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第12話 剛田組、海を浄化する

8月2日。快晴。


ギラギラと照りつける太陽の下、湘南の海はこれ以上ないほどの海水浴日和を迎えていた。


《D-Live 配信中:【夏休みSP】今日は海からお届け! 水着回だよ!》


同接数:850,000人

名無しさん:うぉォォォ! 水着きたァァァ!!

kuma:シズクちゃん可愛い! カレン様美しい!

武器マニア:剛田は? 剛田の筋肉は見れるの?

アンチ:どうせ人混みでまともな配信できないだろw


「みなさーん、こんにちは! シズクです! 今日は約束通り、海にやってきました!」


白い砂浜に、シズクの元気な声が響く。 彼女は清楚な白いフリルのついたワンピース水着姿。隣には、対照的な情熱的な赤のビキニを着こなしたカレンが、腕を組んで立っていた。


「ちょ、ちょっとシズク! カメラ近すぎない!? あと、なんで私がこんな格好……!」 「カレンさん、すごく似合ってますよ! スタイル抜群ですし!」


「べ、別にアンタに見せるために着たんじゃないからね! 剛田が海パン一丁だって言うから、バランスを取るために……!」


カレンは真っ赤になりながら、視線をキョロキョロと彷徨わせる。


「あれ? でもシズク。夏休みの湘南って言ったら、もっとこう……芋洗い状態なものじゃないの?」


カレンの指摘はもっともだった。 お盆前のこの時期、人気のビーチは足の踏み場もないほど混雑しているのが常識だ。 しかし、彼女たちの目の前に広がる光景は、異様だった。


ピカァァァァン……☆


見渡す限りの白い砂浜には、ゴミ一つ落ちていない。 空き缶も、タバコの吸い殻も、流木すらもない。 まるで、たった今完成したばかりのテーマパークのように、砂の一粒一粒までが輝いているのだ。 そして、観光客の姿が、極端に少ない。


「なんか、すごい綺麗だね。穴場なのかな?」 「そんなわけないでしょ。ここ、一番有名なビーチよ?」


二人が首を傾げていると、砂浜の向こうから、浮き輪を抱えた響が走ってきた。 彼は期待通りの競泳用海パン一丁。鍛え上げられた逆三角形の肉体が、太陽光を反射して神々しいほどのオーラを放っている。


「おーい! シズクちゃん、神楽さん! ここすごいぞ! めちゃくちゃ空いてる!」 「響さん! その格好、気合入ってますね!」 「おう! 今日は本気で泳ぐからな。バタフライで沖のブイまで何秒で行けるか測るんだ」


響は準備運動をしながら、感心したように周囲を見渡した。


「それにしても、最近の海ってこんなに綺麗なんだなぁ。日本のマナーも捨てたもんじゃないね」


「――いえ、オヤジ。これは『マナー』ではありません。『清掃』の成果です」


響の背後から、ドスの利いた声がした。


「「「オヤジィィィッ!! お疲れ様ですッッ!!!」」」


ズラァァァァッ……!!


砂浜の左右から現れたのは、総勢500名の屈強な男たち。 気温35度を超える炎天下の中、全員がビシッと黒スーツを着こなし、サングラスをかけている。 彼らの手には、武器――ではなく、ゴミ袋と火バサミ、そしてデッキブラシが握られていた。


「げぇっ、剛田組……!?」


カレンが悲鳴を上げる。 剛田組の若頭(リーダー格)が、響の前に進み出て深々と頭を下げた。


「報告します! オヤジが快適にバカンスを楽しめるよう、我々剛田組が昨晩から徹夜でビーチの『浄化作業』を行いました!」


「浄化作業?」


響がキョトンとすると、若頭は胸を張って説明を始めた。


「ヘイッ! まず、砂浜に落ちているゴミを、ピンセットを使ってミクロ単位で除去! さらに、海中の岩場に付着した苔をデッキブラシで研磨! 現在のビーチの清潔度は、手術室レベルを維持しております!」


「手術室レベルの砂浜って何よ……」とシズクが突っ込むが、彼らは大真面目だ。


「さらに! 観光客を装ったスリ、置き引き、ナンパ目的のチャラ男、あわせて120名を確保! 事務所裏でたっぷりと『マナー講習』を行いました!」 「ひぃッ……」


視聴者がコメント欄で震え上がる。彼らの言う「マナー講習」が何を意味するのか、想像するだに恐ろしい。


「そして! あちらをご覧ください!」


若頭が指差した波打ち際では、数人のスーツの男たちが、網にかかった何かを引きずり上げていた。


「離せぇ! 俺たちはただの漁師だ!」 「嘘つけ! ここは禁漁区だぞオラァ! そのアワビとサザエを置いてけ!」


密漁者だ。 彼らは剛田組の「海上警備班」によって、物理的に(ゴムボートごと投げ飛ばされて)拿捕されたのだ。


「このように、海の生態系を脅かす害虫も駆除しておきました! これでオヤジも安心して泳げます!」


「おおー! すごいじゃん!」


響は目を輝かせて手を叩いた。


「みんな、偉いなぁ! ゴミ拾いだけじゃなくて、海の生き物まで守ってるのか! まさにボランティアの鏡だね!」


「「「もったいなきお言葉!! 感無量であります!!!」」」


500人の男たちが、砂浜に頭を擦りつけて号泣する。 響の「ボランティア」という言葉を、彼らは「シマの完全掌握と浄化」と都合よく解釈していた。


《D-Live コメント欄》


名無しさん:これもう日本の警察より優秀だろwww

kuma:ヤクザがビーチを掃除して密漁者を捕まえる優しい世界

武器マニア:スーツで海に入ってる奴らいて草。暑くないのか

アンチ:剛田組に入りたい。どこで採用してますか?

シズク親衛隊:シズクちゃんの水着が見えなくなるから、おっさん達は画面端に寄って!


「じゃあ、せっかく綺麗になった海だし、早速泳ごうか!」


響は準備運動を終えると、海に向かって走り出した。


「あ、待ちなさいよ剛田! 私とシズクが浮き輪を膨らますの手伝いなさいよ!」 「えー、自分でやりなよ神楽さん。肺活量のトレーニングになるよ?」 「あんたねぇ……!」


キャッキャとはしゃぐ(?)三人。 その周囲を、黒スーツの集団が厳重に警備するというシュールな光景。


完璧に「浄化」された剛田プライベートビーチで、最強高校生の夏休みが始まった。 しかし、彼らはまだ知らなかった。 彼らが駆除した「害虫」は人間だけではなかったことを。


そして、剛田組が綺麗にしすぎた海が、逆に「とんでもないモノ」を引き寄せてしまったことを――。


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