鉛玉と鉛球と
自立機械であれば人間と価値の持ち方にそこまでの差はない。
自立機械とは俗にいうアンドロイドのことで、人間に「道具」として使用されるような機械たちとは一線を画す性能を持っている。自らで考え自ら動き、その思考能力は人間を凌駕するほどである。
さらに最近では運動機能も発達してきており、内に引きこもって機械を操っている人間たちはついにその面でも負け始めている。国営放送のオリンピックに映る選手もだんだんと人間から機械に置き換わり始めている。
「シンギュラリティ」が到来する日は案外遠くないのかもしれないと日々思う。
その日の仕事を終えて、帰路に就いた。夜になると町の煙は少しばかり落ち着き、それまで霧がかかっていた光たちも自己主張を始める。町の明かりは人間のものか、機械のものか、それはわからないがそこに一つの動力体がいることを示している。だからなんだというわけでもないのだがやはり人間の本能か、光を見ると少しだけ気持ちが穏やかになるような懐かしい感覚を覚える。
会社に戻ると社長がなにやら重たい表情をしていた。
どうやら会社内で死者が出たらしい。
型落ちした自立機械による殺人だそうだ。この町ではたまにあることで特段珍しいことでもない。その日はその社員に黙祷だけして家に帰ることになった。そのせいで帰宅時間がすこしばかり遅れた。まあいい、ペットを飼っているわけでも植物があるわけでもないのだから帰る時間が違おうがべつに変化というものはないはずであった。
この日までは、
家に帰ると部屋が荒れていた。外から乱気流でも入ってきたか?なんておもったが、そんなわけはない。私は窓を閉めてから家を出る派なのだ。
強盗だった。
部屋の片づけをしているときに事情聴取に来た警察に聞いた話だが、
私の住んでいたマンションに地底からの強盗団が入ったらしく多くの死者がでたらしい。あと少しでも帰ってくるのが早かったら私も巻き込まれていただろう。どうりで部屋に来るまで人の気配を感じなかったわけだ。
気を取り直して部屋の片づけを再開してしばらくたった時、クローゼットの中で何かが動いていることに気づく、見てみると自立機械だった。球状のよくある赤ん坊をあやすための量産型ロボットだ。こんなロボットを購入した覚えはないし、銃弾で撃たれたような跡がついているため今回の事件の際に迷い込んだのだろう。記憶メモリを抜かれていたために事件の最中の記憶は全く持っていないようだが、なぜか私にずいぶんと懐いている。めんどくさいことに、どうやら異常に頑丈で窓から落としても帰ってくる(ここは割と上の階なのだが)さらに面倒くさいことにこのマンションはペット禁制だ。
しかし、懐いてしまったのならしょうがない捨てるわけにもいかないし、(この町で許可なく自立機械を放棄することは重罪なのだ)どうせこのマンションはもう出ていかなければならないのだ。ならこの自立機械を飼うことが許される部屋に引っ越そう。記憶メモリさえ入れれば動くのであれば仕事中のしゃべり相手くらいにはなるだろう。
多くの人間は銃弾一つで死んでいったのにも関わらず機械の体を持っていた。というそれだけでこいつは記憶メモリの交換で済んだというわけだ。そう思うと人間と機械の命の重さはあまりにも違いがあるな。なんて思った。その日はごみ箱に入った自立機械の「マル」を見ながらバネの飛び出たベットで眠りについた。




