幼馴染に「運命の相手を見つけた!(※勘違いです)」と宣言したら慰められた
「俺、運命の相手を見つけたかもしれない」
学校終わりの、少し西日が差し込む俺の部屋。俺は天に向かって両手を掲げながら高らかに宣言した。
「……はぁ。またいつもの勘違い?」
そんな俺の言葉に、幼馴染である彼女は呆れたような声で応じる。
俺のベッドに我が物顔で寝転がり、漫画のページをめくりながらスナック菓子をポリポリと食べながら。
まあ、その冷ややかな反応は予想済みだ。
俺が「運命の相手」を見つけるたび、こいつはいつもこういう態度をとる。
そうして結局は勘違いに終わり、鼻で笑われてきた。
だが、今回は違う。
この手には、決定的な物的証拠が握られているんだからな!
「こいつを見てみろよ」
学生新聞を、バシッと幼馴染の目の前に突きつける。
「どれどれ……『飼育小屋でひよこが誕生。飼育部員の苦労が報われる』……へぇ、今度、見にいてみようかしらね」
「そこじゃねぇ! こっちだこっち」
わざとらしくとぼける彼女に対して、ある記事をビシッと指差した。
「なになに、『あなたのクラスの委員長に質問します!』?」
「ああ、見てみろ。あの委員長の趣味と俺の趣味がバッチリあってるってのがわかるだろ?」
そこに写っているのは、我が校が誇る絶世の美女であり、俺に優しく微笑みかけている聖女。
成績優秀、スポーツ万能。誰からも愛される完全無欠の学園のアイドル――そう、委員長である。
「委員長といくつもの共通点があるなんて、これは運命としか言いようがないだろ?」
「そうね。頑張れ」
幼馴染は興味がなさそうに漫画を読みながら、お菓子を食べ続けている。
だが、そんな余裕な顔をしていられるのも今のうちだ。
なんと言ったって、この記事こそが俺と委員長をつなぐ赤い糸に他ならないのだからな!
「ほら、まず見てみろよ。彼女の好きな食べ物! 唐揚げが好きだなんて、こんな偶然があるのだろうか? いや、ないね」
「あんた、唐揚げが好きだもんね。あたしの作ったからあげを食べ過ぎて、動けなくなってたし」
その言葉を聞いた瞬間、条件反射で口の中にじゅわっと唾液があふれてきた。
「あれはたしかに美味かったなぁ……」
思い出すだけで腹が鳴る。こいつの揚げる唐揚げは、控えめに言って絶品だ。
醤油とニンニクの香ばしい匂いに、見事なきつね色に揚がった衣。
サクッとした歯ざわりの衣は素晴らしく、中からは旨味の濃縮されたジューシーな肉汁が溢れ出す。
味付けも完全に俺好みで、文句のつけようがない。
俺がミシュランの覆面調査員だったら、間違いなく三つ星をつけている。
「確か冷凍庫に特売の鶏肉がまだあったはずだから、明日は唐揚げにする?」
「マジか! やったぜ! って、そうじゃない!」
あぶない、あぶない。
危うく、こいつの巧妙な策略で話が脱線させられるところだった。
「おほん……食の趣味が合うなんて、これは運命としか考えようがないだろ?」
俺はわざとらしく咳払いをして、再び力説する。
一方の幼馴染は、漫画から目線派を外さず、ストローでジュースをずずっとすすっている。
だけど、そんな他人事な態度でいられるのも今のうちだ。
「それにこの好きな音楽の欄! 俺とマニアックな音楽の趣味まで同じなんて、天文学的な確率の事象が起こり得るだろうか? いや、ないね」
「そういえば、あたしが作ってあげたプレイリスト。毎日聞いてて飽きないの?」
その言葉で、頭の中で大好きなアーティストの曲が再生され始める。
「飽きるわけ無いだろ。俺の聞きたい曲が全部入ってるわけだし」
あのプレイリストは本当に最高だ。
将来、運命の相手である委員長と結婚するなら、絶対に披露宴で流したいと思うほど気に入っている。
特に一曲目のアップテンポな曲に対して、最後をあのしっとりとしたアンサーソングで締める構成。
あれはもう、完全にわかっているとしか言いようがない。
「そういえば、新しいプレイリストを作ったから共有しておいてあげるわね」
「え? マジか! ありがとな。って、そういう話じゃない!」
くっ、またしても鮮やかに話を脱線させられるところだった。
だが、あいつも内心ではこの完璧な一致に戸惑っているに違いない。
「いや、まさか、音楽の趣味まで合うなんてな。運命以外の何ものでもないね」
俺はさらに熱を込めて語る。
一方の幼馴染は、一切こちらを見ることなく、ただ無心に漫画のページをめくり続けていた。
一見すると馬鹿にしているようだが、心の中ではこの奇跡的な一致に驚愕しているはずだ。
ここで更に畳み掛けてやる!
