第7話 家出決行日……のはずが?
スザンヌ姉さんに納品物を渡して、五日目になった。あっという間だ。
私は自室兼工房で、のんびり引きこもりライフを満喫していた。
食料は時々隙を見て貯蔵庫から拝借していく。材料費や買う物リストは前から私が把握して書いていたので、いつもの場所に置いておけば勝手に買ってくる。買い出しに行く侍女たちは文字が読めないので、リストの紙を見せて買うよう頼んであった。だから何人分の料理なのかその時点では気付かれないし、両親の帳簿の付け方は雑なので発覚したとしても、ずっと後だろう。
それよりも騎士に捕縛されるほうが先かもしれないわね。
転移魔導具と認識阻害魔導具を使えば、怪しまれずに食事は手に入る。お風呂とトイレは部屋に作ったし、洗濯や掃除は前世の記憶を取り戻したこともあるので、掃除機と洗濯機を魔導具で再現してみた。ドラム式で乾燥もできるので干す必要も無い。
私は普通の人よりも魔力量が多いこともあり、前世の知識をフル活用して魔導具作りに勤しむ。あー楽しい。
家を出る準備も出来ている。
洗濯機や掃除機、冷蔵庫など必要な魔導具は空間収納魔導具にしまっている。座標空間の理論を思い出したことで、作れたのよね! 今はクローゼットぶんぐらい狭いけれど、改良すればもう少し広くなるはず!
今日が五日目! 結果から言って、魔導懐中時計の持ち主が現れませんでしたーーーー。残念。あーー、日が傾きつつある。そうなったらあっという間に夜だ。少し期待したけれど、そう都合良くはいかないわよね。
「まあ、しょうがない」
そう思いながらも私は騎士団詰所と教会に証拠を含めた録画映像を添付して、使い鳩に持たせて送った。後一時間もすれば空はオレンジ色の染まりきるだろう。
使い鳩は私が作った連絡手段魔導具の一つだ。スザンヌ姉さんは私の告発を恐れて、なんらかの包囲網を張り巡らせているかもしれないが、それなら隠蔽できないだけの数を揃えれば良い。もちろん、私には人脈なんてないので、使い捨ての魔導具を用いる。魔力量が多いからこそできる芸当だ。
たとえば教会や騎士団に姉の協力者がいた場合、もみ消される可能性がある。だからこそ王城と教会には30羽ほどの鳩を送ることで握り潰すのを防ぐ。同時に紙鳥の魔導具は、一定時間が経つと紙に戻るように作った。これはなんと1,000羽。千羽鶴を思い出して頑張ってみました!
紙鳥は時間式で紙に戻り、その紙には『リーニャ商会会長の息子の妻スザンヌが、妹のロゼッタを奴隷紋で縛り付ける。今までの魔導具の功績も手柄を横取りしたものだ』と。
これでホテル事業も廃業に追い込まれるだろう。屋敷で私に優しかった使用人たちは、すでにここには残っていない。だからこそ遠慮なんてせず全力で潰せるのだ。
***
紙鳥の魔導具を1,000羽ほど窓から飛ばしたところで、ドアをノックする音が響く。バレるの早すぎ!?
「ロゼッタ! 開けなさい!! アンタに会いたいという人が来ているのよ! ほら!!」
姉の怒鳴り声にドキリとしたが、バレてはいないみたい。
来客。もしかして、魔導懐中時計の持ち主? ううん、まだ分からないわ!
うーーーん。もう逃げる気だったんだけれど……。でもあの魔導懐中時計の持ち主かもしれないし、会うだけ会ってみようかな?
予定が狂ったものの、私は素早く荷物を空間収納魔導具に格納した。この空間格納魔導具の核はブレスレット型にしているので、持ち運びも便利だったりする。取り上げられないように魔法術式ロックも完璧!
持っている衣服の中で仕立て直した服に袖を通す。黒のスカートには銀の刺繍、白のブラウスは黒の刺繍を使って付与刺繍加護を施しておいた。靴は革で足が疲れないよう重力変化魔導具を搭載している。髪を結ぶリボンもミサンガの要領で作り、こちらもしっかり防護魔法を付与しておいた。
これなら安全なはず!
そう思っていても、やっぱり怖い。
「ふう」
それでも既に賽は投げられたのだ。自分を鼓舞して、長年住んでいた六畳の部屋から出た。
***
姉は色々嫌味を言っていたが、殴る蹴るなどはしなかった。今そんなことをすれば、これから面会する人に勘付かれるとでも思ったのだろう。すでに姉と家族の破滅は確定なので、嫌味も罵詈雑言も聞き流した。
「お待たせしましたわ」
「──っ」
客間に入った瞬間、ソファに座っていたのは綺麗な身なりの貴族様だった。魔法術式の文言通り、金色の髪にサファイアのような濃い蒼の瞳、彫刻家と思うほど美しい顔立ち。物語の王子様が絵本の中から飛び出してきたかのよう。
年齢的には二十過ぎで、大人っぽい。貴族様と目が合うと、口元が緩んだように見えた──のは、気のせいよね?
いやもしかしたら、私と同じく魔導具好きかもしれない!
身なりを整えていてよかった。客室には不機嫌な姉と困惑する両親、貴族様とその後ろに二人の護衛者が揃っていた。アデーレの姿はないらしい。
「私はジギルと申します。貴女がロゼッタ嬢ですね」
「──っ!」
蕩けるような笑顔に、思わず固まってしまう。だって、あの笑顔はヤバい。絶対に勘違いして、惚れてしまいかねない、そんな表情だったもの。不意打ちだというのも心臓に悪い。
「はい……」
なんとか声を絞り出した。落ち着くのよ、私! 今のはあれ、営業スマイル的なやつだから!
ジギル様はホッとしたような顔をしていたが、すぐに顔が強張った。なぜか後ろにいる護衛者と思われる人たちも私の姿を見るなり、目を見開いて固まっている。
なんで!? そ、そんなに変な服装じゃないはず……。
「いったいどれほどの魔導具をその身に……いや、しかもそれだけでけではないな」
ジギル様の顔色が急に青白くなって、なんだかブツブツ言い始めている。なにかおかしなことをしてしまった?
両親は借りてきた猫のように大人しい。少しの間合わなかったけれど服はヨレヨレだし、顔色も悪い。スザンヌ姉さんはイライラがピークに達しているのか、かなり機嫌が悪く、いつもの笑顔も保てていない。怖っ!
「……ジギル様。これで条件は達成したのですから、お支払いをお願いできますでしょうか?」
「それはもちろん。ですがその前にロゼッタ嬢に質問しても?」
「……どうぞ」
支払い?
あ、魔導懐中時計の修理代ってこと? 条件と言うのは、もしかして「私に会わせないと支払いをしない」と言い出したとか? 姉の苛立ちは、ジギル様に何か勘付かれたという焦りからきている?
姉は笑顔で答えたが、その目は笑っていなかった。私にも『余計なことは喋るな』と目で訴える。殺意の籠もった視線だけれど、別に怖くない。
ジギル様はテーブルの上に魔導懐中時計を置いた。あ、やっぱりこの方が持ち主だったのね。そしてわざわざ私に会いに来たと言うことは──。
「これを修復したのは、姉のスザンナではなくて君で合っているかな?」
「はい、その通りです」
即答した。
「──っ!」
「は? はあああああああああああ!?」
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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