心配
「ふふ、この部屋は相変わらずなのね」
頭一つ分レイダより高い身長のリアは小さな部屋の中をくるりと見回す。
「以前にいらっしゃったことあるんですか?」
「ええ、随分前ね。去年までは妹達がよく利用してたみたいね、嬉しそうにこの部屋の改装計画を話しているのを聞いた事があるわ。最近はあまりこちらに来なくなったようだけれど」
「そうなんですね…」
そういえばケノワにもこの部屋は家族のものだと聞いた。
派手ではないが上品さのある花柄の壁紙にレエスのついたカーテン、どこか可愛らしさが見える家具。今やレイダの部屋として馴染んでしまった。
ゆっくりと清楚なドレスでリアはベッドに腰掛ける。レイダはその綺麗な面差しに陰影が作る幻想を観察してドキドキする。
「レイダちゃん、ありがとう」
「えっ?」
急にリアに頭を下げられて見とれていたレイダは驚く。
「私が王都に嫁いでいるし、ロッド兄様もいるというのにケノワは全く私たちと関わろうとしないわ。だから、レイダちゃんのような子がケノワにいるって聞いて凄く嬉しかったわ」
「いいえ、そんなっ…私は迷惑を掛けてばかりです」
「それでいいのよ。ケノワは基本的に人に興味が無いのか関心が薄いと思うの。反応もほとんどないし…それが、さっき玄関でレイダちゃんと居る所を見て思ったの、貴女の事が本当に大切なんだわって」
レイダは思いにもよらないことばにただただ真っ赤な顔で立ち尽くした。
レイダとリアがリビングから出て行くところを見送ると、笑顔で二人を見送ったリーガルが顔を真面目なものに改める。
その兄に無表情に相対するケノワは、出していた焼き菓子を齧る。
長兄のロッドに比べるとこの次男のリーガルは言葉数も普通の上に温厚で、昔からケノワが会話をする事が出来る人物だった。他の兄弟は一方的なお喋りの為あえてケノワから口を挟むことはない。
「ケノワ、この前ロッドに呼ばれたんだろう?」
「ええ」
リーガルはロッドの補佐のような仕事をしており、故郷ヤサと王都をよく行き来している。その中でケノワが呼ばれたことを知ったのだろう。
「…その時にお前、ロッドにレイダちゃんとの事を聞かれたんじゃないのか?」
「そうです」
「その時、結婚は考えてないと」
「言いましたが」
「なんでだ? 一緒に住んでまで居るのに」
「何でと言われても…」
リーガルの顔が会話を進めていくほどに苦りきったものになっていく。それは先日見たロッドの顔と良く似ていた。
「俺はレイダちゃんが彼女などでもなくて、それも一緒に住んでなんかないと思っていたんだが…これじゃあ話が違いすぎる…」
深く溜め息を吐いたリーガルにケノワは手にしていた焼き菓子を置く。何かよくない事がある気がしたのだ。
すっと顔を上げると口を開く。
「…どうせまだ聞いていないと思ったから、リアと言いにきたんだ」
「何を」
「王家からリュウ家に求婚の話がある。第二王女のマラ様を知ってるか? 今年、十八歳になられる。ちょうどレイダちゃんと同じくらいだな」
「…」
「俺が、言ってる意味分かるか?」
確認され頷くしかできない。
リュウ家には息子は三人しかおらず兄二人は既に結婚をしているのだから、どう考えても話が自分に来ているということだ。