「そしてなんといっても、ここだ! うちで使ってるシャンプーと同じだなんて、これはもう運命としか言いようがない。間違いないね」
「ああ、シャンプーと言えば無くなりそうだから買っておいてあげたわよ。あんたのお母さん、出張で家にいない日が多いんだから、ちゃんと気をつけなさいよね」
あ、そういえば、そろそろ買わなきゃと思ってすっかり忘れていたっけ。
「サンキュー、後で精算するからレシートよろしくな」
ああいう日用品は、どうにも後回しにしちまうんだよな。
まあ、こいつもよくうちの風呂を勝手に使っているんだし、その辺はお互い様というやつだろう。
「あ、そうだ。あたしこの後夕飯を作るから、風呂掃除はお願いね。あ、洗剤も無くなりそうだったから、ついでに買っていつもの場所に入れておいたから」
「じゃあ、それも一緒に精算しなくちゃな。って、そういう話じゃない!」
あぶないあぶない。
相手も相当追い込まれているのか、なんとかして話を脱線させようと必死のようだ。
だが、そこまで焦っているのなら、もう俺の勝利は揺るぎない。
「同じシャンプーなんて、こんな細かいところまで一致するなんて……これは、まさに運命! これを運命と言わずして、他になんと言えばいいのだろうか?」
うん、完璧だ。
我ながら完璧な論理展開すぎて、怖いくらいだ。
幼馴染のあいつは、向こうを向いたまま肩を小さく震わせている。
さぞ悔しかろう!
今までは散々馬鹿にされてきたが、今回こそは絶対に俺の運命を証明して見せる!
「これはもう、明日学校に行ったら告白するしか……」
「あ、そうそう。先週、委員長と生徒会長が付き合うことになったわよ」
「え?」
なんですと?
「まあ、ぼっちのあんたじゃ気づかないだろうけど、クラスのみんなはその話題で持ちきりよ?」
スナック菓子を頬張りながら、彼女はあっさりと言い放つ。
途端に、俺の視界が真っ暗に染まった。
そんな……そんなことって……。
ここまで『運命』という名のパズルを組み上げ、ようやく最後のピースが揃ったというのに……!
「嘘だぁぁぁっ!」
思わず両手をついて、床を叩く。
圧倒的な絶望。もう終わりだ。俺の運命の扉は、開かれる前に完全に閉ざされてしまった。
「まあ、元気を出しなさいよ。今日の夕飯はチャーハンでいい?」
「……肉たっぷりで、頼む」
「あんたの好きな中華スープもつけてあげるわね」
幼馴染は必死で笑いをこらえながら、夕飯を作るために俺の部屋を出て行った。
クソ……まただ……神様は俺にこんなにも辛い試練を与えてくるというのか!
だが、まだだ。俺の青春はまだ終わっていない!
そんな神様になんて逆らって運命を切り開いてやる!
「次こそは、絶対に運命の相手を見つけてやるぞぉぉぉぉぉ!」
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