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Wind flower   作者: swan
序曲 anemos(こどものころ)
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好きな場所


 二人の友人を得てレイダは毎日のように祖父の働くお屋敷へ顔を出した。

 レイダは花を育てる事に夢中だと姉妹は気付いていたためもっぱら三人の子供が花いじりを手伝う事が多かった。


 レイダと一緒に遊ぶうちにノーマとフリーダは競うように花の知識をつけていた。自分達の花壇を作るのだとやる気を見せて祖父の力を借りて計画を立てていた。


「レイダちゃん、昨日の夜、お兄様が帰っていらしたのよ」


 あまり綺麗でない小屋で嫌がる風も無く四人で昼食をしている時にフリーダが言った。

 口にしているのはリュウ家のキッチンからフリーダが籠に入れて持ってきたサンドウィッチだ。普段、家で食べた事がないベーコンがパンの間から出てきてレイダはそちらの美味さに気を取られていた。


「お兄様?」

「そう、ほら春の中休みで宿舎から帰っていらしたの。2,3日だそうだけど家ですごされるのよ」

「お兄様またかっこよくなってたわね、ノーマ姉さま」


 嬉しそうに笑うフリーダを見て、レイダはどのお兄様か分からずに首を傾げた。

 リュウ家には六人の子供が居る。

 目の前のフリーダが一番下で8歳、レイダの一つ下。ノーマが11歳だと聞いた。後は兄が三人に姉が一人とだけ。一番上のお兄様が既に成人している事を聞いた時に驚いた事だけ覚えている。


「お兄様はどこかにすぐ消えちゃうから、探すの大変なのねぇ。いつもどこにいるのかしら?」

「本当ね。レイダちゃんにも見つけたら紹介してあげるからね」

「うん。ありがとう」


 この広い家だったら確かに誰にも見つけられない場所があるのは分かる気がする。


 真剣にパンを齧るレイダをよそに実に良く喋る姉妹の話は二転三転する。どこまでも会話が途切れる事がないのはきっと彼女たちの特技だろう。

 彼女たちは実に巧みに他のものたちも会話に混ぜていく。祖父とレイダはいつの間にか彼女たちの会話に入っているのだ。

 あんまり話してないけど…。

 きっと明るいノーマたちの家族だ、賑やかな人達に違いない。




「さて、これから庭を一回りしてくるから三人はこのままあの庭の計画を続けてください。危険な事はしないようにね」


 昼食後、祖父は仕事道具を抱えて告げた。


「分かっているわ、ニックさん」


 ノーマが年長者として答えると、手を上げて祖父は小屋を後にした。

 三人も続けて小屋をでる。

 小屋のすぐ脇に姉妹の庭計画があるのだ。いい場所には既に花々が咲いている為、何もされていなかった小屋の脇に花壇が作られているのだ。今は何の花を植えるか姉妹が計画中だ。土は既にレイダの指揮の元、三人で耕していつでも種は蒔けるのだ。


 芝生の上にシートを広げてノーマとフリーダは購入してもらった真新しい花の図鑑でこれから育てるものについて話し合いを始めた。

 レイダからすると、どんな花でも育て始めると同等の愛おしさを感じるので二人が育てたいそれが今の時期から植えられるかと土壌があっているかのアドバイス役だった。

 楽しそうにおしゃべりをする二人を見て、自分も妹と会話をする日が待ち遠しく思う。年の差はあるけれど、たくさんのことを話してみたいと思う。

 きっと楽しいだろう。


 二人の話し合いが少し長くなってきた所で、レイダは立ち上がり二人に声を掛ける。


「ノーマちゃん、フリーダちゃん、私はお花を見てきてもいいかな?」


 ピタリと息のあった動作で二人はレイダを見上げる。


「うん、行って来て」

「いつものお花のところでしょう?」


 レイダが一番好きな場所は二人に既にばれてしまっている。笑いながら肯定する。


「そう。いつもの所にいるから」


 手を振ってレイダは庭を渡り、建物に沿って歩く。

 何度も通いなれたその庭は奥のほうにある。

 途中薔薇の手入れをしていた祖父の後ろを抜ける。そうして建物と建物の間を抜けるようにして突如現れるあの風景が大好きなのだ。その小さな庭はこれ以上先進む事はできない行き止まりになっている。上の窓から視界に入れて楽しむのだろう。

 そうして、いつもの様に急に飛び込んでくるその花たちの彩を楽しんでからゆっくりとその花びらを愛でる。朝一番に祖父と二人で全ての花への水遣りはしているのでこのアネモネも見ているのだが、何度見ても見飽きない。

 ちょうど今朝は祖父に花びらではなく、がく片がこんな風に綺麗に色をつけているのだと教えられたばかりで観察もしたかった。


 庭の中ほどまで歩いていくと蝶が止まる花を見つけてゆっくりと中腰になってそれに手を伸ばす。

 きっとフリーダに見せたら喜んでくれるだろう。

 この前、ノーマと二人で蝶を見たことを話したら自分も見たかったと涙目だった。


 蝶に手が届く手前、背後でバタンッと唐突に音が響く。

 びくりと肩が震えて手元が狂う。


「あっ!」


 手元から蝶は飛び立ち手の届かない場所へ行ってしまった。


 けれど、少し怖い事実に気付いてレイダは後ろを振り向けなかった。

 お屋敷の一番奥の小さな行き止まりの庭で、ここにいるのは自分だけだったはずだ。けれど背後から物音がするのはおかしかった。


 今レイダが背を向けているのが庭の奥だからだ。





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