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Wind flower   作者: swan
第二章
34/76

新しい知人


 乾季の太陽はとても日差しが強い。


 じりじりと身を焦がすような熱を降らせる。

 このまま溶けてしまうのではないかと一瞬頭をよぎった所で自分が影に入った事感じて顔を上げる。そこにはケノワの背中がありレイダの日除けになってくれていた。

 嬉しくなり微笑む。


「ケノワ様、ありがとうございます」


 歩きながら繋いでいた手を強く握りながら告げると少しだけこちらを見たケノワは頷いた。


「かまわない。あと鐘二つでも越せばアマゴイがあるはずだ」


 目を細めてケノワは背後にある軍の建物を見た。通りを一つ挟んだ商店街からもその威厳溢れる建物は見えるのだった。


 ケノワの長期休暇は結局、七日ではなく五日になっていた。それは上層部からの命令では無く、ケノワ自身で判断したものだ。


 ケノワが居ない間にキフィも休みを取る事になっているが、外出制限と共に特別上級能力士官にのみかけられるシステムの違いで数日をキフィ付きの特殊補佐隊に預ける事になりそうだった。

 いくら両者の認識が変わったからといってキフィの破天荒と天邪鬼が改善される事などはありえない。それを考えると自身がきっちり彼と過ごした方がマシだった。休暇の後に彼に荒らされた職場を目にしたくない。



 レイダもケノワにあわせて休みを取る事ができ、休みを利用して普段買えていなかった物を買出しに出かけていた。


「アマゴイが定時にされるのって凄いですよね…」


 レイダが一緒に軍のほうを見ながら呟いた。

 出身地のヤサは南部にある事で比較的スコールが自然にやってくる事があり、干ばつが予想される状況になるまではアマゴイが呼ばれることが無かった。それと比べ国の中央に位置するレアムドザインは毎日のように一定時間、雨を降らせる。


「アマゴイが無かったらここは砂だらけだ」


 乾燥した大地に立つ王都は、建国後王家繁栄により今の場所へ移された。国の中央にて政権を取る為に。


「そうなんですか…でも、エレノアさんはアマゴイの雨が嫌いだって言ってました」


 彼女も王都の出身ではないのだが、本当に体調が悪くなるらしく恨めしげに空を見上げている。


「だが、ライフはアマゴイだったはず」

「ふふっ、そうなんです。エレノアさんは『ライフの奴め、一生怨んでやる』ってよく言ってます」


 恋人の仕事で降らせる雨に悪態をつくエレノアは少し子供じみていて、レイダを意外な思いにさせる。たまに呟く言葉も気になる『雨が降らないように、って思う事も大変なんだよねぇ』嫌いなアマゴイの雨なのにエレノアは絶対降るなとは思わないようにしているらしい。

 やっぱり恋人が降らせているからだろうか?



「あ、リュウ特別補佐官さん!」


 前方から声を掛けられて二人は顔をそちらへ向ける。

 そこには落ち着いた雰囲気を持つ長い胡桃色の髪の少女が立っていた。


「あぁ」


 ケノワも返事をして二人は近づいた。レイダも少し後ろから近づく。


「休みか?」

「はい。リュウ特別補佐官さんも今日はお休みなんですねぇ、キフィも休みだって言ってました」

「あぁ、そうだな」


 ケノワも顔なじみなのか先ほどまでの雰囲気のまま頷いている。

 彼女が後ろにいるレイダに気付いて笑いかける。


「彼女さんですか? 初めまして、私は軍の中の食堂で働いてるアゲハっていいます」

「初めまして…レイダです。Sブロックの花屋で働いてます」


 更にアゲハが微笑んだ所で、彼女の腕の中から小さな声が聞こえる。


「アァ」


 ケノワの影に立っていたレイダからは視角になる所にその小さな生き物がいた。レイダが身を乗り出して呟く。


「赤ちゃん…アゲハさんの子供なの?」


 自分と同じくらいの少女だけれど、子供がいてもおかしくない年齢だ。


「まさかぁ、一番下の弟なの。ほとんど私が面倒見てるから親みたいなものだけどね」


 一生懸命小さな手のひらをアゲハに伸ばすその仕草は可愛らしくてレイダも微笑んだ。


「可愛いっ、私が抱っこしてもいい?」


 アゲハは手馴れた様子でレイダに弟を差し出した。レイダもそっと抱きしめる。赤ちゃんを抱きしめるのは昔、妹の面倒を見て以来だ。

 なんだか赤ちゃんからは柔らかい甘い匂いがして嬉しくなる。


「名前は? 何ヶ月?」

「アーフィ、今8ヶ月」


 アーフィはレイダの顔を見てきゃっきゃっと声を腕の中で上げている。


「ケノワ様もアーフィ君を抱いてみませんか?」


 妙に感心した様子でレイダを眺めていたケノワは自分に話を振られて首を横に振る。


「遠慮する」


 レイダはケノワへ少し近づいてアーフィを見せる。

 一瞬、ケノワと目が合ったアーフィだが「ふにゃぅ」と声を出して笑うが、ケノワは一歩後ろに下がった。

 アゲハは笑いながらアーフィのふっくらした頬をつついて、レイダからアーフィを受け取る。


「大人しいね」

「この子人見知りしないの、滅多に泣かないしね。まぁ、誘拐とかされてもけろりとしてそうで怖いけど」


 ケノワではなくレイダと言葉を交わしアゲハは去っていった。

 今度、レイダの花屋に遊びに来てくれるという。

 王都での友人が増えそうな予感だ。



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