第4話 元婚約者にサヨナラを・後編
フォビオ・ラヴァネッリは、男爵家の四男だ。
茶髪の短い髪に、鳶色の瞳に整った顔立ち。背丈は私よりも少し高いぐらいだろうか。騎士服姿に格好いいと思った時期もあった。
ラヴァネッリ男爵家とは領地のワインを買うなどの事業提携があり、そこから婚約話が持ち上がった。男爵家とはいえ当主となるのは長男であり領地を支える次男は家に残るとしても、三男と、四男は家を出る。
三男のアイザックは文官として王城で勤めており、フォビオは剣を振るう才があったので騎士団に入った。もっとも騎士と言っても街常駐の騎士団で、王城勤めとは違う。独りで生きていくのなら問題は無いが、所帯を持つには養っていく場合、今までの生活水準をかなり下げないと無理だった。もっとも彼は貴族の出だったので、裕福でない平民の生活には耐えられなかったらしい。だからこそ、今回の婿養子に快諾した。
しかも騎士を続けても良いと私が承諾したのも、フォビオにとって願ったり叶ったりだった。だから妹であるアデーレと結婚しても、同じようになると思っていたのだろう。
少し考えればありえないのに、なんでそんな風に思ったのかしら?
「ち、ちょっと待ってくれ。そんなの君との婚約の時にはなかったじゃないか。僕が騎士の仕事を続けても良いと」
「当たり前でしょう。私と結婚するのならの話だもの」
「妹に変わっただけ──」
「私がホテルや屋敷の運営を継ぐのなら今までやってきたことだし貴方の手を借りずにこなせるけれど、アデーレは今から覚えるのよ。一人でできないのでしょう? それに妹を支えるって言ったのだから、騎士の仕事を辞めるのは当然じゃない?」
どうしてそんなことも分からないのだろう。不思議でならない。
「君は……僕は好きなんじゃないのか? だから婚約破棄しても……協力をしてくれると。二番でも愛してくれるならって……ロゼッタならそう言って──」
「はあ? なんで自分の妹と浮気するようなクズ男を好きでいなきゃいけないのよ? 婚約者を大事にしない騎士の風上にも置けないクズを好きな女なんて妹ぐらいじゃない?」
「くず……僕が」
「そうでしょう? 結婚まで秒読みの婚約者を捨てて、よりにもよって妹と婚約したいだなんて、最低なクズ男以外になんだと思っているの?」
そう言ったらフォビオは泣きそうな顔をして、項垂れてしまった。なんで私が彼を好きでい続けるなんて思っているのか本当に謎。
覚醒前だったら奴隷紋もあって、下手に出たかもしれない。でも前世の記憶を取り戻したことで奴隷紋を解除と上書きの目処が付いたのだ。私の状況が変わったの、残念だったわね。
「……酷いわ、姉さん。私のこと嫌いだからこんな意地悪するのね」
「嫌いだけど意地悪ではなくて、正論を言っているの。そんなことも分からないの?」
「え……きら」
「風邪だって教会に行って治癒魔法かけてもらえば、もう少しまともに動けるのに、どうしてしないの?」
「それは……」
「病弱設定は良いけれど、今後はそんな設定は邪魔だと思うわよ。事務仕事だけでも忙しいもの。ああ、そうそう。本当に病弱に見せたいなら夜遊びはしないほうがいいと思うわ」
「なんで……それを」
「は? アデーレが夜遊び?」
「あら。フォビオとの逢瀬じゃなかったの? じゃあ、相手は一体誰なのかしら」
「──っ」
ズバズバ指摘する言葉に、アデーレは涙ぐむだけで言い淀む。フォビオはアデーレの夜遊びのことを知らないらしい。フォビオと夜に会っているのかと思っていたけれど、どうやら別に男がいそうね。まあ、私にはもう関係ないけれど。
両親は何か言いたげだったが、口にしたら私に秒で言い負かされると察したのだろう。ここで第三者に、奴隷紋のことを暴露すれば騎士である彼の立場上、両親と妹を捕縛しなければならなくなる。騎士の誓約があるので、犯罪に加担するようなことをすると誓約した教会に伝わるようになっていた。
過去、治安維持と取り締まる側の汚職が多かったためできた制度である。
だからこそ騎士になるには、清廉潔白でなければならない。不倫は確実にアウトだけれど、浮気は犯罪としてはグレーかな。まあ心象はマイナスになるから、遅かれ早かれ退職になるんじゃない?
「…………」
今までフォビオに何度か助けを求めたことがあった。でも奴隷紋であらかじめ他人に話せないよう魔法術式の条件を組んでいたらしく、私の口から話そうとすると、一瞬で気絶するような痛みが走る。だから私の口から言う術がなかったのだ。
何度か気絶してもフォビオは、最後まで異変に気づくことすらなかったのよね。
両親の沈黙はある意味正解だわ。今のところだけれど。
「……っ」
「ろ、ロゼッタ」
「それじゃあ、ごきげんよう」
言いたいことを言いまくった後で、私はさっさと客間を出た。
フォビオが追いかけてくることはなかった。サヨウナラ、私の初恋。そして貴方がクズだったからこそ、心置きなく旅立てるわ。
あとはスザンヌ姉さんが来るまでに、どれだけ準備をできるかに掛かっている。すぐに家を出られれば良いのだけれど、それじゃあ以前と同じで屋敷を出た瞬間に、激痛が走って気絶する。
だからここから出る準備がいるのだ。
幸いにもシュプゼーレ聖魔法国に居る以上、納品日まで戻ってこないだろう。もっとも両親から通信魔導具で連絡を受けてすぐ戻ってくる可能性は否めない。
その間に奴隷紋の解析及び解除、家を出る荷物をまとめておく。厨房に寄って、数日分の食料を袋に入れて自室に戻った。私が工房の仕事で数日籠ることがあるので、料理長たちは別段気にしない。
今日は無視らしいので、面倒がなくて助かる。
こんな地獄からとっとと捨てて、私は私がしたいことをするわ!
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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