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Wind flower   作者: swan
第一章
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彼女の値段 

 ケノワは髪を伝い顔にかかる滴に顔を顰めながら走っていた。でもこの苛立ちはそれだけではない。


 ここ数年何度こうやって自分はこの王都の街を走っただろう。それは決まって上司のキフィのためだった。彼と一緒に居るようになってからと言うもの“彼のためだけ”に尽くすそれが当たり前になっていた。


しかし、彼女が来てからは違ったのだ。

何もかもが変化していく。

 いつも我が儘なキフィが彼女のためにと素直になる事もがある。自宅の中は殺風景な出窓に信じられないくらいの花々が並ぶ。…その上、帰宅した時冷たい沈黙を持っていた部屋が暖かいものになり自分を彼女と共に迎えに出てくる。

 だからこそこうして彼女の自分は走っているのだろう。


 ケノワは通りを確認しながら進み繁華街の裏路地に入った。歩調を緩める。

 きっと分かる人が見ればすぐ気付くんだろう。この通りは娼館が軒を連ねる場所だった。この通りはここ最近何度も通っている。


 見覚えがある扉の前まで来てケノワはひとつ息を吐いた。

 看板に目をやる。レイダを拾う前にこの通りを歩いた時ここから飛び出してきた者をぶつかった。あれこそレイダだったのだ。彼女のいた娼館を調べて驚いたものだ。


 路地裏にあるには少し古めかしく豪奢な扉をしばらく見つめて押し開いた。

 玄関は間口が狭くしばらく進むと一般の家よりも広いホールに出る。そのホールは白い大理石が使われており綺麗な絨毯が引かれている。外観の見た目からすると誰もが驚くだろう。世に言う上流階級の者たちが訪れる娼館という。そのホールを無感動に歩きながらケノワはあたりを見渡した。

 来客に気付いた使用人がすぐさまケノワへ近寄ってくる。


「お客様、まだ当店は営業はしておりません。夜間に再度訪問くださいませ」


 声をかけてきた男を一瞥すると投げやりに答える。


「レディ・マリンダを呼んでくれ」


「しかし―…」


「早く」


 食い下がろうとする男にケノワは声を落として命令した。男は何かを感じたのか踵を返して奥へ入っていった。

 ホールの奥には絨毯が続く階段があった。

 階段は緩やかなカーブを描き吹き抜けのホールの壁の中に消えていく。じっとそこを眺めていたケノワは誰かが後ろに立つのを感じて振り返った。


「この忙しい時に誰かと思えば、貴方なのね…軍服もいいけれどそういった格好もお似合いよ」


 マリンダは赤いドレスに気だるげな表情を浮かべて立っていた。きっと世の中には彼女を妖艶という奴もいるだろう。

 残念ながらケノワにそんな事を感じることは全く無かったが。


「レイダを返していただこう」


「まぁ、もうばれてしまったの」


 ケノワの言葉にマリンダは大げさに眉を顰めた。


「そんな事が本当に出来ると思って? 貴方があの子を隠してしまうから、私は、余計な手間をかけてあの子をやっと取り戻したというのに」


 早口に言うとケノワの顔を窺うようにマリンダは見る。ケノワは平然と彼女を見返しているだけだ。


「…とりあえずかけて頂戴」


 ホールにあった二組の豪華な革張りのソファにそれぞれ腰掛けた。

 ケノワは冷たいブルーグレイの瞳でマリンダを観察していた。一筋縄ではいかない相手だとは思っていたが案の定彼女はレイダのことを連れ去ったのだ。


「…彼女の事については待つように頼まなかったか」


「それは貴方が言った事。レイダはこの娼館に買われ働く事になっていたのよ、それを逃げ出しあまつさえ見逃せという、なんという恩知らず」


 マリンダの赤い唇が言葉を紡ぐたびにむかむかする。それを押さえつけるように言葉を重ねた。


「だから、彼女を買い戻すと言っている」


「させないわ。あんな平凡な小娘でも物好きは沢山いるのよ? まだ店に出しても居ないのにレイダは顧客から求められていた。これから金を生む事が分かっているのにそれを売るなんて事はとてもとても…」


 大きく手を広げたマリンダは体を前へ乗り出した。


「それに、貴方に彼女を買うお金を持っていると思えない」


 綺麗に口角を上げるとマリンダは微笑んだ。


「・・・いくらだ」


 ケノワはマリンダを鋭く睨みつけると聞いた。


「あら、本当に買うの?」


「そう言っているつもりだが?」


 不遜に言葉を返す。


「100ヴォルド。ね、無理でしょ」


 マリンダはケノワ個人が何もできない若造としか思っていないというのは分かっている。確かにケノワの軍から貰っている給料では早々出せる金額ではない。


 だからこそ繰り返しこの場所を訪れて丁重に断りを入れているのだ。


「そうねぇ…あぁ、いい事思いついたわ」


 ケノワの言葉を無視してマリンダは表情を明るくする。


「あの子が今晩、初仕事なのはご存知?」


 誇らしげに言われた言葉にケノワは珍しく驚きの表情を浮かべる。


「知らなかったのね? そうだろうねぇ、レイダを買いに来る貴族様に交渉でもしてみたら?」


 彼女は見下すようにケノワを見やると立ち上った。


「そろそろいらっしゃる時間、そこで待つもよし諦めて帰るもよし今日だけは許してあげる。ただ、彼を殺そうなんて思わないことよ」


 新しいおもちゃを見つけた子供のように言うとマリンダは立ち上がりホールを抜けていった。

 取り残されたケノワは顎へ手をやり呟いた。


「貴族…様、ね」


 ケノワの後ろと階段の上り口には屈強な男が立っていた。

 一応見張りを立てるという事か。




10000スラン=1ヴォルド

1ヴォルド=10万円位


3ヴォルドで一カ月生活できます(物価が高いイメージお願いします)



お読みいただき本当にありがとうございます。

感謝です。

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