超迷惑(SS)
ちょっとした後日談です。
「なぁ、超迷惑なんだけどー」
キフィの不貞腐れた声にケノワは書類から顔を上げた。主語がない彼の言葉にケノワは冷めた目を向ける。
「何ですか」
「おまえさぁ、自分がレイダちゃんと一件落着でラブラブだからってこれを放置するなよな」
手元にあった書簡の束をケノワに投げつける。
ばさりと沢山の封筒がケノワの資料の上に広がる。封筒から漏れる甘い花の香りにケノワは眉を寄せる。花屋で働くレイダから香る匂いとは根本的に違う、調合された高貴なそれは自分には合わない。
「…これは、あなたに届いている書簡でしょう」
全て束ねるとケノワはキフィの机に腕を伸ばして返す。
「げ、お前って鬼? 悪魔? これはどう考えてもお前の所為で俺様が被害にあってるだろ!」
恐ろしいものを見る目でケノワと書簡の束を見比べるキフィは、本気で嫌がっているようだ。
「嫌ならば、マラ様へお返事を書かれたらどうですか?」
「ぐっ」
王家との婚姻については妹ノーマで親同士の約束は果たされた。そして父アルツのレイダ擁護の一声でケノワとマラの話は完全に流れた。その直後から、ケノワにではなくキフィにマラからの熱烈な恋文が届くようになったのだ。一日も欠かさず届くそれはある意味感心に値する。
「素直に想っている方が居るとでも書いておけば、いいのでは?」
「アゲハはそんなんじゃないって言ってるだろ!」
キフィが即座に否定の声を上げる。
「別にアゲハさんのことだとは言っていませんが」
頭を抱えるとキフィが叫ぶ。
「がーっ! ケノワのくせにっ! 誰だよ、コイツが優秀な補佐官とか言ったのー! 超ムカツク! 今後、絶対お前のこと助けねぇぞ。そして、お前を末代まで祟ってやる」
ケノワはいつもの事と溜め息を吐くと、そのまま顔を書類に戻す。今日中に仕上げなくてはいけない案件がまだ残っているのだ。
横で唸っているキフィにケノワは下を向いたまま告げる。
「そのことについては既に私から書簡を書いて王女へ提出をしました」
ピタリと口を噤んだキフィが自分を見ているのが分かる。
「それを先に言えよ」
「聞かれていませんので」
勝手に自分がした事だ。キフィにはちゃんと想い人がいると書き付けておいた。
「で、いつ出したんだ? いつになったらこのラブレター攻めは終わる?」
「一週間前です」
キフィが固まっている。
目線だけ机に戻された書簡に移されている。彼が言いたいことは分かる。
手元に届く手紙は最新のもので今日の午前中に届いたものだ。
「つまり…これはお前の書簡を読んだ上での行為って事か」
「そのようですね、あとは私の力は及ばない事なのでご自身でお願いします」
「…」
ぐったりとキフィが机に倒れる。
少々可哀想な気がするが、本当にケノワが人の恋路に入れる物でもない。
キフィはよく人に関わるが、自身の事はケノワから見ても苦手であるのが分かる。これは上手く彼自身が立ち回るしかないのだ。