表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Wind flower   作者: swan
第一章
1/76

雨の中で


 乾季が終わろうとしている。


 時折繰り返されるだけだったスコールが、今や一日の半分にも迫り始めた。

 このマムレム王国は、乾季と雨季に季節が分かれている。

 乾季は国を砂まみれにし、雨季は人々に憂鬱を連れて来る。誰かが前に、そう言ったのを覚えている。

 私は、確かそれに雨は歓喜も連れて来ると答えて苦笑いされた。

 しかし、今は少しかの人がそう言ったのが分かる気がする。一刻前に降り始めた雨の中、私は王都レアムドザインの街を走り回っているのだから。


 淡い栗色の髪と感情をあまり映さないといわれるブルーグレイの瞳の私の灰色の軍服は今や沢山の水を吸っている。

 街には雨の中でも沢山の人垣が出来ている。

 その中から、私は自身の上官を探し出さなくてはいけないのだ。

 上官が行く場所はほとんどリストアップしてある。

 上官付きの部下は自分だけではないのだが、残念ながら上官は私以外の者の言葉には耳を貸さない。メモをめくりながら走る。水溜りなど気にせず、泥水が飛び散る。


「キャッ!」


 その小さな叫びに足を止める。振り返ると、花売りの少女のスカートが泥水に染まっている。


「すまない。急いでいたものだから、大丈夫か?」


 声を掛けると少女は傘の影から顔を上げる。


「・・・。」


 淡い巻いた赤毛の少女の顔がゆっくり驚きに染まっていく。この少女見たことがある気がする。どこだったかまでは、残念ながら思い出せないのだが。

 少女の無言の凝視に耐えかねて声を掛ける。


「大丈夫か?」


「は、はいっ。だ、大丈夫です」


「では、すまないが、これで代わりの服を買ってくれ。時間がなくて」


 給料前のなけなしの持ち金を彼女に差し出す。女性物の服の値段なんて分からない。しかし、彼女は花籠と傘を持った手を開かない。


 ―――カーン、カーン、カーン。


 軍本部の敷地にある塔の招集鐘が響き渡る。


「三回…、このままでは間に合わなくなる。」


 ずぶ濡れの手で握っていた紙幣とコインを、無理やり彼女の手に押し付けていく事にする。


 走り出した背中に何か少女が言うのが聞こえたが、雨と雑踏に聞き取れなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