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第15話 最強のスイカ割り

合宿最終日、夕暮れ時。


楽しかった剛田組の慰安旅行兼、シズクの配信合宿もいよいよフィナーレを迎えていた。 空は茜色に染まり、波音が心地よく響く。 そんなエモーショナルな雰囲気の中、砂浜には異様な物体が鎮座していた。


「……ねえ剛田。これ、本当にスイカ?」


カレンが恐る恐る指差したのは、直径1メートルはある巨大な球体。 色は緑と黒の縞模様だが、表面が金属光沢を帯びてギラギラと輝いている。 そして何より、置かれた瞬間に「ズシン」と重い音がして、砂浜が沈み込んだ。


「Yes! カレン! これは私がダンジョンの深層で見つけたレア食材、『アイアン・ウォーターメロン(鉄スイカ)』デース!」


ボブが誇らしげに筋肉ポーズを決める。


「硬度はアダマンタイト並み! 味は超濃厚! 普通の武器では傷一つつきませんが、Masterなら割れると信じてマース!」


「アダマンタイト並みのスイカって何よ……食べるものじゃないでしょ……」


ドン引きするカレンをよそに、響は目を輝かせていた。


「すごい! 鉄スイカなんて初めて見た! 中身が楽しみだなぁ」 「響さん、これ割るんですか? 包丁も通らないんじゃ……」


シズクが心配そうに見守る中、響は手拭いで目隠しをした。


「大丈夫大丈夫。スイカ割りってのはね、心の目でするもんなんだよ」 「(物理的に硬いって話をしてるんですけど……)」


響は棒切れ……ではなく、ボブが用意した特注の「オリハルコン製バット」を持った。 さすがのボブも、木の棒では衝撃に耐えられないと判断したらしい。


「ではオヤジ! 私が回転させて差し上げます!」


若頭が響の肩を掴み、グルグルと回し始める。


「いーち! にー! さーん! ……じゅっ!」


三半規管も鍛え上げられている響は、10回回されてもピクリともふらつかない。 しかし、方向感覚は完全にランダムだ。


「よーし、どっちだー?」


響がバットを構える。 周囲には、剛田組の構成員500人と、シズク、カレン、ボブ。そして配信を見守る100万人の視聴者。 固唾を飲んで見守る中、誘導が始まる。


「響さん! もうちょっと右です!」 「行き過ぎよ! 左、左!」 「Master! ストレート! そのまま直進デース!」


みんなの声援を受け、響はジリジリとスイカへ近づいていく。 その足取りは、獲物を狙う猛獣のように静かで、砂埃ひとつ立てない。


(……感じる。そこにあるのは、極上の甘み……!)


響の研ぎ澄まされた感覚(食欲)が、鉄スイカの位置を捉えた。


「――ここだね?」


響が足を止める。 目の前には、鋼鉄の輝きを放つ巨大スイカ。


「行けぇぇぇオヤジィィ!!」 「割っちゃってください!」


歓声が最高潮に達した。 響は大きく息を吸い込み、オリハルコンのバットを頭上に振りかぶった。


「美味しくなぁれ……!」


全身のバネを使った、渾身の一撃。 だが、響は直前で思った。


(待てよ? バットで叩いたら、中身が潰れて果汁がこぼれちゃうかも……?)


食への執着が、彼の脳内で瞬時の軌道修正を行わせた。 彼は振り下ろしかけたバットを放り投げ、空いた右手を握りしめた。


「やっぱり、手刀で優しく……いや、**『正拳突き』**で芯を叩く!!」


優しくない。 絶対に優しくない選択だった。


「せいッ!!!!」


響の拳が、鉄スイカの中心に突き刺さる。


カッ!!!!


一瞬、世界から音が消えた。 あまりの衝撃速度に、空気が圧縮され、白光したのだ。


その直後。


ズドォォォォォォォンッ!!!!!!!


天地をひっくり返したような轟音。 衝撃波が放射状に広がり、砂浜の砂が一瞬で吹き飛び、クレーターが形成される。 剛田組の男たちは吹き飛ばされ、シズクとカレンはボブが体を張って守った。


「な、なにごと!?」 「爆発!?」


砂煙が晴れると、そこには――。


「あー、よかった! 綺麗に割れた!」


クレーターの中心で、真っ二つに割れた鉄スイカを満足そうに眺める響の姿があった。 断面は鏡のように滑らかで、中からはルビー色に輝く果肉が顔を覗かせている。 果汁一滴すら無駄にしていない、神業の「断ち割り」だ。


「す、すげぇ……」 「アダマンタイト(並みに硬いスイカ)を、素手で……?」


全員が響の偉業に言葉を失う。 しかし、ボブだけは震える指で、響の「背後」を指差していた。


「M、Master……Look at that……(あれを見てください)」


「ん?」


響が振り返る。 スイカの後方、延長線上には、海を挟んで数キロ先に「岩山」があったはずだった。 そこには、手つかずのダンジョン『海鳴りの洞窟』があり、未解明の魔窟として恐れられていた場所だ。


しかし、今。


その岩山の中央に、**巨大な「風穴」**が空いていた。


「……え?」


カレンが目をこする。 見間違いではない。 響の正拳突きの衝撃波(余波)が、スイカを貫通し、海を裂き、数キロ先の岩山に到達。


そのまま山をくり抜き、ダンジョンを物理的に「消滅」させてしまったのだ。 ドーナツ状に残った山の残骸が、ガラガラと崩れ落ちていく。


《D-Live コメント欄》


名無しさん:……

kuma:マップが変わった

武器マニア:スイカ割りの余波で地形が変わるって何?

アンチ:剛田さん、日本沈没させる気ですか?

地図製作会社:また地図を書き直さないといけない……


「あちゃー。ちょっと力が入りすぎたかな?」


響は頭をかいた。 山が消えたことよりも、自分の力加減のミスを反省しているようだ。


「まあいっか! 誰も住んでない山だし! それよりみんな、スイカ食べようぜ!」


響は巨大なスイカの欠片を持ち上げ、カレンたちに配り始めた。


「ほら神楽さん、一番甘い真ん中のところ!」 「あ、ありがとう……って、私が驚いてるのはそこじゃないのよ!?」


カレンはツッコミながらも、スイカを受け取った。 一口食べると、濃厚な甘みとシャリシャリとした食感が口いっぱいに広がる。


「……っ! 美味しい!」 「でしょー! 運動した後のスイカは最高だね!」


「Yes! Master! This is Power Taste!」


ボブも涙を流しながらかぶりつく。 背景では、崩壊したダンジョンから逃げ出した魔物たちが、海に落ちて溺れているのが見えたが、剛田組が「ついで」に網で捕獲していた。


「今日の晩御飯は、スイカと魔物の海鮮鍋だな!」 「オヤジ! 最高です!」


夕日が沈む水平線。 山一つを犠牲にして行われた「最強のスイカ割り」は、甘い果汁と爆笑の中で幕を閉じた。


こうして、剛田響の夏休み合宿は終了した。 彼が残した伝説――「海を浄化した」「Sランク外国人を弟子にした」「地図を変えた」――は、新学期の学校でまた大きな波紋を呼ぶことになる。


「あー、楽しかった! 夏休みの宿題、まだ何もやってないけど!」


帰りのバスの中で、響の明るい声が響いた。 最強の高校生に、最大の敵「宿題」が迫っていた。


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