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Wind flower   作者: swan
第一章
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焦燥 


「ケノワ♪ 昨日の夜どうだった?」


 朝からにっこり微笑んだ王子様にケノワは睨みを利かせる。上司だろうがキフィに関しては構っていられない。

 昨日の帰り、キフィは言ったのだ。『言葉には気をつけてな』それはつまり、昨晩の事を既にサキヨミしていたのではないか?

 キフィは唇を尖らせる。


「なんだよ、せっかく聞いてやってんのに。ちゃんと忠告してやっただろ?」


「…遠回し過ぎです」


「なんだよ、結局泣かせたんだ?」


 彼は自身の執務用の机で大げさにため息を吐く。

そのキフィへケノワは手に持っていた書類を渡す。


「それを今日中に仕上げてください」


「えっこれってあれだろ、明日の会議に使う提出書類…お前の仕事だろ?」


「あなたの仕事です」


 ケノワは自身の机にも取り出した書類を置く。

本日提出する書類に関しては夜のうちに仕上げておいた。

 キフィに手渡したのは本来、彼が提出すべき報告書である。彼は出来るくせに大まかな概要を記載した用紙をケノワに手渡していつも逃げてしまうのだ。今まではケノワが代わりに書類への書き換えをしていた。


「俺、今日仕事がいくつかあるんだけど?」


 キフィが書類を手にしたままケノワを窺う様に見た。


 キフィの言う仕事とは彼の能力を使って行なうサキヨミの仕事だ。戦場の動向などを読むのは毎日ではないが、これからの情勢や国内の把握には大きく役立つ。

 それもキフィほど正確で思い通りのことに対しサキヨミできるものは少ない。

 性格に大きな問題があっても引っ張りだこなのである。それも上級士官の定例会では現状報告も必要。

 だから、普段はケノワが大目に見てやり処理している。


「では、それもあなたの仕事ですね」


 つれない様子のケノワにキフィは唸った。


「今日も行くのかよ?」


「いきます。急ぐことですので」


「…」


 キフィは手元の書類を机に降ろすとペンを手に取った。


「今回だけだからな、全くっ。昼の鐘二つまでに終わらせてやる!」


「ありがとうございます」


 素直に仕事を始めたキフィに礼を言うとケノワも書類を開いた。

 キフィのした仕事分書類提出は発生するのだ。彼に渡した以外の物を彼の宣言した鐘二つまでに終わらせなくてはいけない。





 昼食を挟みながらもキフィは渡された仕事をきちんと作り上げて見せた。

 元々彼も村を治めていた人間だ。こういった仕事もそつなくこなせる。もう少し普段からさせてもいいのではないだろうか。


「あー嫌だな。アングリードのおっさんに引き渡してお前だけ行くつもりなんだろ?」


 キフィは自室がある能力向上・研究科学局の司令部建物から一般の兵もいる建物へ移る廊下を歩きながら言った。心底嫌そうな顔。


「言葉を慎んでください」


 ケノワは短く訂正する。

 アングリードのおっさん呼ばわりされたのは、特別上級能力士官を纏め上げるアングリード・アルファン統括のことだ。彼自身は能力者ではなく能力向上・研究科学局の研究局長である。

 高い能力のキフィは彼のかっこうの研究対象でキフィは彼のことが苦手のようだった。


「…あのおっさんの目線見たことあんのかよ、めっちゃ嫌な視線なんだぞ…」


「仕事ですので」


 これから行なう行政把握のサキヨミにはアングリードと彼の補佐の研究員がつく。その間ケノワは自身の副官にキフィを任せて外に行く事にしていた。


「…本日は大人しくしてください」


 ケノワの部下、キフィの副補佐官は今朝この話を聞いた時に見間違いでなければ頬を引き攣らせていた。

 彼の後ろにいたキフィの部下たちも、ケノワと目線を合わせない。

 更なる補佐としての人員追加をオーラで拒否していた。そんな彼らにはこれ幸いと溜まった書類を押し付けてきた。

 普段のキフィの破天荒は副官になると悪化するらしく、重要な補佐官会議などの時さえ呼び出されることがある。

 子供じゃないんだからやめてくれという話だ。


「…わかってる」


 キフィにして珍しく殊勝に頷いた。

 彼なりに今がふざけている場合でないと分かっているらしい。


 渡り廊下を過ぎると副補佐官が待っていた。キフィは彼を見つけるとニヤリと嫌な笑みを浮かべた。自覚と行動はまったく違うらしい。


「よう」


「お久しぶりです、クレイ殿」


 何とかよどみなく返答したパース副補佐官はやはり無理をしているようだった。顔の硬直が極度になり今朝より引き攣っている。確か彼は27歳、キフィの10も年上と言うのにこれだ。


「約束どおりお願いします」


「ん。パース、よろ」


 略しすぎだろ、という思いを込めてキフィを横目に睨むとケノワの背中をバンバンたたく。


「大丈夫、俺いい子にしてるから行って来なって」


「分かってます。言葉遣いも訂正を」


 彼をほぼ無視してケノワは彼に上官としての自覚を持たせるため訂正を入れた。


「はいはい」


 キフィもいつもの事なので適当に流す。

 こういったケノワの平然とした態度や彼に命令することからキフィを従えているとう要因なのだが本人は意識していない。


「パース補佐官、本日これよりクレイ特別上級能力士官の護衛・補佐の役割を委譲します。くれぐれも危険な行為はさせないように(他の人間に対して)」


 手にしていた管理書類を手渡すとパース補佐官とキフィを置いて踵を返す。


 そのときパース補佐官がこれからの事に半分泣きそうな顔で縋るように見ているのを無視して。




読者登録ありがとうございます。

嬉しいです。

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