襲撃
洗濯物を干しながら隣りで高い所にシーツを掛けるケノワの顔を見上げると、目が合って微笑む。
少し前までなら恥ずかしくて顔を俯かせていたのだが、今は素直にケノワの顔を見ていたい。
ケノワは空いた手を頭に乗せ撫でてくれる。
「やっぱりお休みが一番いいですね」
「ああ」
全部干し終わって一緒にスッキリした気分で建物の最上階である窓から外を眺める。
レイダはエレノアの好意からケノワにあわせて休日をもらっていた。
前回の休みは長期の旅行に行った後だったので久しぶりにゆっくりと洗濯や掃除をする事ができたのだ。
勢い良く太陽が上昇し始めて熱を感じる中で風が開けた窓から吹きぬける。
―――コン!
急に部屋の中に響いた音にビクリと体が跳ねる。
ケノワはいつもの無表情のまま玄関の方を見つめていた。どうやら玄関に取り付けられているドアノックの音らしい。
「お客さまですか…?」
――――コン! コンコン!
「そのようだな…」
「私、出てきますね」
足をそちらに向け玄関に近づくと音が凄くなる。
―――コン! コンコンコンコンコンコンコンコンコンコン!
「ケ、ケノワさま…」
怖くなって振り返るとケノワが既にすぐ後ろに立っていて結局ケノワが手を伸ばして玄関の鍵をあける。
その途端ドアノブが勝手にまわされて乱暴に扉が開かれた。
その大きなバン! という音に再び驚いて思わず後ろのケノワに抱きつく。
「・・・。」
ぎゅっと閉じていたまぶたを上げるとそこに立っていた男女二人が驚いた顔で立っていた。
何故、こちらを驚かした本人たちが驚いているのか…何事なんだろうかとケノワを見上げると傍目にはわからないけど呆れた顔で二人を見ている。
「何?」
短く訊ねるケノワの言葉は冷たく二人はその声に固まっていた表情を少し動かす。目線はどうも自分に集中していることをレイダは感じ取った。
「え―――と、ケノワ…お邪魔だったかしら?」
「だ、だよな…」
「・・・」
不自然に告げたあと二人は黙ってしまった為、異様な沈黙が続きもはや冷戦に入るのではないだろうか? とレイダが思った頃にケノワが口を開く。
「入ったら」
リビングのソファでは席が足りず、四人は食事用のテーブルに向かい合って座る。
「どうぞ」
綺麗な金髪に緑の瞳がとても似合う貴族だろう女性におずおずと紅茶を出すと、女性はにっこりと笑う。
「ありがとう、急にきて驚かせてしまってごめんなさいね。まさかケノワの家に女の子が居るなんて思わなくて」
「いいえ、こちらこそすみません」
レイダがなんと言っていいのか分からずにケノワを見るが、彼は女性をちらりと見ただけでレイダの入れた紅茶を飲んでいる。
「隣に居るのがリーガル・リュウ。ケノワの兄よ。私はリア・シュトレーナ、ケノワのすぐ上の姉」
「本当に怖がらせて悪かったな、リーガルだ。よろしくな」
ちょうどレイダよりも10歳位年上だろうか。ケノワと同じ甘栗色の髪を持つリーガルの顔つきは、ケノワとはあまり似ていない。
それでも好青年である事には変わりは無く、レイダは慌てて頭を下げる。
「はじめまして、レイダ・ゼイライスです」
「レイダちゃん。いつでもケノワと何かあったら私に相談してね、ケノワのことだから何でも鈍いでしょう? それに無口で無愛想だし…兄妹にでもそんな風だから困るのだけどあなたみたいに可愛い彼女にそんな思いをさせちゃいけないと思うのよ」
リアが一気に話きりレイダは何とか相槌を打つ。
「はぁ…」
「ところで、二人はどこで出会ったの? 俺達の知る限りケノワに彼女が居るのを把握できたのが初めてで凄く興味があるんだけど」
さらりとリーガルも笑顔で核心をつく質問を投げかけてくる。
「え、あのそれは、えっと…」
「何しにきたんだ?」
しどろもどろで言葉に詰まっているとケノワが鋭く言葉を放つ。
馴れ合いを一刀両断する言葉に二人が口を噤む。
「そうだったわ。今回はケノワに話があったんだった…ついレイダちゃんに興味が出ちゃって」
リアとリーガルが顔を見合わせる。
「レイダちゃん、悪いんだがケノワと話がある。少し席を外してくれるかい?」
「はい」
リーガルが頷くとリアがレイダに向かって笑いかける。
「レイダちゃんはこの家に住んでいるの?」
「そうです」
「じゃあ部屋を見せてくれる?」
リアに促されて席を立つとレイダはリアと共に自分の部屋に入った。どんな話をするのか興味があったが、家族間の大切な話に自分が入るわけにはいかないのは分かっている。