたとき、僕の脳裏に嫌な考えが浮かんだ。

お化けの存在である。

まだ小さい時分、お化けというのは注射よりも嫌っていた。

だから、一度頭の隅にそれが思い浮かんだだけで、もう頭の中はそれで一杯になってしまった。


スー・・・ ハー・・・ スー・・・ ハー・・・


呼吸音が、少しずつ近づいてきている。

もうテレビの音は耳に入らない。聞こえてくるのは、テレビの音より遥かに小さい呼吸音だけ。


スー・・・ ハー・・・ スー・・・ ハー・・・


怖い。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい

頭がパニックになる。

それでも、呼吸音は近くなる。


スー・・・ ハー・・・


音は、もうベッドの横まで――――――


「やめろぉッ!!!」


気付くと体を起こして叫んでいた。

その瞬間呼吸音は消えて、部屋の中にはテレビの音だけが流れていた。


これが、病院で初めて“あの人”を感じた瞬間であった。

何とかホラーになりそうです。


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