たまごの扱い方
遠くで鳥が鳴く声で目が覚める。
薄っすら開いた瞼の先には、窓側を向いて横になっていたのでカーテンの隙間から森が広がっていた。薄暗くまだ夜が明け始めたばかりだった。
「…」
布団に潜りながらぼんやり自分が居る状況に関して考える。
昨日、自分がケノワを待ちながら寝てしまったことを思い出して呆然とする。
おやすみなさい、と挨拶さえ出来ていないなんていつもより酷い気がする。
くるりと寝返りを打つとすぐ目の前にケノワの顔があり驚いてしまう。
けれど、ケノワの瞼は閉じられたまま。
明るい栗色の髪と同じ色合いの睫毛や綺麗に通った鼻筋を見つめる。普段ケノワの顔を長い事直視する事なんて恥ずかしくてできない、改めてみれば見るほど整っている。
自分のあまりの平凡さが恥ずかしい。そんな事を考えていると、すっとケノワが目を開いた。
ブルーグレーの瞳とばっちりと目が合って逸らせなくなる。
「…起きたか」
「お、おおおおはようございます」
すぐ近くで見つめ合ったまま何とかレイダは挨拶をする。
少し呆れた様子でレイダを見つめたケノワが先に目が逸らした。体を起こしベッドの横にあったランプに灯りをつけてケノワはレイダを見下ろす。
「あの、なんで同じベッドに寝てるんでしょうか…?」
レイダも恐る恐る訊ねながら体を起こすと、ギシッとベッドが音を立てる。
「覚えてないのか?」
「えっ」
昨日、ケノワを待ちながら布団に入った所から今、目を覚ますまでの記憶は一切無い。
記憶に無い何かがあったのだろうか? それこそ一緒に寝るような…? そこまで想像して顔が一気に熱くなる。
狭いシングルベッドに大人二人が居るのでかなり窮屈な空間になっている。
ケノワがベッドから足を下ろすと立ち上がる。
なんだかまた置いていかれそうな気がして早口に答える。
「ごめんなさい。覚えてないです…」
「だろうな」
小さく息を吐いてケノワは隣りのベッドに腰掛ける。
「昨日の夜、自分がどちらに寝たか覚えてるか?」
言われて首を傾げる。ケノワを待ちながらベッドに入った。確か…
「あれ? ケノワ様が今、座ってるベッドです」
どうして自分がここに居るのだろうか? 寝起きとは思えないしっかりした顔でケノワは自分を見つめている。
「私がそのベッドで寝ていたらレイダがトイレに行った後にそこに入ってきた。一度こちらに移ったんだが…」
自分が座るベッドを叩くケノワにレイダは嫌な予感がした。
「…レイダが付いてきた。ぐっすり寝てるから隙をみてまたそこに移ったが、同じだった。だから、諦めた」
つまり寝ぼけてケノワを襲っていたのは自分と言う事になる。
「ごめんなさい…」
記憶に無いとはいえ恥ずかしさに身を縮めるとケノワの長い手が伸びてきて両頬を包む。
ぐいっと上を向かされる。
「そう思うなら無闇に同じ布団に入ってくるな」
「は…、んっ」
返事をする前にケノワに唇を塞がれて硬直する。
昨日までの軽く触れるようなキスではなく、その感触に思わずびくりとケノワの腕を掴む。
すぐに解放するとケノワはレイダの髪の毛をくしゃくしゃになるように撫でる。
「今度入って来たら何もしないなんて保障はしない。私を眠らせてくれ」
ケノワはそう言うと腰掛けていたベッドに入りレイダに背を向けて横になった。
その背中を見つめながら硬直したままだったレイダは、バクバクと大きな音を立てて動く心臓を押さえてそのまま布団に入った。
ケノワの宣言に目が冴えてしまいレイダは、寝付くことが出来ないまま外が白んでいく。
レイダとケノワの恋愛は今始まったばかりで、恐ろしい事によく擦れ違いやハプニングが起こる。
今、生まれたばかりのこの卵をちゃんと温めていけるかは二人次第となりそうだった。
ケノワは一晩起きてたんでしょうね^^
ここまでで2章は終わりです。