煙の町
夏と冬で景色は変わるものだ。
煙の舞う町でもそれは変わらない。
私の生まれた町は空が見えない、排気ガスによって覆われている。
朝でも暗く、夜はさらに暗い。喫煙率はほぼほぼ100パーセントで息を吸うとそれが空気なのかガスなのか、副流煙なのかそれすらわからなくなる。
私はそんな街で配達員をしている。配達といっても手紙ではなく、燃料の配達だ。この街では人の数より機械の数のほうが多いのだ。
私の朝は人に比べて早く、朝四時には機械時計に起こされる。
朝起きてすぐベランダに出て煙草に火をつける。ベランダから見える景色は私のお気に入りで、激安物件だとは思えないほどに遠くまで見通すことができる。
朝食はいつもどうり配給の栄養食だ。段ボールにはたまにゴキブリがついているのだがもはや友達だ。
全ての準備が終わればいよいよ仕事に向かう。四時半には職場に居なければいけないので少しばかりドタバタだ。眠い目をこすりながらトラックのエンジンをかける。
会社に着くと本日の配達場所の書かれた地図と配達燃料が支給される。
まず最初に向かわなければいけないのはごみ処理場。この町唯一にしてなくてはならない施設だ。
私はそういう物がきらいじゃない私たちもそのような職業の一つだと感じているからだ。
ごみ処理場は町のど真ん中にあり、町の中でも一番大きい煙突をはやしている。
今は夏だからごみ処理場の付近は50度にもなる。殺人的な暑さだ。煙に紛れ、どこかで死んでいる人だっているだろう。
こんな労働環境で働いている彼らには改めて感心する。
ごみ処理場の機械に燃料を受け渡すと次の配達場所が待っている。
次の配達地は旧国民団地だった。この団地のある場所は’地底’と呼ばれ困窮者や障害のある者たちが無理やり住まわされている。ここでいう障害という物には型落ちしていたり、パーツの足りない機械たちも含むのだ。
性能の低い機械というものは効率が悪く、燃料ばかり食うものでこのような場所からは多くの燃料配達依頼が届く、需要があるのはありがたいことだが、スラムであるために治安が悪く、一般的にはハズレだといわれる場所だ。
地底へとつづく長いスロープをエンジンブレーキを利かせながら降りていく、降りるにつれ空気は重く、においもきつくなる。排気ガスは空気より重いのだ。地底の壁面をとぐろを巻くように沿いつける配管たちからは黒く、ねばねばとした液体が滴っており、地面には廃油の水たまりが出来上がっていた。
この仕事は配達、というよりかは燃料の補給依頼だ。我々はそのような仕事も受けている。
団地のような大型の施設ともなると配達員がそれぞれの部屋を訪れて受け渡し、というのはほぼ不可能に近いのだ。だから配達員は中央燃料タンクに燃料を補給し、そこから分配器によって各部屋へと届けられる。
トラックを所定の位置へとつけ、トラックから燃料タンクへとパイプを接続する。ゴウンゴウンと爆音が鉄の籠の中を響き渡るが地底の機械たちは目もくれずにそれぞれの仕事を繰り返している。人の姿はどこにもない。いやどちらかというと見えない。この町で人間は力仕事をするもの、というよりかは力仕事をさせるものなのだ。つまり家に引きこもってパソコンをいじっている。かくして人間のほとんどは地底で暮らすこととなったのだ。
補給が始まるとトラックが苦しそうな声を上げる一方でタンクは喜んだような音を出す。この音を聞くたびにこの機械たちが正確には生きているということを思い出すのだ。
補給が終わり空を見ると地底に一本の光が降り注ぐ、地底の燃料タンクのほとんどは中央加熱式発電塔のものだ。中央加熱式発電塔の煙突はこの町で二番目に大きく、一番熱を出す。ほぼほぼ炎にしか見えない煙は天を刺し、上昇気流で雲が解ける。こうして降り注ぐ光は地底に住む人間と地上に住む人間をつなげる役割を持っている気がする。この光が差し込む間だけ、夏の間だけ、両者は同じものを見ているのだ。星も見えないこの町で




