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Wind flower   作者: swan
第二章
38/76

夢見るオトコ


 洞窟を抜けると先ほど三人が入った所よりも少し距離を置いた所に出てきていた。


 入る時は暗闇になっていて気付かなかった場所だ。

 ちょうど入り口と出口の中間に事務所は配置されていた。

 数人常駐している案内人はレイダたちと入れ違いで洞窟に入っていった。



 事務所に通された二人は、普段休憩室に使われているだろう奥へ案内された。


「ここで話すより…僕、早番でちょうど仕事上がりなんですけど、お二人は夕食取られました?」

「まだですけど」


「じゃあ僕がいいお店を案内しますよ。そこでさっきの話の続きを聞いてもらえればと思うんですけど」


 少し考えた様子でケノワはレイダをみた。


「どうする」

「えっ、えぇっと…ケノワ様がよければ私はバンさんのお話を聞いてもいいかと思います」


 急に意見を求められて答えると、バンが嬉しそうに笑う。


「私は構わないが…店も地元の者が一番知ってるだろう」

「ありがとうございます」

「じゃあ、俺も参加させてもらいます」


 後ろにいたニックがそう告げるとバンは顔を顰める。


「なんでニックが来るんだよ」

「お前が何考えてるのか聞こうと思ってな。ケノワさん、いいですか?」

「まあ、どちらでも」


 ケノワの一言で決着がついたのか四人はそのまま、メーティアの繁華街に向かう。


 来るときに使った森の遊歩道ではなく最短で森を抜ける小道を歩き、多くの観光客で賑わう食堂街を通り抜ける。

 喧騒を離れ路地の少し奥まった所にある年季の入ったケノワたちの前にいた二人は足を踏み入れた。


「ここです。すっごくおいしい料理を出してくれるんですよー」


 バンが嬉しそうにメニューから幾つか選んで早速四人分頼んだ。

 すぐに四人分の飲み物が届き、ニックとバンがこの地方で出来たぶどう酒を手にした。


「ケノワさんも飲みませんか?」

「いや、私は遠慮しておく」


 レイダ同様にアルコールの入っていない果実絞りを飲みながらケノワは冷静に断りを入れる。

 そうですか、といいつつケノワとレイダの前に座った二人はおいしそうに酒を口にする。

 ほとんど一気飲みをしたバンは上機嫌に話し始める。


「あの、さっきのどうして軍人になりたいのかって事なんですけど」

「ああ」

「ただの軍人じゃなくて、能力者と関わる仕事をしたいんです」


 じっとバンの瞳を見つめるが、嘘は含まれていないようだった。


「能力者」


 レイダが繰り返すとバンは頷く。


「そうです」

「またそれかよ、お前なんかが上級士官と働けるかよ」

「うるさいな、俺は聞いたんだ一般兵でも優秀だと能力者と働く事が出来るって。本当なんですよね、ケノワさん?」

「機密情報を教えてくれるはず無いだろ」


 ニックは馬鹿にしたように口を挟む。


「能力士官の補佐は能力を持たない一般兵がこなす。機密でもなんでもない事実だ」



 あっさりとケノワは答えを返し、奥から運ばれてきた子豚の丸焼きをテキパキと切り分ける。

 子豚の丸焼きには地元で取れた新鮮な根野菜が蒸されて一緒に盛り付けられており、肉と一緒に別に運ばれた小麦を水と練って焼かれた皮で包んで食べられるようになっていた。

 憎らしいくらい完璧に切り分けた中からケノワはレイダに一つ包んで手渡した。


「ありがとうございます」


 満面の笑みで受け取ったレイダは嬉しそうに口に含んだ。


「僕達が食べ方教える必要無いですね…」


 ケノワの手捌きに話を中断してバンが感心する。


「運ばれてきて物を見れば分かる」


 四人とも次々と運ばれてくる食料に手を伸ばす。

 サラダに何か怪しげな紫色のドレッシングを振りかけながらバンがケノワを見る。


「ケノワさんは王都からきてる軍人さんなら、本部に所属してるんですよね? どんな仕事をしてるんですか」

「それは機密だ」

「えっ、そんな事言わずに教えてくださいよ」


 バンが情けない声を出す。


「…無理だな。ただ、能力者と働くと危険な場所に派遣されるだけだ。安易に勧められないな」


 ケノワが自身の経験も多大に加味して告げる。


「ほらな、ルカが心配するだけだぞ。バンお前はここにいるのが一番だ」


 バンの背中をニックが叩く。


「ルカだって僕の話なら聞いてくれる」


「あの、ルカさんって誰ですか?」


 突然出てきた名前にレイダが二人に質問すると声をそろえて言葉が返ってくる。


「ルカは、俺の妹」

「僕の奥さん」

「…つまり、ニックさんの妹さんでバンさんの奥さん」


 レイダはまとめながらもついバンを見つめてしまった。

 バンはどう見ても結婚しているように見えなかったのだ。ニックでさえケノワよりも少し上くらいにか見えない。


「あは、やっぱり僕って頼りないのかな? これでも二児のお父さんなんだけど」


 バンの言葉に今度は本当に驚く。


「ルカとバンは若くてそそっかしい夫婦だけど、何とかやっていけるくらいにはなってます。まぁ、こいつが王都に行きたいと言い出さなければ、ですけど」

「ニックは分かってない。僕はどうしても王都の軍に入りたいんだ」

「どうして、能力者との関わりにこだわる?」

「関わりたいからです」


 ケノワが再度訊ねても、切り替えしも早く真面目にバンは答える。


「運動神経などはもとより…一般兵の中でも補佐する能力や行動予測の部分が評価されて、能力者付きに選抜されると聞く。もし、本部の軍にはいる事が出来たらそこに重点を置く事だな」


 ケノワが、バンの知りたかった答えを魚の素揚げを取りながら言う。

 バンがケノワの言葉を咀嚼するまで一拍遅れる。


「ありがとうございます。僕、必ず王都へ行きます! その時はよろしくお願いしますね!」


 かなり元気にぶどう酒のおかわりを頼むバンの顔にはやる気が浮かんでいた。


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