第4話 硬いモンスターは、いいサンドバッグになります
《D-Live 配信中:【初コラボ】噂の彼と中級ダンジョンに行ってみた!》
同接数:158,203人 名無しさん:人多すぎワロタ アンチA:どうせ前回の動画はCGだろ kuma:きたー! 卵ニキ! 名無しさん:今日は何を見せてくれるんだ?
「あ、あー、テステス。みなさんこんにちは! シズクです!」
【練馬・地下岩石ダンジョン(推奨ランクC)】。 ゴツゴツとした岩肌に囲まれた中級ダンジョンの入り口で、シズクはカメラに向かって頭を下げた。
「今日は予告通り、特別ゲストの『剛田響』さんと一緒に探索していきます!」
カメラが横にパンすると、そこには――。
「どうもー。響です。今日の晩御飯のために頑張りまーす」
いつも通りのジャージ姿。装備はゼロ。 手には武器の代わりに、スポーツドリンクのペットボトルだけを持った響が立っていた。
《D-Live コメント欄》
名無しさん:マジでジャージだwww 武器マニア:防具なしで中級ダンジョンとか正気か? アンチA:なめてんの? 岩石ダンジョンの敵は物理耐性高いぞ 名無しさん:死んでも知らんぞ
「響さん、ここは『ロックリザード』や『ストーンゴーレム』が出る、物理攻撃が効きにくいダンジョンです。本当に素手で大丈夫ですか?」
心配そうに尋ねるシズクに、響は屈伸運動をしながら答える。
「大丈夫大丈夫。むしろ硬いほうが、殴った時に手応えがあって気持ちいいし」 「手応え……?」
シズクが首を傾げていると、さっそく地面が揺れた。 岩陰から、全長2メートルほどの巨大なトカゲが現れる。 全身が岩石で覆われたモンスター、『ロックリザード』だ。
「シャァァァァッ!!」
硬質な皮膚は、生半可な剣なら刃こぼれさせるほどの硬度を誇る。
「ひっ、いきなり出ました! 響さん、私がバフを……」
「いいよ、そのままで」
響は軽い足取りでリザードに歩み寄る。 リザードがその強靭な尻尾を振り回し、響を薙ぎ払おうとした。
「おっと」
響は最小限の動きで尻尾を避けると、無防備になったリザードの横腹を見下ろした。
「ここ、いい音がしそうだ」
彼は短く息を吐き、腰の入った**「ボディブロー」**を放った。
ズドォォォォォォン!!!
「ギャッ……!?」
鈍い衝撃音と共に、ロックリザードの体が「くの字」に折れ曲がった。 そして、まるで大砲で撃たれたように、ダンジョンの奥へと水平に吹っ飛んでいった。
ドガガガガッ!(壁に激突して砕ける音)
《D-Live コメント欄》
名無しさん:は? kuma:岩トカゲが……飛んだ? 武器マニア:嘘だろ、あいつ物理耐性Sだぞ!? アンチA:は? CGだろ? 今のCGだよな? 名無しさん:今のパンチ、空気が震えてなかったか?
「うん、いいインパクトだった。今のパンチ、拳のこの部分が綺麗に入ったな」
響は自分の拳を満足そうに眺めている。 シズクは口をパクパクさせながら、彼と吹き飛んだリザード(塵)を交互に見た。
「ひ、響さん……あの中級モンスターを一撃……?」 「ん? ああ、あいつら硬いからサンドバッグに丁度いいんだよ。壊れにくいし」
「壊れてます! 粉々です!」
シズクのツッコミも響には届かない。 二人はそのまま奥へと進んでいく。
道中現れるモンスターたちは、すべて響の「軽い運動」の餌食になった。 『アイアンアント』はデコピンで弾き飛ばされ、『マッドゴーレム』は張り手で上半身が消し飛んだ。
そして、ダンジョンの最深部。 広いドーム状の空間に、ボスモンスターが鎮座していた。
ゴゴゴゴゴ……!
全身が鈍色に輝く金属で構成された巨人。 中級ダンジョンのボス、『スチールゴーレム』だ。 その防御力は戦車並み。魔法ですら弾く鉄壁の要塞。
《D-Live コメント欄》
名無しさん:出た、スチールゴーレム! 武器マニア:こいつはヤバい。打撃無効だぞ 名無しさん:逃げろ! 素手じゃ爪が割れるぞ! シズク親衛隊:シズクちゃん下がって!
コメント欄が警告で埋め尽くされる中、響は目を輝かせた。
「おぉー! あれ、すっげぇ硬そう!」
「ひ、響さん! あれは鋼鉄です! 人の骨なんて簡単に砕かれます!」
「鋼鉄かぁ……。試してみる価値はあるな」
響はニヤリと笑うと、ゆっくりと構えを取った。 右手を高く掲げ、手刀の形を作る。
「グルァァァァッ!!」
ゴーレムが巨大な鉄拳を振り下ろす。 響はそれを避けない。
「よっ!」
振り下ろされる鉄拳に対し、響は真っ向から**「手刀」**を振り下ろした。
ガギィィィィィィィン!!!!!
凄まじい金属音がダンジョン内に響き渡り、火花が散る。 視聴者の誰もが、響の腕が折れたと思った。
しかし。
「――よし、切れた」
響が呟くのと同時に。
ズズ……ズズズ……ドォォン!!
スチールゴーレムの巨大な腕が、肘から先で綺麗に切断され、地面に落ちた。 切断面は、まるでレーザーカッターで切ったかのように滑らかに赤熱している。
「ガ……?」
ゴーレムが動きを止める。 響はその隙を見逃さず、今度は胴体に向かって、目にも止まらぬ速さで突きを放った。
「寸勁」
バギィッ!!!!
背中の装甲を突き破り、衝撃波が貫通する。 スチールゴーレムはその場に崩れ落ち、光の粒子となって消滅した。
後に残ったのは、レア素材である『高純度スチール』の塊だけ。
《D-Live コメント欄》
名無しさん:…… kuma:…… 武器マニア:鉄を……手刀で……切った……? アンチA:……(退出しました) 名無しさん:【速報】人類、武器を捨てる時が来る 名無しさん:これもうSランクだろwww
「ふぅー。ちょっと手がジーンとしたかも。やっぱり鋼鉄は硬いなぁ」
響は手をプラプラと振りながら、落ちているドロップアイテムを拾い上げた。
「シズクちゃん、これお土産? 結構重いから、漬物石に良さそう」
「そ、それは……一個数万円する『ミスリル銀』の原石です……漬物石にしないでください……」
シズクは遠い目をしていた。 コメント欄は、スパチャ(投げ銭)の嵐で画面が見えなくなっている。
「じゃあ、いい運動したし帰ろうか! 今日のご飯なに?」 「……ハンバーグです」 「やった! ハンバーグ!」
こうして、剛田響の「中級ダンジョン散歩配信」は、 『物理無効』という概念を物理的に破壊して幕を閉じた。 この配信の同時接続数は最終的に50万人を超え、彼は一躍「時の人」となるのだが――。
本人はまだ、今晩のハンバーグのことで頭がいっぱいだった。




